第4話 鴨川のほとり
投稿が遅くなり、誠に申し訳ございませんでした。
人生初の鴨川散歩を覚えている限り書き記しました。
1
京都の市バスに乗るのも久しぶりだった。
時間帯的にも空いていたので、一人がけの座席に座ると窓の外にどうしても目が行く。
改めて、京都の街並みは地元の松戸とは何処までも異なっている。鴨川が正にそうだ。江戸川は深く川幅が大きい。県境にあるというだけではなく、河原が広いから建物は川自体からかなり遠い。
その点鴨川は、そこまでべら棒に深くはなさそうで、左右にすぐ建物が立ち並ぶ。有名な川床なるものがあるくらいだから、川と街の距離感がとても近い。
秋葉原を流れている神田川に、河原を追加したような状態である。
バスが橋を渡ると、鳥が車体の側を飛んでいく。白い鷺である。こんな風に、大きな鳥がその辺を普通に飛んでいるのも私の地元では中々見られない。もちろん、東京の浅草近くの隅田川にも鷺は生息しているが、ここまで身近ではない。
私は三条で降りて、一旦ファミリーマートに入りトイレ休憩を済ませたのちに飲料を購入した。
店先のベンチに座り、これからの行程をスマホ片手に確認してみる。
鴨川のほとりにはコンクリの道が舗装されており、散歩やランニングをしている地元民が多くいる。そこを歩いて京都南座の辺りまで歩いていくと、祇園である。その街を川と反対方向に歩いていくと八坂神社があり、その神社に面した坂をひたすら登っていけば清水寺となる。
鴨川散歩からの祇園散歩。そして八坂神社と清水寺の梯子というのは、別に咎められはしないだろうが、ケツが決まっている人間にとっては結構な強行軍である。
私はとりあえず道路を渡って鴨川沿いに足を踏み入れた。ふと、道路の彼方に目をやる。山々が遥か遠くに聳えていて、しかし目の前には二車線の大きな道路と膨大な交通量。このミスマッチのようなロケーションは京都くらいでしか見たことがない。横に流れている鴨川も加わると、唯一無二の光景のようだ。
京都だなあ、と思いながら、鴨川の方へ階段を降りていく。段差が極小規模の滝になっており、水音が存外大きい。ただでさえ水深が深くなさそうなので、川底の石ころすら視認できる。
私はスマホのカメラ機能をONにし、動画撮影を行った。
思えば、修学旅行の撮影で京都には何度も来ていたが、鴨川の河原にこうして降り立つ経験は今まで全くなかった。
川は良い。ずっと眺めていても、決して全く同じような流れにはならない。
鴨長明が「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず」と『方丈記』の冒頭に書いたが、素晴らしい着眼点である。
ずっと川面を眺めていたい気持ちを抑え、河原を祇園に向けて歩き出した。
橋を潜ったところで、川床が向かい岸に見えてきた。
2
以前、一度だけ川床で京都の方と夕ご飯を食べたことがある。
あれは2017年の事で、勤務先の写真屋の社長と二人で修学旅行の撮影を終えた日だった。2泊3日の中学校の修学旅行の3日目で、京都駅でその学校を送り出した後に、今は無き京都タワー地下にある銭湯で一風呂浴びたのちに川床に向かったのである。
何故一緒に松戸へ帰らなかったのかと言うと、翌日に別の取引先の中学校が修学旅行で京都入りするのだ。私たちは京都に残り、翌日の修学旅行に備えなければいけなかった。2泊3日の修学旅行が連チャンしたのはかなりきついものがあり、今でも一番大変な撮影の思い出の一つだった。その中休み的な時間として、川床でのディナーを楽しんだのである。
今は時間にだけ追われているが、仕事で来ている訳ではないので遥かに気分が楽である。
スマホの地図アプリによると、そろそろ南座が近いそうだ。私は階段で歩道に上がり信号を待とうと横断歩道まで向かうと、目の前に四階建ての大きな銭湯のような白亜の壁の建物が目に入った。銀座の歌舞伎座ほどの荘厳さは無いが、これが噂に聞く南座だろうなと言う事は看板を見ずともわかった。横断歩道を渡り建物に近づくと、公演案内が出ていた。やはり松竹の劇場であった。
ただ、歌舞伎ではなく新劇だった。今度映画が公開される『老後の資金がありません!』の舞台版がかかっていた。
原作に比べてだいぶおちゃらけた喜劇調な作品のような雰囲気がポスターから感じられた。
老後資金問題は笑い飛ばせる問題では無いと思うのだが、芝居鑑賞時くらいは浮世の辛さを忘れたいのはよくわかる。未見でもあり、あまり批判する気持ちにはならなかった。
目の前には祇園の街並みがあった。現在はまもなく十時。せっかくなら何軒かある喫茶店にでも入りたいと思ったのだが、そもそも開店していない店もあった。モーニングを食べようかと思ったが、今から八坂神社、清水寺、東寺を午前中のうちに回ろうと言うのであれば、ゆっくりしていられなかった。
私は現在歩いている道を突き当たりまでひたすら進んだ。
少しして、八坂神社の看板が目に入ってきた。
つづく
まだ続きます。なるべく投稿間隔を狭められるよう頑張ります。