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期待と不安と②



「まあ!ルミィ様ではありませんか?」


 エドガー様の言葉に顔を上げられずにいると、後ろから甘くかわいらしい声が掛かる。あー、この声は。

 後ろを振り返れば、声の印象通り可憐な容姿の少女が立っていた。


「こんばんは、マリーア様。お久しぶりですね」


 私は、エドガー様のセリフにやられた動揺と、この少女との邂逅による動揺を隠すため平静を上塗りして、淑女の礼で答える。


「夜会でルミィ様にお会いできるなんて嬉しいですわ」

 

 ローズピンクのドレスから覗く白い胸元を両腕で挟みながらシナを作る。女の私でも目のやり場に困っていると、この可憐な少女ことマリーアが言葉を続ける。


「ルミィ様、あの、私のこと、ご紹介いただけませんか」


「……そうでしたわね。こちらがバルグ侯爵家次男のダーグ様ですわ。王都の邸が近くて家同士の付き合いがありますの。現在は王立騎士団に所属しているんですよ。」


「ダーグ・バルグです。お見知りおきを」


 私の紹介を受けて、隣のダーグが紳士の礼を取って短く挨拶をする。


「初めまして、マリーア・ヨハンソンと申します。お会いできて光栄です」


「皆、王立騎士団の同僚なのです。こちらがエドガー・オルソン、アカデミーから――――― 」


 瞳をキラキラさせてマリーアが挨拶を返し、ダーグが友人たちの紹介を始める様子を見た。あー、なんて綺麗な二人なのだろう。オルゴールの上で踊る陶製人形のカップルの様。


 マリーアは緩くまとめた淡い金色の髪をシャンデリアの灯にキラキラ輝かせ、アクアマリンのような淡く透き通った大きな水色の瞳を潤ませている。肌は陶製人形と同じように白く、化粧で色付けした薄桃の頬や濃桃の唇が、彼女の可憐さを引き立てている。

 ダーグは銀髪碧眼、同じ青眼でも光彩の模様が灰色掛かっている。彼も全体的に淡い色合いだが、彫の深い目や薄い唇、引き締まった頬が精悍な印象を濃くしている。

 身長差も陶製人形が見つめ合うそれである。


「ルミィ様には女学院で大変お世話になりましたの。たった一歳差とは思えないほど、とっても頼りになる先輩なんですのよ」


 この二人を前にすれば、私でも吟遊詩人になれそうだ。女性としてマリーアが羨ましいわと思ってしまう。

 と、思ったが、急に黒い感情が込み上げきた。え?たった一歳差だけとは……思えない?先輩。

 この子は良い子、この子は良い子と呪文を繰り返て、感情に蓋をする。顔が引きつらないように、落ち着け落ち着けと念じる。

 更に心を落ち着かせるため、ダーグにもらった髪飾りに触れてみようと右手を持ち上げたとき、隣からその右手を取られてしまう。


「ルミィ、一曲目は俺と踊っていただけますか?」


 取られた右手をたどって視線を向ければ、緊張しているような少しぎこちない笑顔でダーグがダンスに誘ってきた。


「へ? ええ、もちろん」


 そりゃあ、エスコートの男性と踊らないとかないでしょう。エスコートの男性にも踊ってもらえなっから、前回の夜会以下だ。


「良かった。じゃあ、行こう。チュッ」


 手の甲に本日二度目のキスを落とされた。しかもリップ音付きで。

 リップ音に羞恥を感じ、マリーアの登場で引いたはずの熱がまた顔に集まってくる。ダーグと目が合えば、いつもの笑顔に戻っていて、ダンスの輪へと手を引かれた。


 ダーグとのダンスは慣れているから安心だ。踊りながら他愛のない会話もできる。

 いたずら心から「会場に好みの女性はいる?」って聞いたら、「君だよ」ってバカにするから、わざとステップをずらしてドヤ顔してやったら「はぁ~」ってため息をつかれてしまった。人をからかって何なのかしら。

 やっぱりおふざけだったみたいで、今、ダーグはマリーアと踊っている。

 丁度、私も踊っていて、ダーグが何度も視線を向けてくる。自分の友達に私が何かやらかさないか心配なんでしょうけど、わざとタイミングをずらしてお相手の不興を買うようなこと、ダーグ以外にはいたしません!


 その後もダーグのお友達から誘っていただけて、何度も踊って、談笑して、今夜はお開き近くまで過ごせた。ダーグ以外の男性と踊ったり、長く話すのは初めてだから、とても緊張したけど、楽しかった。

 恋の噂が絶えないお友達が言っていたわ。「夜会は男性との愉楽の場よ」って、今夜みたいなことかしら…? 

 エドガー様に至ってはお兄様にも挨拶してくださって、次の夜会ではエスコトート役を買って出てくださった。先日のお約束を忘れていなかったみたい。とても誠実な方ね。


 夜会の後に気分よくベットに横になれるなんて初めて。本当に今夜は楽しかった。マリーアにヤキモキしてしまったけれど、一番楽しい夜会だった。まだ、片手にも満たない参加回数だけれども。


 なんだかんだ言ってダーグのお陰だ。気を使ってお友達たちに、私の相手をしてくれるよう手を回してくれてたのだろう。幼馴染の慣れで、ついつい不愛想な態度を取ってしまうけれど、ちゃんと感謝しないとね。まずは明日中にお礼の手紙を書きましょう。それに何かプレゼントも、手袋がいいかしら、奮発してカフス … 。

 ふあぁ~、…明日考えよう。


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