表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/46

第45話<魔窟の王>

 天井の岩肌がほのかに光る。幅広の洞窟は薄暗く、奥行きがある大きな空間であった。


 その先、高い場所に人らしき影がうずくまっている。そいつはまるで、考える人の彫像のごとく固まっていた。


 空間は静謐と思わせるほど音を感じない。俺の足音すら、どこかに吸い込まれているような静寂。自分がまるでこの世から、消えさってしまったようだ。


 百メートルほど間をおいて俺たちは対峙する。俺の能力は高まり、相手は手を伸ばせば届く程に見えた。


「魔王……」


 そう呟くが音にはならない。頭の中に響くだけだ。無のような空間で、悪魔は何を考えていたのか?


「やっと会えたぜ。待たせたな……」


 その姿は悪魔そのものであった。俺のぼんやりとした記憶に基づいた悪意の(かたまり)。それが切り裂きの魔王だ。


「ここまで来るとは思っていたけど――」


 悪魔はそびえる岩の上に、目をつむり何かを考えるように腰掛けている。そのままの姿で、俺に思念を送った。


「――本当に来るなんてね……」

「来るさ。このゲームをさっさと終わらせるためにな」

「く、くくっ……」


 マントのように垂れ下がっていた(カラス)の濡れ羽が持ち上がり広がる。そして目を開く。


「音がないと不便か。人間たちの思念を受けるのには、邪魔なんだよ」


 魔王が右手を上げると音が復活した。


「よく来たな。僕に勝てるのかな?」

「勝てるさ! 俺の力を見ていただろ?」

「せっかく作り上げた清浄な世界に侵入した細菌。なかなか強力なようだね」

「ぬかせ! ワクチンを打ち込まれて清浄に戻るのはこの世界の方だ」


 浮き上がった魔王は、ゆっくりと着地する。獣のような人形(ひとがた)、漆黒の羽。尖った耳に二本の角、そして牙。黒い髪は腰まで長い。


「姿を見ないと思ったら、こんな穴蔵に引きこもっていたのか? おまえは()だ?」

「僕は人間そのもの。これは世界を支配する者の姿……」

「女ばかりを殺す、サイコ野郎が支配者?」

「ゲームが全てを現していた。見ただろ? 人の恐怖とは面白い。人間を分析するなら、生きたまま切り刻むのが一番だ――」


 魔王はこの穴蔵に引き籠り、ゲーマーたちを観察していた。そして時には街に出て、切り裂きを楽しんでいたのだ。


「――ザカライアはその本質に気が付いた。そして取って代わろうとした。この魔王と。始末してくれて、感謝するよ」

「人の死を眺めて楽しむ同志だったな。お前たちは……」

「新しき世界、ネオフロンティアを作るための犠牲さ」

「何をわけの分からないことを。御託はもうたくさんだっ!」


 右側の壁が突然スクリーンのように光った。一面に無数の画面が現われる。


「何だ?」

「真理の壁さ」


 白い壁には様々な映像が流れている。それは人の争いの歴史であった。


「真理……」


 遠くにいるが、魔王の声はまるで囁くように聞こえる。俺の耳のそばで、まるで息づかいが吹き掛かるような気味の悪い感触。


「これが過去の映像と思うのは間違いだよ」


 殺し合い、戦争、革命、迫害、粛清。魔女狩りから強盗殺人まで、ありとあらゆる人の姿をした獣の所業。


「意味が分かんねえな」

「この世界から逃げ出し始めた人間の業さ。これは未練を映す鏡……」

「未練だと?」


 俺のはらわたは煮えくり返っていた。苦しんだ多くのプレイヤーたち。こいつが全ての元凶なのだ。


 それをこいつは、人間の業に責任転嫁しようとしている。


 こんな世界に仕立て上げた張本人が、人間のせいにしようとしている。


「まさか聖女がこの世界に来るなんてな。あの女め……」

「あの? 知っているのか?」

「邪魔してくれた駄賃にさんざん切り刻んで、犯してやった。けど――」

「クソ野郎が」

「――僕だけじゃないさ。帰りがけに参加してくれた、ゲーマーの悪意がいっぱいいたよ。まるでそうしなきゃ損すると思ってるみたいにね。我も我もって」

「貴様――」

「それが人間だ。いい加減目を覚ませ、勇者さん。聖女を犯すなんて一生の思い出だ。皆に良い思いを作ってもらえて、僕も嬉しいよ……」

「悪魔めっ!」

「これが真の人間なんだよ。君がまがい物なのさ」


 目の前の悪魔の笑いに、苦しみもだえるクリスタルの姿が重なった。


「しぶといね。正気を保って帰って行った。そんな女さ」

「ぶっコロしてやる……」

「そう、それが人間さ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ