断罪されそうに見えますか?ただの痴話喧嘩なのでお気になさらず!
初投稿です。お気楽にサクッとどうぞ!
「ブリジット・フィリドール公爵令嬢!其方がキャサリン嬢を虐げたというのは本当か?!」
豪華絢爛な社交パーティで私の婚約者が声を張り上げた。 ちなみに私の婚約者はこの国の第二王子で、顔よし、スタイルよし、性格はちょっとアレだけど積極的にいろんな事業をおこして高給取りなので中々の好物件なのである。
「はて?何のことでしょう?その女性のことなんて私は何にも知らず…」
ひとまずすっとぼけてみる。 第二殿下はわたくしの反応に安心したようで、途端に顔をほころばせた。
「そ、そうか!ではただの噂なのだな?!良かった良かっ…」
「そうですね、わたくしはただ、その女性がイケメン好きのロクでもないクズ女だということくらいしか知らず…」
「めっちゃ暴言吐いちゃってる〜!」
第二殿下がほっとしたのも束の間、私の言葉で途端にギョッとした顔に変わった。 まるで、丸のみした卵が意外に大きかったニシキヘビのように目を白黒させている。
「何でだ?!キャサリン嬢が其方に何をしたというのだ?!」
「あら嫌ですわね。私のオモチャを勝手に奪おうとしたから、軽くわからせてあげようとしただけですのよ?」
「其方のオモチャを…?!本当であればそれは確かに嘆かわしいことだが、しかし話し合いという方法も…!」
「ふふっ。話し合いなんて悠長なことしてられませんでしたわ? だってあの女、私のおもちゃにベッタリ引っ付いて、あろうことか、胸を押し付けていたんですのよ?」
「む、胸を‘…?いや、でも、彼女に悪気があったわけでは…」
「そうして何よりも許し難いのはですね、私のオモチャが鼻の下伸ばして…! 」
「オモチャって人間だったの?!可哀想!物扱いやめてあげて?!」
第二殿下がなんだか哀れみのお顔になっている。
「もたれかかるキャサリン嬢からそっと距離を置いたかと思えば『キャサリン嬢、エスコート無しで歩けないほど体調でも悪いのだろうか?そうだとしたなら側近に保健室に付き添わせるが…』という過剰なお心遣いをして…!」
「ん?なんか最近私も似たような記憶が…」
「キャサリン嬢が『第二殿下に付き添っていただきたいのです…』などと妄言を…!」
「やっぱり私だった?!オモチャ扱いなの私?!」
「あまつさえその豊満な胸をこれみよがしにオモチャに擦り付けて…!」
「やっぱりオモチャって言ってるよね?!ね?!」
「上目遣いで保健室に誘うなんて身の程知らずな行動を…!」
「いや、でも、私はしっかり距離を空けようとしていたハズ…「だまらっしゃい」はい!」
社交パーティーの観客たちが少しずつ私たちに注目を始める。
「そもそもですね、オモチャ殿下」
「ねぇ!私は仮にも王子なんだけど!敬う気ある?!」
「正義感と優しさだけが取り柄の単純思考のオモチャ殿下に色目を使う時点で下心あるに決まってるんですよ!」
「またオモチャって言ったしひどいこと言われている気がする」
「そこで私は看破しました」
「ねぇ、私の話、聞いてくれる?」
「おそらく、あの女は隣国の諜報員だと…!」
「めっちゃ話飛んでるよね?!そんなわけ…」
パリン。
グラスが割れた音がして振り返ると、キャサリン嬢が呆然としていた。
社交会場の参加者たちはもはや全員ギャラリーと化し、キャサリン嬢の動向を見守っている。
「私が諜報員だなんて、誰にも知られていない極秘事項なはず…!な、なぜそれを…!」
「いやいや、キャサリン嬢は自分が諜報員だって認めるんかい!!」
オモチャ殿下は何だか声を荒げることが多いわね。精神が不安定なお年頃なのかしら。
「それはもちろん、キャサリン嬢が諜報員だと、とある筋から聞いたからですわ」
「う、うそよ…!そんなの、私の直接の依頼主である隣国の王太子しか…!」
「いやいや、めっちゃ黒幕が誰か喋っちゃってるけど大丈夫なのこの子!どうしよう!捕らえた方がいい流れ?!」
殿下がわたわたと忙しない。
もっと優雅に事を運べないのかしらね。
「殿下、落ち着いてくださいませ。あなたのお父君なんてこの前、愛人にしようとした平民女性が実は生き別れの妹だったと知った時も眉一つ動かさず「…そうか」と平常心でしたわよ」
「お父上、愛人作ろうとしてたの?!てか王家の血がなんでそんな平民になってるの?!事件の匂いがプンプンしてるよね?!」
「まぁそれも隣国の王様が、当時小さかった王妹様に一目惚れして誘拐しようとした挙句途中で逃げられてしまったのが原因でしたけど」
「ちょっと隣国が傍迷惑すぎない?!戦争が起こる案件だよね!?」
「でも王妹様が実は庶民の暮らしに憧れていて王城に戻るのを一旦先延ばしし、これも庶民について学べる良い機会とスローライフを20年ほど堪能した後に、試しに商売を始めてみたらあれよあれよという間に王国1の商売人にまで成り上がってしまって…」
「叔母様!何やってるの!気が長すぎるし女傑すぎない?!」
第二殿下は突っ込むが、わたくしは華麗にスルーします。
些細なことにかまっている暇はありませんし。
「その間隣国の王様に『お前がロリコンってことをバラされたくなかったらスポンサーになれよ』と脅して隣国の国庫予算半分くらいむしり取っていたのでこの話は終結したんですけど」
「ちょ!今ここで盛大にバラされている王様可哀想だし国庫予算をみすみす半分も取られている時点で情けないんだけど!」
「そこで隣国の王太子様が我が国からお金を引き出そうとハニートラップを仕掛け、そのハニトラのスタッフに見事当選したのがキャサリン嬢…」
もう一度キャサリン嬢に目を向けると、キャサリン嬢は当時を思い出したのか、すっかりうなだれていた。
「あれは厳しい戦いでしたわ。第二殿下のお好みであろう銀髪で青い瞳を持つものが一堂に介し…」
「何で私の性癖情報漏れてるの?!そんなにわかりやすいの?!」
「みんなで熾烈なじゃんけん大会を…!」
「意外と穏便な決め方だったんだね?!」
「穏便?!何を言うのですか!じゃんけん大会に負けて泣き叫ぶ子どもたちや、肩を落として哀愁を漂わせるご老人たち…!」
「ちょっと!年齢差ちゃんと考えて!私は変態じゃない!」
第二殿下ったら何だか涙目になっているわ。
威厳もなくこんなに右往左往しているなんて、もうちょっと教育が必要みたいね。
「オモチャ殿下、落ち着きなさって?」
「落ち着けないよ!この10分間で同級生が諜報員だったことも隣国と戦争起こしかけたことも尊敬する父上のスキャンダルも隣国の王様や王太子様に何だか我が国が狙われていることも果ては私の好みが露呈して、なぜか変態にされそうになって…!!」
「ああオモチャ殿下、おいたわしい…」
「絶対そんなこと思ってないよね!?蔑称がついてる!!」
「そんなことありませんわ。ぷぷっ」
「笑いながら言われても何にも説得力ないよ!」
どうやら私が何をいっても第二殿下のお心を慰められないようだ。残念ですわ。
「まぁそんなわけでして「うまくいくといいけどなぁ…」って隣国の王子が我が家の経営しているバーでぼやいていたのですわ」
「隣国にも出店してたの?!王太子様もそんなところでぼやかないで!」
「おかげでハニトラはこうして阻止できましたわね」
「私の戸惑いを置いて無理矢理閉めようとしないで!!」
「殿下への愛情の下では、全ての罪が明るみに出てしまうのですわ」
「だから!!…え?愛情…?!私に…?」
私は青い瞳をそっと伏せ、銀髪を指でくるくるさせた。照れくさいわ。
「う…それは…まぁ…え?君は私のことを…?」
「あら嫌だ、あんなに殿下にわかりやすく好意を伝えていたのにわかっていなかったのですか?」
「きみ、いつも私で遊ぶから、てっきり男として見られていないのかと…」
「まぁオモチャですし」
「ほらぁ!」
殿下が赤くなったり泣きそうになったりと本当に忙しない。
「わたくし、3歳から殿下の婚約者として王宮に縛られて教育を受けていたため、王宮から支給されたもの以外は何も持っていないのですわ」
「え…小さな頃からそんなに大変な教育を押し付けられて…」
「いいえ、不満はないのですわ。唯一無二の、大好きなおもちゃは頂いてますから」
「私のことじゃありませんようにという気持ちと私であって欲しいという気持ちが複雑に絡み合ってきたけど何これ 」
そんなわけで、今回も隣国からのハニトラも無事に2人で乗り越えましたわ。
断罪されそうに見えました?いつもどおり、ただの痴話げんかですわ。
殿下がんばれ!
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