第35話<聖女奪還>
つまらないクイズ問答を続けていると、大きな岩山に着いた。
「ここですニャン」
「見張りや警備なんてのは、いないんだ」
四、五階建てのビルほど高く、洞窟への進入路が口を開ける。
『中は障害多数だ』
「迷宮か」
奈落のパートと同じであろうか? どのような展開が待ち受けているか、だいたい想像がつく。
しかし意外にも、猫娘が次々と罠を解除する。俺はただついていくだけだ。
「凄いね」
『聖女の力を分け与えられている。本人が脱出できないからだよ』
古典的な落とし穴や、因縁の奈落行きも口を開けていた。
迷路のような迷宮を、罠を回避しながら着実に聖女へ向かって進む。
時々小物の魔獣が出るが、それは俺が簡単に排除する。
途中、鉄の扉がついた岩肌が目につく。わざとらしすぎだ。
「どうだ?」
「ドア自体に罠はないニャン」
「よし、俺が行く」
魔力を使ってその扉を吹き飛ばす。ニャンを信じないわけではないが、念には念をだ。
洞窟を慎重に奥へと進む。先には鉄格子らしきものが見えた。どうやらここは牢獄のようだ。
薄暗い牢の中に、蝋人形のような白い肌が見えた。それも複数だ。
「ばっ、ばかな……」
エイミ、ヒナ、アイヴィー。それは俺の知っている女たちだった。素っ裸にひんむかれて、閉じ込められている。手足に拘束具がはめられ、首輪には鎖が付いていた。
「なんてこった……」
俺のいない間にさらわれて、転送回廊を使い、ここまで連れてこられたのだ。
「ちくしょう。これは一体どういうことなんだ?」
こんなことありえないだろ? いつでもこんなことができるとの、魔王の警告なのかもしれない。
プロフェッサーからの返答はなかった。ニャンも中に入ってこない。
「大丈夫か、みんな?」
俺が問いかけると、伏せていたエイミが顔を上げる。
「大丈夫か?」
「私、きれい?」
「はあ? 何を言ってるんだ、こんな時に――」
「私、きれい?」
「――すぐ助けるから」
「私、きれい? ここにいる誰よりもきれいかしら?」
「当たり前だ……」
俺は引きちぎろうと。鉄格子をつかむ。
「あっ……」
視界が暗転した。気がつくとそこには何もなかった。ただの穴蔵だ。
「どうしたニャン?」
振り向くとそこにニャンがいた。
「俺は一体、何を……?」
「危ないところだったニャン。幻覚を見せられていたニャン」
「幻覚? そうか……」
『驚いたよ。一瞬接続が切れた』
「悪かった。迂闊だったよ」
「これはスケベな男子向けの罠だニャン」
「違うだろ?」
空間にモニターが開き、俺が見た映像が再生される。
『ばっ、よ、よせよ!』
「幻覚スキルなど、元々の設定にはない。研究と対抗策が必用だ」
「ったく……」
「やっぱりスケベな罠ニャン」
「……」
巧妙な罠をかいくぐりつつ、俺たちはようやっと最下層らしき場所に到着した。
「ここか?」
「そうですニャン」
俺はことさら慎重に先へと進む。
「ヘイゼルなのですね?」
「はい、ご主人様ニャン」
突き当たりに聖女がいた。鉄格子の向こう、手足共に枷が付き鎖は岩肌に打ち付けられている。ボロボロの白いワンピース姿だ。
「裸じゃないから罠ではないようだな」
「そんなところに基準はないニャン」
「そうか?」
「あなたは……」
聖女は顔を上げた。
「一度遭遇したな。勇者だよ。君の救出を依頼された」
改めて自己紹介する。鉄の檻を引きちぎり、手枷、足枷は手をかざして粉々に砕く。
「あなたの素性を聞かせていただけますか?」
「俺は勇者だが、ただのゲーマーだよ。あんたは」
「私もただのゲーマーですわ」
どうもお互いに話がかみ合わないし、聖女はあさっての方向を向いている。
「今の私は何も見えないので介助が必用です」
奈落と同じで聖女の目は閉じられたままだ。
「ちっ……」
盲目の聖女とは設定が厄介だ。俺は華奢な、その手を引いた。
『視覚のデータをカットしている。その部分にワクチンを組み込んでいるだけだ』
どうやら、現実では見えるようだ。
「さて、ここからどう逃げるかだな」
「うっ……」
聖女の足元がふらつく。
「立てないのか?」
「足の機能も、大幅に奪っております。魔王にとってもこちらの方が望ましい……」
俺は肩を貸した。しかしそれでも歩行はおぼつかない。まるで子供を抱くようにして俺は聖女を持ち上げた。
「これからどうすればいいんだ?」
「まずは外に出ましょう。それから脱出路を探します」
このままどこかに転送できれば、と考えていたが無理のようだ。
帰り道には新たな罠が仕掛けられているとかで、俺たちは別のルートを行く。しかしヘイゼルの先導で、今回も全て避けながら楽勝で外に出た。
「ヘイゼル、戻りなさい」
「はいニャン」
パーソナルモニターを開き、聖女はメイド猫を消す。
『悪い知らせだな。この空間に次々に魔獣と魔人が入り始めた』
「何だって?」
警報システムのような何かがあったようだ。魔王はなかなか慎重派だ。
そして俺も感じた。敵が迫る。気配は強敵ぞろいだと告げていた。
『ここを包囲するようだね』
遥か先に土煙が見える。視界全てにだ。一方向にだけ威力を発揮する、何とか砲は使えない。来た道を引き返すしかない。
「早くあの回廊に戻ろう!」
『閉じられたよ。魔王もやるものだ。目標は私たちだな。まとめて結界に閉じ込めるつもりだ』
「大丈夫ですわ。聖域回廊を開きます。私の手を握りなさい」
「こうか?」
俺は聖女を抱きかかえたまま右手を握る。
『富嶽に外部アクセス、認証コード有り。これはっ!』
「わたくしの量子プログラムを走らせます」
『ちょっと待て。ステータス勇者のソースを使う? テストなしか。いいだろう』
直上に光が発生する。光芒が何条も伸びる。俺は空を見上げた。光輪が出現し五人の天使が逆さまに現れる。
そして、手を差し伸べながら降りて来た。
「こいつら……」
「わたくしの守護天使たちです」
チートですら思いつかない、トンデモチートスキルだ。五大天使はそれぞれ片手を魔獣の群れに向けた。光線が発せられ、土煙の原因を薙ぎ払うように動く。
「すげ……」
そのまま俺たちは、天使の輪の中に引き込まれた。




