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余韻に浸らせて



 夜会の余韻に浸っていたい!腰に手を回したときの体の柔らかさ、あんまり開いてなかったけど臙脂のドレスから覗くこがね色の胸元、手に口づけたときに見せた恥ずかしそうな顔。あ~、もう一度ルミィの体に触れたいッ!!あの胸元に顔を埋めて思いっきり深呼吸したい!!!


 何が何でもエスコートするため、休暇願いを出したが調整がつかず、翌日の夜勤からになってしまった。夜中の警備中ずうっと余韻に浸っていたせいか、朝の申送り時、副長に目を付けられてしまった。


「気持ちの浮つきが顔に出ている!」


 と怒鳴られ、勤務時間が終わってから昼までシゴかれてしまった。

 確かに騎士として失格だ。凹みながら、昼食を取っていると、一昨日の夜会に参加してた同僚たちが私服で食堂に入ってきた。どうやら今夜からの出勤らしい。

 俺の休暇取得を邪魔したのはお前らか。


「ダーグお疲れ。さては副長にシゴかれたな」


 エドガーよ!なんでわかった?


「疲労が顔に出てるから」


 そんなに俺って顔に出るんだろうか。考え込みそうになっていると、みんなが一昨日の夜会の事で盛り上がり始めた。


「今回の華はルミィ嬢だろうな。可愛さで言ったらマリーア嬢だが、今までもよく夜会で見かけてるし。話題性で言ったらルミィ嬢で決まりだろう」

「ああ、確かに」

「それにルミィ嬢は噂と違って綺麗だった」

「だから言っただろ。先日、ダーグの所に泊まりに行った時の話」

「でもな~。ストラン伯爵に似てるって聞いたら、な?」

「俺もストラン伯爵家の男性陣にドレス着せたような女性を想像してた」

「長兄殿の最初の婚約破棄の話も、すごいしな」


 ストラン伯爵家の嫡男でルミィとは10歳違い。ちなみに8歳違いの次兄もいる。やっぱりゴツイ。

 一昨日の夜会に同席した長兄の噂、政略で婚約していた令嬢が婚約解消を機に、国外の弱小貴族に嫁いだというもの。


「その話、俺も聞いたことがある。元婚約者を国外追放したとかなんとか」


 令嬢が長兄殿の容姿を嫌っていたとか、婚約破棄に怒ったストラン伯爵が令嬢を国外へ追放したとか、当時は色々と話題になったらしい。

 付き合いのある俺としてはストラン伯爵が手を下して国外追放はないと思う。


「本当なら怖い話だよな。ご機嫌損ねたらッて」

「でも、今の奥方とはうまくいってるんだろう。一昨日も寄り添って挨拶に回ってたし」


 そのあと嫁いできた今の奥方とは仕事がきっかけの恋愛結婚らしい。

 難があったのは元婚約者の令嬢の方なんじゃないかと思う。例えば、外国貴族と駆け落ちとか。お人好しな所があるストラン伯爵家が泥を被って、相手方のために黙秘してるんじゃないかと思えてしょうがない。


(いわ)くつきの方々に似てるとなると、良い印象は持てないよな」


 なんなんだこいつらは。噂に踊らされて。イラッ


「確かにな。でも実際は違ったな!」

「目元や口元は長兄殿に似てるけど、そのまま瓜二つって訳じゃない」


 当たり前だ。

 年の離れたルミィを可愛がるあまり、ストラン伯爵家の面々は「娘は(妹は)、自分に似ている」と公言してはばからない。親バカ、兄バカなのである。

 ルミィが外に出たがらないのも相まって、世間は勝手に厳つく醜いストラン伯爵令嬢を作ってしまっただけだ。


「涼しげな目元がいい。清廉で知的な感じだよな」

「ちょっと気が強そうではあるけど、時折見せる初心(うぶ)な表情がたまんないっていうか~」

「分かる!話してるときとかダンスでちょっと引き寄せたときに、顔を赤くして俯いたりとかだろ」


 他の男をけん制したい俺は、デマを否定はすれど真実は告げてこなかった。ルミィの本来の姿を知ってるのは俺だけだし、ルミィと親しくできるのも俺だけ。

 なのに、こいつら気付いたのか? イライラッ


「もっと構いたくなるっていうか~」

「「 だよなー! 」」


 イライライライラッ


「ダーグ。お前、顔怖い」

「何がだ?」

「顔に出てるから、今度は嫉妬が」


 エドガーに指摘される。そんなに顔に出るのか?俺って。


「疲れてるんだろう?早く休め」


 エドガーに気遣われる。

 エドガーよ!俺は知っている。ルミィの長兄殿に挨拶に行ったことも、ルミィと次の夜会の予定を合わせていたことも。お前が一番のダークホースだ。



★★★★★



 部屋に戻るとストラン伯爵家の印で封蝋された手紙が届いていた。

 以前俺が贈った便せんにルミィの手跡を見れば、一気に気分が高揚する。早速読んでみれば、夜会のお礼が書かれている。素直に喜ぶべきところだが……、一部内容が引っかかる。


『夜会に不慣れな私のために、ダンスや会話に誘うようお友達達に声を掛けてくれたのね。気遣ってくれてありがとう。お陰で最後まで楽しく過ごすことができたわ。』


 

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