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暁紅の女神の星  作者: 高峰 玲


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亜麻色の髪の少女




 悲しい恋の物語をしよう。


 もうかなりの昔のことになる。その次の年に青の都

へ遷都し、そのまた次の年に(さき)の王が亡くなられたのだから……赤の都に王宮と神殿があった頃のことだ。


 若い……とても若い男がいた。


 男は貴族の家に生まれたために、正法官(ダルマ)のひとりとなるよう育てられた。


 男は生まれつき美しく、賢く、また曇りのない明朗な若者であったので、やがては死を司る者であり、生きた掟でもある正法官(ダルマ)となる身と知りながらも老若男女、すべての者が男を愛した。


 男もまた、人を憎むということはなかった。


 女たちは皆、娘も人の妻も、男に恋をした。


 男は真実の愛を知らぬままに、そのあらゆる女たちにやさしさを分け与えていた。


 そしてある日、男は生まれてはじめて、心ときめく女性に出会った。


 それは、まだほんの少女としかいいようのない、どこかはかなげな、触れれば折れそうな野に咲く花のような娘だった。


 ぬけるような白い肌にやわらかな亜麻色の髪がかかり、薄紅(うすくれない)の唇をかすかに開いた様子には何かしら目を瞠るものがあったという。


 娘は南の海の国の生まれで街はずれの小さな塔に生活し、そこで(はた)を織っていた。



 出会って一目見たその瞬間にふたりは激しい恋におちた。



 だが男の熱い愛のささやきに娘は困ったようにうつむき、やがては背を向け、塔に籠もってしまう始末。


 不思議に思う男の耳に商人の妻が不用意にも言ってしまった。


「あの娘は私の夫の囲い者なのよ」


 男は、若く一途な熱情のままに娘の塔に駆けつけ、事の真偽を問いただした。


 娘は青ざめた面を上げ、あふれる涙をおさえながら、やがてうなずいたという。


 絶望のうちに男は塔を去り、絶望のうちに娘は塔に取り残された。


 それはあまりにも深すぎた愛ゆえの絶望──。


 そして翌朝はやく、まだ朝靄のたちこめるうちに男が再び塔を訪ねると──娘は塔から身を投げてしまっていた……。




      ◆

             ◆

                    ◆




「……それから、その男のひとはどうしたの?」


 娘は心配そうに、目を大きく見開いて父の顔をのぞきこんだ。


「どうもしない」


 彼はゆっくりと答えた。


「その若い男はそれまでどおり、やさしい女たちの愛情に包まれて、それに応えて生きていた。やがて都が青の都にうつり、そして──男はまた恋をしたのだ。長く豊かな金髪が滝のようにひろがる青い瞳の、美しい巫女に。

 はかなげなところが亜麻色の髪の少女に似ていなくもなかったが、そのくせ彼女はどんな風にもけっして折れることのないあの美しくて強いカムパネルラの花のようにうるわしく、気高く強く生きる女性(ひと)だった」


「……かあさまのことだわ!」


 娘はそっと傍の兄に耳うちした。


「彼を不実な男と思うか?」


「いいえ」


 彼女は即座にそう返事した。兄はそっと首を横に振った。


「その男のひとは……とうさまなの?」


 利発そうな目には悲しげな色が浮かんでいる。


「いや、違う。彼は……死んだのだ」


 母親ゆずりの、娘のきれいな金髪を撫でながら彼は言った。


「彼と父とは共に学び、共に戦ったのだ、昔。

 友として語らい、時には兄のように教えてくれた」


 そして彼は静かに目を閉じた。


 兄も妹も、ただ黙って父を見つめていた。彼はいま、なつかしい思い出の世界にひたっているのだ。


 やがて侍者が彼を呼びにくるだろう。宰相王たる彼はとても忙しいのだ。


 宰相王はやさしい言葉をふたりにかけて、執務室へと向かうはずだ。そうしたらこの小さい兄妹は、誇らしげに、父の後ろ姿を見送るのだ。






亜麻色(あまいろ)(かみ)少女(しょうじょ)

     ── 了 ──












【注意】ネタばれあります!




うむ、宰相王は自分の子供に何を語っているのでしょうか。なにげに嫁のノロケ話のような気がします。

ちなみに、ちょっとおマセさんなこのお嬢さんの名前はテラと申します。嫁が止めたのですが、宰相王はこれしかない、と譲りませんでした。この数年後、この一家は地球へ移住します。名実共に強い嫁のいる宰相王ヤマとシヴァ王の関係が悪化してしまい、国家としての分断を避けるためでした。


ネタばれついでにこちらも。

その① 『青の巫女』に出てきたフィーネとフィニーは実は三つ子で、長女フィーネ、次女フローラ、三女フィニーです。テラとは5歳からずっと一緒にアマゾンで育ちました。15歳の仮成人で“ランス”として修行することになり、とある星でのミッションでマーク、エド、ジョンと出会います。


その② フローラは早い時期にちょっと辺境へお嫁に行ってしまったので今回登場しなかったのですが、フィーネとエド、フィニーとジョンが結婚しています。


その③ 水原将は夭折したエリアヌス皇女の息子でマーク、テラには甥になります。彼は一時期、テラに連れられて旅をしていた接点があり、懐いていたことから今回マーク捜索に参加していました。


その④ 氷の王ヒュペリオンさまは覇権争いに敗れた後はカルマ星を離れ、こっそり“ランス”になっちゃってマークと再会します。


その⑤ テラとリチャードは二千年くらい前のラージャ星の王女と恋人の武将(他の星)の転生で、それがわかっていたから生まれた時点で婚約を決められていました。


その⑥ 『リヴィネル』にちらっと出てきた白のダルマ・カルキくんはクリシュナの弟です。


と。カルマ星の物語は『シュリーン山の龍』とかまだまだお話があるのですが、現時点で完成している分はここまでです。おつきあいくださり、ありがとうございました。


次の作品投稿は、1ヶ月お休みをいただいて2023年11月1日を予定しております。また読みに来てくださったら嬉しいです。






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