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気付き


 国では比較的南に位置する王都でも街路は雪に覆われるようになった。11月も半ばを過ぎた今日は王宮主催の夜会が開かれている。この夜会を合図に社交期の幕開けとなる。


「お久しぶりだね、ルミィ譲。建国祭の王宮警備で顔を合わせて以来かな」


 会うのが気まずくて気づかれないようにしていたが、とうとう話しかけられてしまった。

薄緑色の目を細めて、いかにも女性受けしそうな甘い顔に笑みを載せた紳士の礼を受ける。


「こんばんは、エドガー様。ええ、そうですね。ご無沙汰しております」


 気まずさが顔に出ないようドレスの裾に摘まんで挨拶を返す。


「クリスティナ殿下はまだデビュー前では?」


 お仕えの殿下がいないのに紺の控えめなドレスで会場の壁に控える私に疑問を持ったようだ。


「はい、来年のご予定です。デビュー後に備えて殿下付きの者は他の王族の方々に付いているのです」

「そうですか。お勉強ということですか」

「ええ…」

「…」


 会話が続かない…。


 いっそダーグの事聞いてみようかしら。姿が見えないから、今夜は夜勤かしら。エドガー様なら夏至祭の事もその後の事も、きっと知っているわよね…


「……あの、最近ダーグはど……」

「国境警備にいきましたよ」


 私の言葉に被せて、固い口調で答えてきた。


「……え?」


 エドガー様の顔を見れば、先ほどまでの甘い表情はなく攻めるような強い目線を向けられる。


「しかも北東地域に、自ら志願してね」


「……ッ!?」


「ダーグが伝えなかったのか、貴女が知ろうとしなかったのか知りませんが」


 遠ざかって行く低い足音だけが聞こえる。



★★★★★ 



愛すべきルミィへ


 正直に告白する。君のことが好きだ。君への感情に気付いたのはアカデミーのころだ。久しぶりに会って君の容姿が女性らしく変わっているのに驚いた。でも俺への態度や話すことは幼いころと変わりなく、容姿と態度の違和感に目が離せなくなった。

 君に愛を乞う権利を得るため、一日も早く正騎士になることを目指す。君を抱きしめて俺も『ユキ』と呼びたい。俺が権利を得るか、先に君が他の答えを得るまで、夏至祭での俺の行いは謝罪も言い訳もしない。

 健国際で見た姿は6月のころより健康的で、周囲とも打ち解けているように感じた。安心した。これからも体調に気を付けて頑張っていってほしい。


心を込めて ダーグより



 右斜め上に上がっていく独特の字体で書かれた便せんを片手に、自室のベッドに座り込む。


 エドガー様が去ったあと、どの様に夜会が進行したのか全く覚えがない。

 夜会の勤務が終わったり自室へたどり着くと、机の引き出しを開けた。飾り模様のない簡素な白の封筒。ダーグから贈られた最後の手紙をペーパーナイフも使わずこじ開けて読みだしたのは、ついさっきの事だ。


 ダーグが私を好きだった?まさか?確かにいつも優しかったし気遣ってくれていた。それは家の繋がりがあるから幼馴染だからなのだと思っていた。遊んだり喧嘩したり、時には意地悪をしたり、でも大概は心配して世話を焼く兄のような存在なのだと。実の兄たちは年が離れているため一緒に何かをすることはなかったが、きっと年の近い兄妹はこんな感じなのだろうと想像していた。


 それなのにダーグは私を好きだった?


 初めてダーグに会った日、とても怖かった。また罵倒されるのではないかと。


『魔女め!見るな!僕まで呪われて髪が真っ黒になったらどうしてくれる!しかも肌まで黄ばんでるじゃないか。フンッ』


 6つか7つの頃、領地の中心街で濃い金髪の男の子を見つけ、食い入るように見詰めてしまった。金貨のようにキラキラ輝く髪色に見とれたのだ。視線に気づいた男の子は、睨みながら私に言った。


 子供は素直だが時に残酷だ。両親や年の離れた兄たちと過ごし、年の近い子供と接することのなかった私が衝撃を受けるには十分な罵声だった。

 それまで気にも留めていなかった黒髪も黄色い肌も急に恥ずかしいものに変わり、人前に、特に同年代の子の前に出るのが怖くなってしまった。


 今にして思えば金髪の男の子は外国からの貴族旅行者だったのだろう。色素の薄い人が多い北王国で濃い金髪は珍しい。領地で黒髪の人間と言えば、領主であるストラン伯家に血筋が繋がることを子供でも知っている。領主一族に盾突く行いを教える親はいない。



 王都の隣邸の侯爵夫人が息子を連れてきたときは、とてもいやな気持ちで迎えた。自分の陰気な気持ちが伝わったのか全く打ち解けられなかった。

 しばしば邸を訪れるダーグに鬱陶しく思っていたが、鉢合わせるたびに貰うお菓子に釣られて話すようになったのは覚えている。遊ぶようになったダーグは喧嘩はすれど、容姿を貶すことはなかった。


 手紙にあるダーグがアカデミーに入ったころから、ダーグの口数が極端に少なくなった。

 何か嫌われたのかもと思って母に相談すれば、「年頃なのよ」と返された。口数は少ないものの、避けられてはいないようだったので私は気に留めなくなっていった。


 まさか、そんなダーグの変化が恋だったなんて考えもしなかった。しかも私に。母の言った「年頃」とは、そ……そういうことだったのか。

 ああ、なんて私はバカなのだろう。いつもいつも窮地に立って初めて気づく。周囲の人が私に向ける感情に全く気付けない。職場での悪意も、家族や親しい人たちが守ってくれていることも、ダーグの気持ちにも。こじれて初めて気づくなんて。


 冬の国境警備に志願したのは私の為に正騎士になるため……。夏至祭のキスも……。顔に、いや体中に熱が集まってしまう。私の事が事が好きだから……。


 じゃあ、自分はどう?

 こんな見た目で異性との恋愛なんて自分には出来ないと思っていた。でも、男性に恋愛対象として見てもらいたいと焦ってもいた。夜会で声を掛けられなくてガッカリするのも、可愛い後輩に嫉妬するのもでも、きっと焦りの表れ。

 自分から一歩踏み出すのは怖くて、私はダメなんだって思っている方が楽で、異性に興味のない振りをしていいた。


 男性としてのダーグはどうだった?

 優しいし、私の傷つくことは言わない。一緒に踊ってくれて、見ていてくれて、私が尻込みしてしまう人の輪や祭りに何気なく連れ出してくれる。


 キスは嫌だった?

 びっくりした。あんなキスがあるって知らなかった。でも、嫌じゃなかった。むしろその次を知ってみたい。

 ダーグ以外の人でもできる?イヤ!無理!ダーグで良かった……か……も。


 ああ、分からない!!


 ほ、ほ……他の手紙には何が書いてあるのかしら。


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