第40話<因縁の対決>
「女みたいな悲鳴はあげないのかよ。ツマンネ……」
「サイコ野郎が……」
「片腕じゃあ戦えないな」
「どうかな? こんなのは奈落で経験済みさ」
そうは言ったが切り裂きの魔に切られ、元に戻るかどうかは分からない。旋風弧で防ぎつつ、腕を切り口に着けると、体力のバーがみるみる減る。指先に感覚が戻り始めた。
ザカライアは子蜘蛛を操りながら、穴蔵じゅうに糸を張り巡らす。糸が背後に回り始め、網の密度が増した。
剣を振り旋風弧を作りだし、一匹一匹潰すが非効率この上ない。
糸が足に絡み付く。後方から次々飛んでくるの糸に、俺の体が絡めとられていく。
「ほらほらっ! 動いたらサラミみたいに、スライスされちまうぜ?」
俺は一瞬、白い脂肪がつぶつぶと浮かぶ、赤い乾燥肉の断面を思い出してしまった。人肉サラミになり、こいつに食われるなどゴメンだ。
感覚が戻った右腕で剣を持ち、それを前方に突き出す。
剣を振るのではなく、魔力をため込み静の状態から旋風を発動させた。
「槍はお前さんだけの技じゃないぜ」
剣から刃の弧が放射状に伸び、ドリルのように回転を始めた。大きく羽のように広がり糸をなぎ払う。
「くらえっ!」
そしてミニハリケーンとなった旋風弧を、ザカライア向かって撃ち出す。
「いくらでも作り出してやるぜ」
突き出した両手から、まるで放水のように糸の束が吐き出された。旋風はまるで網に絡みとられたスクリューのように動きを止め、俺はさらに力を上げた。
「負けるかよっ!」
ブチブチ糸を断ち切る音をあげ、再び回転を始めたこちらの攻撃が、ザカライアに迫る。
「このおっ!」
ザカライアはすべての槍を収束させ一本にまとめた。俺の放った攻撃の中心に向け解き放つ。
互いの力がぶつかり合い、弧の羽はザカライアを包み込むように変形し、全ての足を切り飛ばした。
「ガッ……」
回転の中心部が、障壁のスキルを打ち砕く。そのまま胴体を貫いてザカリヤは洞窟の岩に打ち付けられた。
俺は体に絡みついた糸を指で摘み、一本一本外す。指が小さく切れて血がにじむ。それを舐めると、傷はあっという間に消えた。
ザカライアは両膝を突き、倒れるうなだれていた顔を上げ俺を睨む。
「勝ったつもりになるなよ。俺はまたこのゲームやって来る。そして必ずエイミを切り刻んでやるさ」
「できるのか? 無理だと思うけどなあ……」
『容疑者の潜伏先を包囲したそうだ。令状が執行される』
「なんだと?」
ザカライはまさか? の表情で目をむく。隠れ家に絶対の自信があったのだ。情報を与えれば納得するだろう。
「場所がどこか教えてくれないか?」
『山中の別荘地だよ。今はほとんどが無人だ。そこ中にザカライア本人がいる』
「なっ、なぜ分かったんだ?」
「日本の捜査機関は優秀らしいぜ」
「絶対バレないと言ってたのに。あいつら……」
「話したいことがあるなら、現実で続けてくれ。逮捕されてから存分にな」
「ぐっ、くく、くそヤロ……」
ザカライアの歯ぎしりが、こちらに聞こえてきそうだ。
「所詮お前はただの駒だったんだよ。いいように利用されたのさ」
「コケにしやがってっ! クソ野郎どもが……」
ザカライアは最後の力を振り絞って立ち上がる。すべての足から槍のスキルを繰り出す。俺は剣を円形に振り全てを防いだ。
「俺の勝ちだな」
同時に旋風弧を飛ばす。
「ガゴッ……」
ザカライアは口から血を吐き出し、首がボトリと地面に落ちる。胴体がそのまま前のめりに倒れた。ガサガサと体から動き出た蜘蛛に火を放つ。気味悪いそれは、燃えながら断末の動きを見せた。
「切り裂きの種だ……」
ザカライは生首となりながら、しぶとくゲームにすがりついていた。
「何だ? それは」
「植え付けられた、開放の種だよ」
「……」
「俺が殺したのは一部だ。他は魔王か誰か、種に犯された別のヤツのコロシさ」
「なんだと?」
「ライラをヤレと頭に響きやがった。テメエのイイ女だったヤツだろ? 言いなりもシャクだしな。無視したぜ……」
「!」
首はポリゴンとなる。因縁が消えた。
「こいつ一人じゃ、なかったのか……」
ザカライアは使い捨てにされてしまった、本当にただの駒だったようだ。




