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男は洩らす

作者: 州崎太陽

どこかからの帰り道。

男はいつも不満を洩らす。

近隣の奥様方はいつもぺちゃくちゃうるさいと。

いつも何を喋ってそんなに盛り上がっているんだと。

俺のことを話して嘲笑っているのではないか、と。

俺が視線を向けると、声を潜ませてまた喋る。

彼女たちは、ちらりとこちらを見ると笑う。

ああ、俺のことを話して嘲笑っているんだと。

小太りの男は洩らす。



火曜日の夕方。

男は今日も不満を洩らす。

なんで俺がコンビニバイトごときの面接に落ちるのだと。

せっかく俺が行ってやったのに、と。

だから社会は駄目なんだと。

だから俺は今こうなってるんだと。

俺はなんにも悪くないと。

まあまあなんとかなるだろう。

パソコンだって出来るしな。

三十一の男は洩らす。



水曜日の昼。

男は今日も不満を洩らす。

飯を持ってくるのが遅いと。

俺は頑張っているんだ。

ババアは歩くのが遅えな。

コーラとポテチがまだ来ねえ。

ノックしてくるな、前に置け。

ドアの前だよドアの前。

なんでそんなこともできない。

俺は頑張っているのに。

あ、デイリークエストやってない。

うわこのアイテム高いなあ。

まとまった金が欲しいなあ。

薄い頭皮の男は洩らす。



木曜日の夜。

男は今日も不満を洩らす。

漠然としたこの不安感。

どうして俺はこうなったと。

これから俺はどうなるんだ。

お天道様は見ているって。

だったらどうしてこうなった。

神様なんていないと。

神様は俺を見ていないと。

ああ神様はいないんだ。

見ていないなら何しても良いと。

とりあえず金が欲しいなあ。

生命保険の金額って、、

髭を生やしたは洩らす。



金曜日の夜。

男は今日も不満を洩らす。

お天道様は見ていない。

そう神様は見ていない。

俺のために死ねるんだ。

息子のためなら嬉しいだろうと。

一旦トイレに…あとでいいかと。

階段を下りて一階へ。

なんでこんなに急なんだと。

いつもの普通にいらいらと。

手すりは悲鳴をあげている。

うるせえ、俺が重いってか。

男は足を滑らせた。

お天道様は見ていない。

首から落ちた、踊り場へ。

ボキッと折れた音がした。

お天道様は見ていない。

踊り場は狭い、立ち上がれない。

息が出来ない、死にたくない。

なんでどうしてこうなった。

お天道様は見てたんだ。

お天道様は見ていない。

力がだんだん抜けてきた。

頭がぼんやりとしてきた。

眼鏡をかけた男は漏らす。



土曜日の朝。



日曜日の夜。



……



どこかからの帰り道。

奥様方はぺちゃくちゃと。

何かを喋って盛り上がっている。

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