僕と会う/私を待つ
ギシ、ギシ、ギシ。
田舎の一軒家ではよくある、階段を踏んだ時に聞こえる、
木の軋む音が部屋に近づいてくる。
一瞬音が止んだかと思えば、
...キィー、バン!
勢いよく部屋の扉が開かれる。
「カエデー!早く起きなさい!
何時だと思ってんの⁉学校遅れるわよ!」
お母さんの怒号が、部屋中に響き渡る。
私は眠い目を擦りながら、気の抜けた返事を返す。
「ふぁ~い」zzz
そして、掛布団を抱きしめながら「むにゃむにゃ」と言い、
再度眠ろうとした、その時。
「は・や・く 起きなっさい!」
バフッ!
お母さんが勢いよく布団をひっくり返す。
その勢いで、私の目もハッキリと覚めてしまった。
「ぐえぇ、何するのさ~」
「ほら、早く下に来なさい、朝ごはん冷めちゃうでしょ!
先に食べてるから、さっさと着替えて降りてらっしゃい!」
そう言うとお母さんは、ドアを叩きつける様に閉め、下へ降りていった。
頭が動いてない私は、数秒遅れで、欠伸をしながらドアに返事をする。
「ふぁ~あ、わぁった」
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頭が働き始めながら、着替えをゆったりしていると、
お母さんの怒号が下から聞こえてくる。
「あんたまだ寝てるの!さっさと起きてこないとお小遣い減らすよ!」
その言葉で頭も動きも早くなる。
でも、田舎にだっていい所は勿論ある。
「ほらカエデ、朝近所の山村さんが下さったのよ」
「わぁ~、朝からメロン食べれる!」
「ホントに、果物が出たら直ぐに目を覚ますんだから」
「別にいいでしょっ、好きな物見たら誰だって目は覚めるんだから」
「はいはい、取り敢えず今日は早く食べちゃいなさい、遅れるわよ」
「ご馳走さまでした」
「えっ、もう食べたの? やっぱりカエデはカエデね~」
「支度してくる」
ドタドタドタ
そう、田舎のいい所はご近所さんから
色々食べ物が貰える事なのだ。
特に、私の家の近くには、果物を作ってる農家さんが多いから、
たっくさん!美味しい果物が食べられる!
なんやかんやで田舎も捨てがたいんだよね~
とか考えてる暇もなく、
今は歯磨きに着替えを急がなくちゃ。
ガラガラガラ、ウグっ、ゲホッゲホ。
「うわぁ、盛大に吹いてしまった...気にしたら負けだよね!」
「そんなことより、早く着替えないと」
「田舎のいい所は美味しい食べ物が食べれる事だけど」
「悪い所は何においても不便なのと、圧倒的に退屈なことね」
「カエデ~!早くしないと電車間に合わないわよ~!」
「わかってるー!」
こんな忙しい朝を過ごしてる私だけど、
それでもこの田舎だとちょっとだけ退屈しちゃう。
だけど、最近はこの田舎にも
楽しみができたかもしれない。
それは...
「それじゃあ行ってくる~」
「最近熊が出るらしいからね、気を付けなさいよ~」
「はーい」
それは...
「ハァハァ、今日は、ギリギリ、だから」
それは...
「よかった!まだいてくれた!」
ハァハァ
「やぁ、今日は遅かったね、寝坊かな?」
「いや~、ははは」
それは、最近ここら辺に引っ越してきたであろう
超イケメンなお兄さんに会うことだ。
「カエデ君にしては珍しいね」
「へへへ、今日は時間が無いから
駅まで歩きながらでもいい?」
「今日は空いてるからね、それくらい大丈夫だよ」
「とか言って~、いっつも駅まで来てくれるじゃん」
「もしかしてニートってやつ?」
「...フフッ、流石に違うよ」
軽く笑って返してくれるけど、
正直何の職業なのか未だに分からない。
偶にそのことを聞くとだいたいはぐらかされる。
その度にニートとという言葉が頭をよぎるけど、
服装が服装だから、どっちかっていうとヤクザ?
う~ん、そもそも何で毎回ニートという言葉がちらつくのだろうか。
「にしてもお兄さんって謎だよねぇ」
「僕がかい?」
「うん」
「そうかなぁ」
「そうだよ~、だって年齢も職業も分からないんだから」
「フフッ、確かにそうだね」
「もうちょっと教えてくれもいいんじゃない?」
「そうだね~...じゃあ好きな服を教えてあげよう」
「見ればわかるからそれ以外で」
「そんなにわかるものかな?」
「だってお兄さん毎回袴じゃん」
お兄さんは毎日同じ袴を着てくる。
服の見た目からしてもお金がありそうな感じがする。
「う~ん、服以外だとなんだろうなぁ~」
「職業!」
「それは秘密」
「お兄さんのケチ、ちょっとくらいいいじゃん!」
「ハハハ、許して欲しいな」
「まぁいつもの事だからいいけどね」
いつもそうだ、お兄さんは職業だけは答えてくれない。
まぁもう諦めてるんだけどね。
でも、少しは私に話してくれてもいいんじゃないかな、なんて。
「話してたらあっという間に駅に着いたね」
「ほんと~、もうちょっとお兄さんと話してたかった~」
「まぁまぁ、また次の朝に会えるから、ね?」
「そう言えば、何で夕方とかはいないの?」
お兄さんは決まって、あのタクシー乗り場にいる。
それも朝に。
正直いつからかは私も覚えてないけれど。
それでも朝以外だと見かけない。
「さて、何故でしょう?」
「も~、お兄さんの意地悪~」
「ごめんごめん、ほら、車掌さんも待ってくれてるから早く乗らないと」
「わかってますよ~だ」
たったった
「それじゃ行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃい」
「扉閉めるよーー!!」
ガラガラガラ、ガコン
ドアの前にいるお兄さんに手を振る。
お兄さんも笑顔で手を振ってくれる。
...電車が動き出して、お兄さんの顔が見えなくなる瞬間、
お兄さんの顔から、少し、空虚感を感じた。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
「今日もお兄さんに会えて気分爽快!」
「ふぁ~あ」
「気分は爽快でもやっぱまだ眠いな~」
「...駅まで時間あるしちょっとくらい、いいよね」
私は電車の揺れをゆりかごの中に感じて目を瞑る。
段々と意識が薄れていく、駅に着いたら起きないと..な。
...zzzz
そして、明日が始まる。
凄い短いけど想像力膨らませて欲しいな。
怖い内容じゃないから大丈夫だよ。