第36話<聖域>
そこはいかにも平和、といった感じの場所だった。天井は普通の空間よりも明るく輝いて、少し青みがかっている。空に近い。
緑が豊かな場所だ。俺たちは草原に立ち、近くには森が見える。
「ここはどこだ?」
「わたくしの聖域です」
『驚いたね。こんな場所があったのか……』
ゲームの主任としても、勝手に色々作られて面子丸つぶれである。
『政府系の案件だな。私が手がける以前の作品だよ』
そして俺に説明するように話した。聖女の表情が微妙に動く。
「今の私の姿はどのようですか?」
「白いドレス姿だ。かなりボロだが……」
「もう下ろしてください。歩けます。ヘイゼルのソースを足に戻しましたから……」
俺はそっと聖女を立たせる。足元はしっかりしていた。目は閉じられたままだが、周囲をキョロキョロと見回す。何かを探しているようだ。
「裸でなかったのが幸いです。今はこの程度の衣服を身に纏う力しかありませんから……」
そうは言ったが、服はあちこち大きく切り裂かれている。その隙間から胸元は露わになるし、スカートの後ろも腰まで大きく破けている、ほぼ丸出し状態だ。
「行きましょう」
目が見えない聖女は、森の中をどんどんと進んだ。歩くたびに太ももが大きく露出する。
そして眼前には泉が広がった。
「ありましたね。水を浴びるので後ろ向いていて下さい」
俺は言われたとおりにする。聖女脱衣の、衣擦れの音が聞こえた。
「泉には、何か力があるのか?」
『あれは事前に用意していたプログラムの渦、スキルの塊のようなものだね』
背後に大きな力の高まりを感じる。これが真のステータス聖女だ。
「もう結構ですわ」
言われて俺は振り返る。聖女はゆっくりとこちらに進んで来た。
長い銀髪に薄い水色のドレス。腰に金色のベルトが現れ、きゅっと閉まる。腕、首元、耳、そして額にアクセサリーが現れた。更に髪飾りも。
それはあの奈落で見た、謎の種族の姿に酷似していた。まぶたがゆっくりと開かれる。赤い瞳に銀色のまつげが揺れた。
俺は思わず、一歩踏み出す。膝が折れそうになる。無意識のうちに平伏してしまいそうになる。
「これが最強ステータス、聖女の力――」
「あなたが普通すぎる勇者なのですよ。今まで力を抑えていたのです。魔王に捉えられるために……」
「わざとだと?」
「あなたが弱すぎるのです」
『こちらにも事情があるのだよ。容量の全てを戦闘に振り向けたのだから』
「そうですか」
『君とは違うんだ。富岳に割り込みがあった。コードは、政府か……?』
「わたくし、量子電脳の力を借りなければ、あの力が使えませんから。問題はありませんよね?」
『もちろんだ。そのために発行しているのだからね』
「ありがとうございます」
周囲を見回してから、聖女は再び歩き始める。俺はわけも分からず後を追う。
「そう言えば――、まだあなたの名前を聞いていませんでしたわ」
そして立ち止まって振り向く。
「俺はギグのユーシだ」
「本当のお名前を教えてください」
「仙崎勇士……」
「……そうですか」
「あんたは?」
「鷹司陸花と申します。クリスタルとお呼びください」
聖女の大きく、キラキラとした瞳が俺を見据える。
「あなたのような人が勇者に選ばれるとは残念です」
「またか。どういう意味だ?」
「一つの世界を救うのですよ?」
聖女を迎えに来たのが俺では、どうやらご不満のようだ。それに言葉の意味も、一体何を考えているかもよく分からない。
「たかがゲームの事故だろう。救うのは運営だ。俺は手伝いをするだけさ」
「勇者がこの程度とは……、だから……」
それに助けてもらって、この言いぐさだ。
「あんたは何なんだよ。聖女? たかがゲームのステータスだろ?」
「そうですわね」
「なぜ俺がこんな役回りに選ばれたのか知っているのか?」
「あなたのお父様は立派なかたと聞いておりますわ」
「父親は俺とは関係ない」
「テストプレイは違うのですか?」
「ぐっ!」
こちらの素性については、なぜか事前に知っている。俺は少し気味が悪くなった。
「とにかく、どこでわたくしを使うべきなのか、よく調べてみます」
『それはこちらでもやろう。京介を使ったのはあなたか?』
「ワクチン開発を依頼しましたわ」
『魔将デイミアンだよ』
プロフェッサーが、そう捕捉説明してくれた。




