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第34話<雑魚と対決>

「あいつら全員タグ持ちだったな。それにまともだった」

三根(みね)――魔将デイミアンは上手く連中をまとめてくれたようだ。一部データを交換した。いざとなれば、我々に協力してくれると思うが……』

「それは心強いぜ」

『あれは聖女の力だな』

「・・・・・・」


 俺は回廊空間を移動しながら考えた。明らかにデイミアンは聖女の協力者としてこの世界に来ている。


 味方となってくれるなら、理由は何でも良い。魔王は未だ得体の知れない敵だ。それにしても――。


「そもそも聖女って何者なんだ?」

『ワクチンプログラムを自らに植え込んで、このゲームに参加した女性だ』

「それは俺にも分かるけど……」

『申し訳ないね。運営としては残念だが、このゲームには、多くの分からない人間が関わっているのだよ。このような事態になって、多数の組織が動き始めたのだ。いずれ分かるさ』

「聖女の次はリッパー、そして魔王の居所か」

『そうだ』

「どこにいるのは分からないか……」

『気配を消してこの世界のどかに潜伏中。探しているがね』


 ゲームの敵、魔獣と魔人と化した人間。他にもいるだろう。


「気長に探すしかないのか?」

『しかし時間はない。あの男は信用しても良い。ここは当たりだと思う』


 俺たちは広大な空間に飛び出した。遥か先まで荒野が続き、大きな岩がゴロゴロとしている。まるで西部劇に登場するような光景だ。不毛の地である。


『人が魔獣に追われている』


 早速プロフェッサーが手がかりを見つけた。


「助けよう」


 空中に上がり、導かれるままに空を飛ぶ。遠くに逃げる者が一名、それを追う集団が見えた。


 俺は空中からその間に割って入り着地する。魔人たちは慌てて動きを止めた。


「こっ、こいつはチート勇者?」


 明らかに悪役ふうていの魔人たちは、なぜか俺のことを知っている。


「運営から依頼されて聖女を探している。お前ら知ってるか?」

「こいつ賞金首だ」

「ああ、――だ……ぜ」

「山分けだな。いいだろ?」

「いや、俺一人でやらせろ」


 こいつらは進んで魔人化を選んだゲーマーたちだ。こちらの方が強くなれるし、悪役キャラに憧れる人間だって普通にいるだろう。俺の話をまったく聴かずに、勝手に話をしている。


「賞金?」

「ハッキングで手に入れた、仮想通貨をたんまりくれるんだ」

「つまりお前は、当たりの宝くじみたいなもんなんだよ」


 俺は振り返って倒れている者を見た。頭には耳、それに尾、猫の瞳、いやマジなのか? その猫娘は膝を折って地面に座り込む。


「お前ら、何でこいつを追っているんだ?」

「この辺をウロウロしていたのさ。そのメイド服みたいな中身は人間なのか猫なのか確かめようと思ってな」

「そうそう、魔人でもなさそうだし、珍しい猫獣人を裸にひん剥いて、じっくり観察しようってな」


 その猫娘は怯えたようにプルプルと震えていた。尻尾が丸まって、耳も下がっている。


「やれやれ……」


 エイミ=女、俺様=金、猫獣人=好奇にしか思えないのは確かに人間の欲望であるが、あまりにも単純すぎる。


 本物のゲーマーならばこんなゲームでも、もっと違う意味を見出して楽しんでいることだろう。


 さっきのヤツらみたいに、眺めるだけで済まそうとは思わないのか?


 人間、いや俗人すぎる。ただし俺は、そんな奴らは嫌いではない。ただこいつらは度が過ぎるのだ。


「面倒くさいな。殺した後でも記憶を探る、なんてできるのかな?」

『可能だ』

「よし! それでいこう」

「なにブツブツ言ってんだよ! 俺様が相手をするぜ」


 相手は巨体と腕っ節を強調する。ならばこちらも素手だ。


「見ろよ、この体を? レアキャラのモンスターウルス(怪物熊)と融合したんだぜ。他にも小物の魔獣が数体――」

「だから?」

「勇者がどれほどのもんだっ!」


 因縁のあるボスキャラも、俺にとっては今や雑魚キャラだ。クマ君は腕を振り上げた。


「オラあっ!」


 俺は右手を出し、人差し指一本でその豪拳を受け止める。


「ばっ、ばかな!」


 そのまま中指を左手で引き、拳をはじく。いわゆる指パッチンだ。


「がはっ」


 クマ君魔人の腕がはじけて、一呼吸後に体も破裂した。漫画みたいな過剰破壊力である。


『脳を破壊すると記憶は探れない』

「初めての技は力加減(かげん)、セーブが難しいな」

「にっ、逃げろ……」

「こっ、こいつ化物だ」


 俺は魔人に言われ、少々ムカついた。


「ごへえ」

「はぶわっ」

「ひぶで」


 軽い平手打ちで腕や胴などを攻撃し、全員絶命させる。剣で心臓一突きされた方が楽だったろう。


「全員死んだぜ。できるかな?」

『可能だ。吸い上げた記録を送ろう』


 何やら頭の端に、早送りの映像が浮かぶ。ハズレばかりだ。


「あっ!」


 一時停止し巻き戻る。それはこの地に連行される聖女の姿だった。檻の球体に閉じ込められ、洞窟の中に入って行く。こいつらはその作業をやらされたようだ。


『地形検索、場所を発見』

「めちゃくちゃ便利だな。敵の正体とかも分からないのか?」

『それは記憶には、なさそうだ』


 つまり真のボスキャラ、魔王はザコ魔人の前には姿を現さないのだ。


「まあ、いい。そのうち会えるさ」


 過酷な戦いを終えた俺は振り返る。次はこちらの番だ。人だと思っていたがそれは間違いだった。猫獣人だ。


「なぜこんな所にいるんだい?」

「それは……、ニャン」

「にゃん? あんた魔人か?」

「ちっ、違いますっ! ニャーッ」


 互いに素性がしれないのはやりにくい。先に自己紹介する。


「俺はユーシ。この世界を救うために、現実の世界から送り込まれた。そしてこいつが――」

『プロフェッサーケイである。この世界と現実の唯一の接点だ』


 と説明した。この話を作り話と考える者はそうはいまい。


「勇者様……ニャン」

「俺は勇者なんかじゃあないよ」

『君がどう思うかではなく、世間の評価が――』

「分かった、分かった。俺は勇者だ」

「私はヘイゼル、聖女様の下僕ですニャン。お待ちしておりました。勇者様ニャン」

「本当か?」

『そのようだ。彼女はAI(人工知能)のキャラ、人型のドローンと思ってくれても良い』

「なるほど」


 小動物への擬態が可能ならば、人間サイズも可能なのだ。そして聖女ならば、このような大きさの猫型AI(人工知能)を自在に操れるのだろう。


「俺は味方だ。聖女の所まで連れて行ってくれ」

「あなたが味方かどうかは、私が判断いたしますニャー。それが仕事ですのでニャン」


 セキュリティーが厳重なのは、立場を考えれば仕方がない。しかしAI(人工知能)に俺を判断できるのか?


「これから聖女様に関わるクイズを出しますニャン。それに答えていただければ味方と判断いたしますニャン」


 しかしこの状況で、悠長にクイズ遊びをしている場合ではない。時間がないのだ。それにこれ以上、ニャンに付き合ってはいられない。


「場所はわかるから勝手に行くよ。俺は暇人じゃないんだ」

「それでは第一問! だニャーン」

「おい、こっちの話を聞いているのか?」


 獣人少女のヘイゼルは、そう言いながら勝手に歩き始める。俺は諦めてあと追う。AI(人工知能)キャラは融通がきかないのだ。


「聖女様はランダムに場所を変えられていますニャン」

「そうなのかよ……」


 つまり猫娘に教えてもらわなければ、聖女にたどり着けないのだ。


「うーん、悪いが俺は聖女と、ちょとだけしか会ったことがないんだよ。クイズと言われてもなあ」

「聖女様の好きな色は何色でしょうか?」


 色?? 知るわけがない、しかし――。


「分かった。銀色だ」

「ピンポーン、当たりでーすニャン!」

「俺たちは聖女に向かっているのか?」

「さて、ニャンでしょうかねー?」


 ヘイゼルはそう言ってしっぽパタパタさせる。会話の成立すら怪しい。


「それでは次ですニャン。聖女様の好きな小説は、どのようなジャンルでしょうか? ニャン」

「知るかよ……。何でも適当に答えたほうがいいのかな?」

『回答なしの方がまずいかもしれないな。適当に答えても当たる可能性がある』


 なんとも心もとない話である。


「よーしそれじゃ、ボーイズラブだ。きっとそうだ。間違いない」


 性格の悪そうな女だった。あれはボーイズラブ好きの顔だ。間違いない。もしかしたら当たるかもしれないし……。


「ハズレでーす。残念ニャン!」

「嘘だろう。じゃあ、あれだ。ざまあ、悪役令嬢だ」

「当たりですニャーン」

「めちゃくちゃ適当じゃないか! 何だよ、それ……」

『どうやらこの会話に付き合うことこそが、味方としての確認のようだね』

「適当に話すだけなら誰だってできるよ。いや、魔人化しちまった奴らには、無理なんだろうかねえ……」

『人間性がどこまで残っているかの判定だね』


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