11話『アイムアジャッジマン』.19
【目眩】によりぼやけた目でよく見ると、赤い小さな実がいくつも入った果物であった。俺はそれから落ちた六粒を手に取り、食べようとするもふと我に帰り、その実⋯⋯ザクロを投げ捨てる。
「どうした、食わないのか?こんなに美味しいのに」
リヒトがザクロを食べながらそういう。
「いろんな力持ってんだな、お前」
「なんのことだ?」
リヒトはニヤけながらそういう。
「ザクロはギリシャ神話で大地と豊穣の女神デメテルの娘、ペルセポネをハーデスが誘拐した際に食べさせた実。食べたら何かデメリットがあるんだろ?」
「なぜわかった?」
「お前の今までの力から、冥府等の死後の世界が関係していることは見てとれる。そして、ザクロは現実世界の果物でこちらにはないから、なんらかの能力であることもわかる。そこにプラス、六粒のザクロ。ペルセポネが食べたのもちょうど六粒。故に気づいた」
「そうか、たまたま六粒落ちたんだが、運がいいな。そのザクロは食べると、食べた分だけステータスの最大値を削る。HPを含めてな。そして、それ以上回復できなくなる。例えば、HPが100のやつがそのザクロの100粒ほど食べると、上限は100と表示されるが90より上が削れて回復できなくなる」
「くそ能力だな」
会話の間に回復をしようと試みたものの、【麻痺】で体を思うように動かせず、回復ができない。
やばいぞ、これ。先手を取られたら、負ける。こちらから先に仕掛けて、優位に立てる状況を作り出すには⋯⋯
そんなことを考えている時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「おい、大丈夫かディグニ」
採掘を終えたノーシュが帰ってきたのだ。
「何があったんだ?」
「いや、ちょっとな」
ノーシュはディグニの体力が削られているのを見て、回復ポーションをかける。ディグニの体力が全回復したところで、【麻痺】と【目眩】を治すためにそれぞれの状態異常を解除するポーションを飲ませ、五体満足の状態にする。
「お前がやったのか」
ディグニから目を離し、周囲を見まわすと立っていた一人の男。赤いネームプレートの男にノーシュは問う。
「⋯⋯」
しかしその男、リヒトは何も喋らない。
「回復したら加勢しろ。二人で倒すぞ」
ノーシュが駆け出す。
「おい、待て」
ディグニがノーシュを止めようとする。
ディグニは感じたのだ。ノーシュがやってはいけないことをしたということを、重大なミスを犯したということを。
「【脚筋力増強】!」
ノーシュは十八番スキルでリヒトに近づくも、ディグニが「待て」といったことからリヒトを警戒。ある程度の距離を取りつつ【跳躍空気板】で高速移動。いつでも首を狩れる状態にする。
「なぜお前は、俺の相棒と戦っている」
リヒトは答えない。無言のまま突っ立ている。まるで、失恋による喪失感で魂が抜けた人のように。
だがしかし、その目は殺気による漆黒の色で満ちている。
「なぜ喋らない?いや、喋らなくてもいい」
ノーシュは心の中で、レッドネームとはまともな会話ができないからなと呟く。
パキッ
リヒトが一歩足をずらした時、小枝を踏みでもしたのか、音がする。
それを合図に、ノーシュがリヒトに向かって跳躍空気板を使って、弾丸のように飛び出す。そして鎢鋼之短剱を逆手で持ち、首を斬ろうとする。
「【死神の断罪】」
しかし、リヒトが独り言のような声でスキル名を唱えると、リヒトの手が目にも止まらぬ速さで回転し、ノーシュの胴と頭が分かれ地面に落ち、ノーシュは攻撃することも許されず死ぬ。
誤字脱字&ノーシュの言葉遣いがあれですがとりあえず気にしないでください。後で直します。




