第41話<世界の情勢>
俺はといえば、街の周囲で魔獣たちの襲来に備え、それがなければ周囲の森の探索、時には迷宮に潜る。そして街の中を歩きまわったりもする。
しかし特に新しい動きもなければ進展もない。
それは皆も同じだ。打開策を模索するため、俺たち主要なゲーマーたちはギルドの大会議室に集まった。
円形のテーブルを囲み、各自が着席した。中心の空中にぼんやりとした映像が現れ始める。
『分析中のデータを開示する』
この世界とアクセスとを解析した三次元のマップが表示された。それは集まった全員が見られるように、ゆっくりと回転する。
『今まで私が確認している、およびフロンティア社が把握している空間の全てだ』
「こんなに広いんだな……」
そう言うのは、盾の団の団長、クレイグだ。全体像を知るプレイヤーなどはいない。
『そして、これが現在の干渉状態だよ』
そしてこの世界に、様々につながる回線が表示された。ゲームのフィールド外から、絶え間ないアクセスを示す細い光がつながっている。
「多くないか?」
エリオットが言う。サイバー部隊であれば、これほど高密度の外部アクセスは異様と思うのだろう。俺は事前にプロフェッサーから事情を聞いていた。
少年は、この場では特に大人であることを隠さないつもりのようだ。
『アクセスしているのはハッカーたちだよ』
「こんなにいるのね…… 」
現在のギルド代表、アイヴィーは呆れたように言った。
『グリーンの表示は、君たちが収容されている病院からのアクセスだ』
一般参加者は全て国内の端末を使っている。その場所はここのフィールドすぐ周辺に表示されていた。
それ以外、外からのアクセスは全て外国からとなる。
『ブロックしているが、いくつかがセキュリティーホールを抜けているな。そのつどパッチを当てている。いたちごっこさ』
「それだけ強力な相手? そんなに大勢がか?」
エリオットの業務ではせいぜいがサイバー攻撃か、サイバーテロ程度であろう。これはもう、サイバー戦争と呼べる状態だそうだ。
『ほとんどが興味本位さ。強い敵がいるなら、挑みたくなるような』
「こちらが命がけだっていうのに、ハッカーってのは呑気なものなんだな。勝てるのかな?」
『もちろん。私もチートなのだよ。全員マシンをクラッシュさせてお引き取り願おうか。こちらは任せてくれ』
「ハッカーに同情するぜ」
クレイグはわざとらしく深刻な表情を作って、首を横に振る。
『今のはダークハッカーの話だ。協力してくれているハッカーもいる。ホワイトハッカーだ。お気に入りのプレイヤーを助けている』
エイミとヒナや、強力な力を持ち始めた他のプレイヤーをアシストしているハッカーたちもいるのだ。
「海外にも私のファンがいるなんて嬉しいわ。ネットでグッズを買ってくれないかしら?」
おどけたように両手を広げたエイミに、皆はクスクスと笑った。
『次に見せるのは脅威の状況だよ』
全体が薄い灰色になり、そして赤いいくつもの点が現れた。
『魔獣と怪人、そして魔人。我々の敵だ』
「まいったわ。まだこんなに多いのね。全部討伐したら報酬が間に合わないわ」
軽口に誰も笑わないので、アイヴィーは肩をすくめた。無報酬など、冗談ではないと思っているようだ。
『ダークハッカーたちが、この世界を覗き込んで作り上げているようだね。少々倒しても減ることはないと思う』
「つまりキリがないと言うことか」
『そうだ。悪いことにこいつらは、この街に向かって集結しつつある』
「奴らの大攻勢間近、ってことかよ……」
この事件も終わりが近づいている。ハッピーエンドか、バットエンドかの選択だ。
『全く手詰まりだな』
「俺たちがどう頑張ったって、どうにかなるものではないだろ。これは……」
『解決の鍵は聖女だよ』
「そんな能力スキルがあるってことか?」
『聖女の力は未知数だよ。我々が作ったステータスではないからな』
「ハッカーたちと、何が違うっていうんだ?」
プロフェッサーの疑問ももっともだ。得体の知れない者たちが作り上げた、このゲーム世界における最強の力。
俺が持つチートの正当性は、作り上げたのが運営だからだ。しかしクリスタルは謎の聖女である。
『この危機を察知したのなら相談して欲しかったな。共に戦う闘う選択もあった』
「普通そうだろ? 魔将には事前に話していたし、ゲームの運営に言わないなんて……」
『おそらくはこちらが、政府筋だからだろう。どこからか情報が漏れるのを気にしていたんだ』
「それにしたって……」
しかしそれができないのが、聖女の組織なのだ。
「聖女とは何者なんだ?」
言った俺は、少年アバターのエリオットを見た。
「正直に話すが、協力せよと命令を受けているだけだ。当然だがその実態は知らされていない。うちの組織とはそういうものなんだ。分かるだろ?」
「まあ、我々も同じようなものだからな……」
聞いていたクレイグは苦笑いした。
状況の説明、確認のみとなってしまった会議は、たいした成果もあがらずに終わる。
「エイミ、今からエリオットを飲みに誘ったらどうだ? 色々と秘密をしゃべってくれるかもしれないぞ」
「うれしい誘いだが、私たちは接待するのもされるのも禁止されているんだ。残念だけどね」
「あら、それは残念。今はお得なキャンペーン中で、いろいろファンサービスできたのに」
「ははは……」
エイミは冗談っぽく言い、エリオットは複雑な笑いを見せる。本当に何も知らないのであろう。




