4枚の手紙
パソコンとスマホを手にもって、是非一緒に推理してください。
(私の周り?では流行っていたので、
同年代の人にとっては懐かしい暗号だと思われます(笑))
「さーくーらー!助けて~。HELP ME~」
「ん?どしたの、千春??」
「半年前に私の家の隣に引っ越してきた男の子覚えてる?」
「あ~、カナダから引っ越してきたあの子??4月から小5になる子だっけ?名前はえ~っと、は、は、隼人君?」
その子がどうかした?と首を傾げるさくらに、私は例の手紙を四枚見せる。
「それがね、先月から毎週お手紙をくれるんだけど、何て書いてあるか全く分からないの…。ほら、さくらも帰国子女じゃない?これ分かる?ネイティブで流行ってる暗号か何かなの?」
隣に住む隼人君は9歳までカナダに、そして私の親友のさくらは12歳までアメリカに住んでいた所謂帰国子女。同学年の中でも私はさくらのおかげで英語の成績はずば抜けて良い。それにも関わらず分からないってことは、もしかしたら、ネイティブだけにしか分からない何か特別な言い回しなのかもしれない。
さくらは千春から渡された手紙を注意深く見る。けれど直ぐに両手を上げ、降参のポーズ。
「ごめん。これ、そもそも英語じゃないから、なんて書いているのか分からないわ…。いっそのこと隼人君に直接聞いたら?これ何?って。」
貰ったお手紙は計四枚。
〝d:y t@yf@zw〟
〝af. t0ee〟
〝af. q@erg〟
〝w@m uyw@ t;d eue〟
「こら~!こんな時間まで残ってないで、早く帰りなさ~い!」
「「「あ、マリリン!!」」
「先生と呼びなさい!」
教室に顔を出してきたのは渡辺真理先生こと、マリリン。うちの学校唯一の情報の先生だ。笑顔がキュートで、最新のトレンドにも、おしゃれにも詳しいから、男女隔てなく全校生徒に大人気の先生。年齢は30オーバーと風の噂で耳にしたことはあるけれど、全くそんな風には見えない。
「ねぇ、先生ならこれ分かる?千春の隣に住む男の子からのお手紙なんだけど…」
話しやすい先生っていうこともあって、私の許可なく、さくらはその手紙を先生に渡す。まぁ、別にいいんだけど…。
「あら、なんだか懐かしい文字の並びね~」
「「え!?」」
マリリンのまさかの発言に私もさくらも固まってしまう。
「先生が二人くらいの年頃のころね~、流行ったのよ。昔はね、今と違ってチャットじゃなくて、メールが主流。しかも、誰からのメールか、受信メールBOXの中まで見ないと分からなかったのよ?だからね、好きな男の子からのメールはBOXのフォルダーを分けていたの。家族や友達が見ても誰から来たのかわかなくするために、こんな感じで入力して、カギをかけてね~」
遠くを見ながら懐かしんでそう話すマリリンはおもむろに携帯を取り出して、詳しく説明してくれる。
「昔はフリック入力なんてなくて、携帯のボタンをポチポチ押してたの。〝ち〟を打つなら、〝た〟のボタンを二回。〝る〟を打つなら、〝ら〟のボタンを三回。で、それを応用して、かな入力をローマ字入力に変えて、〝わ〟の入力場所を一回。〝べ〟は、〝は〟の入力場所を四回と、〝濁点〟は、一番左下のボタンを押して…。ほら!見て!その隼人君の暗号文と文字列似ていない?これで〝わたなべまり〟って読むのよ!」
マリリンが見せてきた文字は〝'gjM px〟。確かに、隼人君の謎の文字並びと似ている。
「あ、その打ち方見たことある!パパがよくやってるやつ。トグル入力ってやつじゃない?」
さくらもマリリンの推理に目を輝かせる。
「でも、マリリン?」私もスマホを取り出してマリリンの言うように同じように手紙を解読してみた。「一枚目の〝:〟と二枚目の〝0〟の変換の仕方が分からないし…。三枚目の〝af. q@erg〟は〝かす、みあしむた〟になって、意味不明になんない?」
「あら、違ったの?じゃあ一体何かしら?」四枚の紙を見ながら唸るマリリン。
「あ…れ?それでいくと…」さくらは何かを閃いたようだ。「マリリン!終わったらすぐ帰るから、一瞬だけ、情報室のパソコン一台貸して~」
*****
「先生も気になるから、今日だけよ、今日だけ!」
マリリンが人差し指を口に当てて、シーっとしたポーズをしながら情報室のカギを開けてくれた。
「私ね、日本で初めてパソコンを触った時から、ずっと疑問に思ってたのよ」
「何を?」
「ほら、みてよ!」さくらは一番手前にあったキーボードを手に取り話を続ける。「キーボードにひらがなが書いてあるでしょう?なのに、日本人誰も使わなくない?皆、かな入力でなくて、ローマ字入力するでしょう?だから何のために書いてあるかずっと謎だったのよ!」
確かに!私も使ったことないわ、とさくらに目配せする。
「パソコンをかな入力に変換して、一枚目の〝d:y t@yf@zw〟を入力すると…`〝しけん か゛んは゛つて〟」
「「試験頑張って!」」
私とマリリンの声がはもる。
「確かに一か月前、中間テストだったの!きっとそれよ!」
三人でこの暗号文が解読できたことに、大盛り上がり。
「千春、他の手紙も見せて!」
さくらは私が渡した、他の二枚の手紙もかな入力して解読してくれた。
〝af. t0ee〟は〝ちはる かわいい〟
〝af. q@erg〟は〝ちはる た゛いすき〟
「この子、おませさんね~」マリリンはニヤニヤした顔を浮かべながら、私を見てくる。
「フフフ。今度、隼人君に何かお菓子でもあげなきゃ」
私も有頂天になって、ついつい口元が緩む。
「ほら、せっかくだから最後は千春が解読しなよ」
さくらにそう言われて、今度は私がキーボードを打つ。
〝w@m uyw@ t;d eue〟
〝w〟は〝て〟、〝@〟は〝濁点〟、〝m〟は〝も〟…。
「「きゃははは」」
最後の暗号文を解読したとき、情報室は笑い声で包まれた。
私は顔を真っ赤にして、「もー!」と少し照れながら怒る。
は、は、隼人君!本当におませなんだから、あの子は!!!
「ねぇ、今度は入力を逆にして隼人君に手紙返しなよ。〝もんらこ〟って書いてさ」
さくらは目じりの涙を拭きながらそう提案してくる。てか、泣くほど面白いこと!?私はため息をつきながら、〝もんらこ〟のそれぞれの字と一緒に書かれているアルファベットを確認した。
「その案採用するわ」
「〝もんらこ〟?えっと……〝MYOB〟?どういう意味なの?」
マリリンは首を傾げて私たちに問いかける。
「〝Mind Your Own Business〟。〝余計なお世話〟、って意味です」
隼人君からの最後のお手紙はこうだった。
〝w@m uyw@ t;d eue〟
〝て゛も なんて゛ かれし いない〟
『でも、なんで彼氏いない?』
- FIN -