恋愛談議(俺一人)
『夜会に不慣れな私のために、ダンスや会話に誘うようお友達達に声を掛けてくれたのね。気遣ってくれてありがとう。お陰で最後まで楽しく過ごすことができたわ。』
何のことだろう?一昨日の夜会に参加すること自体、エドガーくらいにしか言ってない。
『もしマリーア様と連絡を取りたいときは協力するわ。』
やはり何のことだろう?マリーア譲と特別話す用事もない。
『感謝の気持ちに、プレゼントを用意しているから次の休暇が決まったら教えてね。』
これは理解できた!またすぐにルミィに会える機会がやってくる!
ベッドに横たわり手紙を読み返したり、匂いを嗅いでみる。一昨日のルミィと同じ甘い香りがする。
手紙をもらったのは俺だけのはずだ。まさかエドガーにも書いてたりなんて無いよな。ルミィは男の下心に疎いから、無自覚に煽っている可能性もある。
ルミィは男が女に惚れる条件は見た目の良し悪しだけだと思っている節がある。外見さえ良ければそれでイイって男も確かにいる。
でも大概の場合は、違うんじゃないかと俺は思う。例え一目惚れでも仕草だったり、会話の楽しさだったり、気遣いの有無だったり、色々な要素が絡んでその女性が気になって、更に深く相手を知ろうとして惹かれていくんじゃないか。
現にさっき食堂にいた奴らはルミィを気に掛け始めている。
俺だってルミィの一面だけを見て好きなんじゃない。
初めて会ったのは、俺が9歳、ルミィが7歳の時だ。3つ上の兄貴がアカデミー入学の準備をするため王都に移ることになり、俺もついでに居を王都に移した。
隣の邸に挨拶に行けば、ストラン伯爵夫人の後ろに隠れて俺たちを伺う少女がいた。東側の珍しい調度品や、独特の体術稽古が面白くて伯爵邸に行くようになった。少女には嫌われているのか、物陰から見てるだけで打ち解けてく来ることはなかった。
そんな時、夫人が。
『黒目や黒髪を酷く揶揄われて、心の傷になってしまったようなの。ダーグ君のように綺麗な髪色や瞳の子には引け目を感じて、うまく接することができないのよ。揶揄ってきたのが年の近い男の子だったらしいから余計にね。時々でいいから、これからもルミィに話しかけてくれると嬉しいわ』
俺からすると、ナヨっとした薄い色より、強そうな黒色の方が格好イイと思うだけどな。
嫌われてる訳じゃないならと、話しかけたりお菓子をあげたりしているうちに、ルミィから顔を見せるようになり後をついてくるよになった。
やっと懐いた猫のような、恥ずかしがり屋の妹のような感じで俺が構って遊んでやっていた。はずなんだが、一年後にはルミィに口で言い負かされるようになってしまった。
アカデミーに入ってからは、俺もなかなか邸に帰れないし、ルミィも領地と王都を行き来しているから、機会が合わず1年以上会わないでいた。会わないことをなんとも思っていたんかったんだ、あの日までは。
アカデミーの長期休暇に邸に戻ると、ストラン伯爵家も町邸に来ていると教えられた。今まで通り軽い気持ちで顔を出しに行くと見慣れない女性がいた。
いや、髪の色も肌の色も瞳の色も変わらない。でも今までと雰囲気の違うその人に、俺の目は釘付けになった。
全体的な体の印象はほっそりしているのに、胸元や腰回りは曲線的で柔らかそうな質感。顔も化粧をしているのか唇がほのかに紅くてふっくらと艶っぽい。子供ではない女性を感じさせるルミィがいた。
久しぶりに会ったからか、俺が凝視しすぎたのか、相手が目をそらし俯いてしまった。その動作までも以前のルミィとは違うように感じてしまう。
その体に、その唇に、触れたい衝動にかられて体が熱くなる。初めて体験する衝動を隠しつつルミィと挨拶を交わす。ぎこちなくポツリポツリとお互いの現状を話す。数十分もすると、ルミィは慣れたのか、これまでのズカズカとした物言いに戻った。俺のほうは、その日一日ずっとギクシャクしていたと思う。
伯爵邸から戻り一人になると、この衝動が俗にいう恋なんだと自覚せずにいられなかった。
あれ?これって、見た目で好きになってないか?しかも体とか…。いやいや、キッカケが外見の変化なだけで、ルミィの全部が好きだ。俺に対してキツイ言い方も、白けている様も、ちょっと冷たい視線も。あ~これって、全く恋愛対象に見られてない奴じゃないか。
とにかく今日は寝よう。