第39話<切り裂きの討伐>
明るくなりはじめた天井の下、俺はザカライアが潜伏していると思われる迷宮開口部へ向かって飛ぶ。
『探知多数だ』
「了解、降りて森の掃除だな」
迷宮から融合の魔獣たちが湧き出し始め、封鎖部隊台は安全第一として撤退していた。俺の任務はそれらの掃討、そしてリッパーの討伐である。
数体のゴブリンが棍棒を持ってうろうろしていた。
「何だか懐かしいぜ……」
昔のゲーム時代のキャラのような気する。会うのは久しぶりだ。
ゴブリンはこちらに気がつく。すると背中から蜘蛛の足が現れた。タグ持ちだ。
「ふん、ザカライアが操っているのかな?」
棍棒を振り上げながら、ゴブリンたちは一斉に襲いかかって来た。俺はジグザグに機動しながら、すべての首を切り落とす。
それでもなお動いている背中に剣を突き立てとどめを刺す。爆炎を注入して中の蜘蛛を燃やすと、ゴブリンはポリゴンとなって消えた。
続いて現れたのはビックフットだ。これもまた懐かしい。両方の肩それぞれに蜘蛛の足が蠢く。
俺は剣を振り下ろし一刀両断。真っ二つになった体から二匹の蜘蛛が飛び出す。左手を突き出し火を放つと、蜘蛛はまるで悲鳴のような音を出して燃える。
探知したそばから、俺は森の中の魔獣と怪人を狩りまった。
迷宮への入り口には、特に敵はいない。
盾の団は精鋭を組織して、一度ここの強行偵察を行った。それは惨憺たる結果に終る。クレイグは沈痛な面持ちで俺にそう話した。
事情が複雑なのは理解できる。
俺のような若造が、特別な凶悪犯を制圧するなど納得できない者もいたのだろう。それに俺は官庁に勤める官僚の息子だ。他の組織に出し抜かれるような、焦りがあったのかもしれない。
クレイグはその意見を押さえられなかったのだ。死亡三名。ださずに済んだ犠牲である。
説明を終えたあと、クレイグは苦り切った表情浮かべた。
やはり俺は強いだけの、ただの厄介者であったのだ。
俺はイライラをぶつける相手を求めるように、どんどん迷宮の奥へと進む。
上部の岩棚から魔獣が襲ってくるが、歩きながら剣を振り次々に旋風弧を作り出して空中で切り捨てた。
奥からは因縁の気配を感じる。念のため視界の隅に体力と魔力のバーを表示させた。オールグリーン。問題ない。
「久しぶりだな。約束通り戻ってきたぞ……」
洞窟の行き止まりで、男が膝を抱えてうずくまっている。ザカライアだ。
俺の問いかけにゆっくりと顔を上げる。
「てめえか。おせえ……」
「悪いな……。仲良く戦おうじゃないか」
「はあ? わけ分かんねえよ……」
ザカライアは大儀そうに立ち上がった。
「ずいぶん殺したからな。さすがに、そろそろ来る頃だろうと思っていたよ」
「相変わらず人殺しか」
「てめえこそ、相変わらずのズル野郎か。俺たちが地面をはいつくばって泥にまみれていたのに、てめえはどうだった? 優遇されて楽勝で魔獣を倒していただろ?」
「それが気に入らないのなら、直接俺に言えばよかった。お前たちは腹に溜め込んで、影でこそこそやっていただけのクソ野郎どもさ」
「そして俺はクランのリーダー、お前さんは一人ぼっちのギグだ。傑作だと思わなかったのかよ。このバーカ……」
「それで、お前は切り裂き魔か?」
「てめえだって同じ穴のムジナだ。この穴倉でうごめいている、虫と同じなんだよっ!」
「ああ、虫けら同士の戦いだ……」
ザカライアの上半身が盛り上がる。背後からは。細い蜘蛛の足がクネクネと動きながら姿を現した。
「魔王が面白い力をくれた。アンチチートプログラムだとよ」
嫌な気配が周囲に広がる。この穴蔵に仕掛けて、俺を待っていたのだ。
「早速パクったのか?」
「ズル野郎に言われたくないぜ」
話はそろそろ終わりだ。俺は剣を抜き、小細工なしで真っ直ぐに進む。
ザカライは上着を破り捨てた。首には五つのタグが掛かっていた。ニヤリと、不敵に笑ってみせる。
「チッ……」
両肩からも蜘蛛の足が飛び出た。そして両足両腕からも、同じく長い足が八本伸びる。
『これはもはや結界だよ。自分に有利なフィールドを作り出し戦う力』
「やるしかないな。頼むぜ、俺のチート」
ザカライアが手を振ると、空中にいくつもの繭が飛ぶ。それははじけて小さな蜘蛛となった。そして糸を吐き出し次々に張り巡らされる。
俺は剣を振るうが、糸は弾力があり切断不能だ。こちらを囲むように蜘蛛糸の網が形成される。体が触れると、妙な振動が感じられた。
「古臭い手じゃないか。」
俺はどのような仕掛けか、だいたい想像がつき身をかわす。
「そしてこれさ」
ザカライアの体に張り付いている蜘蛛が、全ての足を引く。そして突き出し力を解き放った。自由の槍だ。
「くっ……」
俺が張った障壁は、次々に押し寄せる槍に削られ砕け散る。調子に乗るなよと、剣で魔撃を次々と叩き落とすが、腕が糸に絡みとられた。そして簡単に切断されて床にボトリと落ちる。
人を生きたまま切り刻む、切り裂き魔の技だ。




