第38話<世界の支配者>
城の門が初めて開放された。そして城の主人たる聖女の演説があるとの御触れがあった。
噂を聞きつけたプレイヤーたちは、最初は怖々と城門をくぐる。
得体の知れない権力者に呼び出されるような心境か、はたまたただの怖いもの見たさなのか。
人間を選び、この街に残ったほとんどのプレイヤーが城内の広場に集まった。
宵闇が迫る城のバルコニーに、聖女が姿を現す。そして演説を始める。
クリスタルは自身が事件を解決するプログラムであり、それを使用すれば魔王の仕掛けたロックを外せると話した。
状況の説明をし、そして士気を鼓舞する。全員が話に聞き入る。
ただ強いだけで、暴れまわるしか能がない俺と違って、明確なる解決へのキーがここに示されたのだ。
「今、私たちは皆様の救出に全力を尽くしております――」
聖女は電脳世界のカリスマだ。その威風は俺も体験していた。この世界に君臨する、最強ステータスである。
敵の正体がいまだによく分からないのに、自分の正体をさらす。この方法が良い方に転ぶのかどうかは、俺には分からなかった。
しかしクリスタルは、このような情報公開を必要と判断したのだろう。
「まあ、上手くやってくれ――」
俺は蚊帳の外だと感じ、その場を離れる。
「――勝手にどうぞさ……」
エイミとヒナがクレイグ、ハリエットと共にいた。二人は、盾の団と行動している。こちらには気が付かない。
エイミはキョロキョロしている。俺を探しているようだ。
もう単独で行動できる状況ではない。切り裂き魔の件もあるので、俺としても安心できる。
ゲーム世界の勇者は仲間に囲まれて楽しくやっているが、現実はなかなか厳しいのだ。
最強無双のチートに釣り合う仲間などいない。
やはり俺にはギグがお似合いだ。威風に背を向け、一人城壁の外に出た。
「何だか悪かったな」
帰り道に自衛隊の、見た目は少年エリオットが、俺を待つように立っていた。
「別に……」
最初は子供と思っていたが、話ぶりから正体は年上だと分かる。自衛隊員なのだから当然だ。
俺たちは歩きながら話す。
「俺がファンなのは本当だ。隊員には多いんだよなあ……」
子供の姿でこの口調は違和感がありすぎる。
「我々には馴染みがあるんだ」
「聞いてますよ」
エイミからは自衛隊内にファンクラブがあるとは聞いていた。広報活動の一環だそうだ。
「まあ、自分たちを応援するような感覚だな」
そう言い訳するように話す。
「分かります」
「俺のこの姿はアバターだ。子供の方が目立たないからな。本物の私は、当然大人だよ」
ありがちの、見た目は子供で中身は大人ってヤツだ。
「聖女からの命令系統があるのですか?」
俺は少々嫌みな質問をする。話せないと分かったうえでだ。含むところがないわけではない。
「ゲームの中は勤務時間外だから――」
エリオットは笑って言った。笑顔は子供の姿であるが、口調は大人で違和感がある。
「――頼みを聞いてあげる程度だ。正式の命令ではないんだよ」
さすがに気を使う案件なのだろう。自衛隊は本来の命令系統で動きつつ、個人案件として聖女を守っている。
目立たないアバターを選んだ、などと明らかにごまかす。やってますよと、告白しているようなものだ。
「とはいえ、今だって給料が出ているからなあ。やっぱり働かなきゃいけないんだよ。税金だしね」
「事情は分かります」
曖昧な話でよくは分からないので、これ以上続けても仕方ない。
「話は変わるが、エイミと一緒にこちら側に付いてくれれば士気が上がるんだがなあ」
エリオット話をはぐらかす。
「あれはギグだから、それはないでしょう。俺もです」
「まあね。盾の団にいても戦える。良しとするか。しかし、残念だなあ……。どうだろう。全員で結束するというのは?」
『我々は営利が目的の会社だ。役員会の決定と株主への説明が必要となる。ゲーム正常化への協力は感謝するが、国家規模の問題には対処はできないな』
「だそうです」
『正式な筋から要請があれば検討する。しかし今の君たちでは、ユーザーの要望に答えるレベルだ。組織としての要請があればこちらも組織として動く』
「それは理解しているよ。なかなか動くのがね。それから我々の身分ついては秘密としてほしい」
「もちろんです」
「うん。じゃあ……」
国がこの騒動を収めてくれるならそれもよい。俺は期間限定のチートだが、ただのプレイヤーなのだから。
『依頼されたのは聖女の救出までだ。これからは我々の戦いを始めようか』
「ああ」




