第33話<魔将との対決>
俺は剣を抜いた。魔将はマントを脱ぎ捨て上着を破り捨てる。露になった上半身から無数の魔獣が顔を出す。タグ三枚にしては過剰な融合だ。
「そっちもチートだろ?」
「チートが相手だからな」
魔将の拳から四本の牙が伸びた。あっと思った瞬間、振りかぶった魔王が眼前に現れる。
「うおっ!」
俺は障壁を展開しつつ後退。まばゆい光が飛び散り、かろうじてその拳を防ぐ。
次に振られた左拳が側面を狙う。俺は障壁付きの腕でブロックし、そのまま弾き飛ばされた。そて一回転しつつ着地する。
「こっちも行くぜ」
旋風弧を次々に作り出し、魔将デイミアンに向かわせる。相手はステップを踏みながら、連続で旋風を打ち砕く。そしてそのまま再び猛然と俺に突っ込んで来た。
十字を組んでその攻撃を阻むと、デイミアンの腕から獣の骨のような凶器が現れる。そいつは俺の腕とへ食い込んだ。
「がっ……」
下からの攻撃に上へと突き上げられ、拳の牙は深々と俺の腹にめり込んだ。その直後一回転した俺はデイミアンの顔を切り上げるが、それは障壁に阻まれる。しかし効果があったようだ。魔将は後退した。
『あいつは学生時代に、ボクシングをやっていたんだ』
「それを早く言ってくれよ……。俺は何もやっていないぞ」
魔将デイミアンの周辺に雷が煌めき始める。更に力を上げたようだ。俺は剣を引き低く構えた。
「くそ……」
明らかにこちらの力は封じられている。これが、アンチチートプログラムの力だ。
デイミアンは再びファイティングポーズをとって突っ込んで来る。俺の大きく振った剣が、長く伸びる弧を描く。
それはデイミアンの上半身にぶつかり、そして輪となって繋がった。その体を一気に締め上げる。
ゴロツキから拝借した技を応用したのだ。どうにも力と力のぶつかり合いは、こちらに分が悪い。
輪を押し広げようとするが、輪からは小さな旋風が現れ弧を描き、魔将の体に突き立てられた。
「小賢しいぞっ!」
そうはいくかと力を上げたデイミアンの体中に雷が光る。
「負けるかよ」
俺もまたその力を上げ、一瞬気が遠くなりかけた。あまり時間はないようだ。
これしかないと思い、実剣を打ちかけるが、一瞬早く魔将が輪を打ち破る。
側面から右拳が俺を襲う。しかし間合いは剣だ。勝てる!
そう思った刹那、魔将の右手から刃が長く伸びた。剣を仕込んでいたのだ。そいつは障壁を打ち砕き、俺の脇腹をえぐった。
「ぐあ……」
俺は慌てて飛び退くが、口から鮮血が滝のように流れ出る。とんでもないダメージだ。
「……俺は無双なんじゃないのか?」
『富岳にまだ余裕はあるが、器が持たなかったようだ。これがチートの限界か……』
「こっちは器役かよ」
俺は致命傷を負った。しかし魔将もまた右腕が盛り上がり破裂する。そして左肩も同様となり、ヨロヨロと後ずさる。
突き刺さった小さな弧から、体に爆裂する魔力を仕掛けていたのだ。魔将デイミアンの力が下がり、こちらのプログラムを抑えられなくなってきている。
『どうした?』
「CPUが三つほど焼き切れたようだ。冷却が追いつかん……」
お互い作り上げた最強のプログラムに、お互いのハードが追いつかない状況となっているようだ。プログラム同士の戦いとは、こんなものなのだろう。
「まずいぜ……」
再び気が遠くなった俺は、更に後退して後ろに倒れる。魔将デイミアンは力を振り絞って立ち上がった。
最後に結局、古典的な気力と根性の戦いになるのは、まるでこのゲームへの当てこすりだろう。
「やめなさい!」
エイミが思わず間に割って入り、上着とパレオを脱ぎ捨てた。お馴染みの戦闘スタイルになる。
「よせ……」
傷ついたとはいえ、魔将といちプレイヤーでは強さの次元が違う。ヒナが俺の横に立ち魔導書を開き、援護の体勢にはいった。
「おい、あれってエイミだろ?」
「そうだ! ゲーム動画で見たことあるぞ。本当にあんな格好で戦っているんだな」
成り行きを見守っていた魔人たちが騒ぎ始める。ここでもエイミは有名人だ。
「俺、水着の写真集も買ったけど、あそこまでエロいのはなかったぜ!」
「凄いじゃんか。早く戦ってくれよ」
「バカ、魔将はもう戦えないぜ。やられちまう」
「いいじゃん。エイミが勝つんなら」
「いいぞー」
「もっとやれ」
「ヒュー、ヒュー」
剣とナイフを抜いて、デイミアンをにらんでいたエイミは戸惑いながら周囲を見回す。
「もう一枚脱いでくれよ」
「そうだ、そうだ。脱げ、脱げ!」
エイミは自分の姿を改めて見てから赤面した。
「ばかばか! そんなことするわけ、ないじゃない。見せ物じゃないのよ! あっち行きなさい」
そう言って手を振る。
「もう一人は脱がないのか?」
「エイミみたいに見せてくれ、よっ!」
今度はヒナが顔を赤らめる番だ。
「全く何やってんだか……」
ストリップショーではないのだ。ここの魔人たちは魔の欲求よりも、ごく普通な正常男子の欲求が勝っている。
痛みが薄れ始めた。傷が治癒を始める。一方、魔将の傷は治る気配を見せない。
『私たちの勝ちだな。諦めろ』
「いや私は負けていない。勝ったのは貴様が利用している超電脳だろ? 負けを認めるのはそちらだっ!」
『やれやれ……』
俺は進みエイミの背後に立つ。
「決着はついた。引き分けだよ。早く服を着ろ。悪かったな」
エイミは顔を赤くしたまま、服を取り出して装着する。そして俺は魔将の前まで歩く。
「プログラム同士の戦いは、引き分けで決着がついた。互いにハードがイカレかかったら続行は不可能、だろ?」
「ちっ! 聖女は閉鎖空間に幽閉されている。回廊は繋がらんが俺が穴を開けた。見ろ」
魔将が手をかざすと光が空中に渦を巻く。
「中に入れるのは一人だけだ。それ以上プロテクトを外せなかった」
『君がそうなら、私がやってもそこまでだろう』
「強力な魔人を何体か呼出し、閉じ込めているようだ。罠だよ」
「あんたに引き分けた俺なら楽勝だろ?」
「そうだな。お前はこの世界最強だよ。俺様と同じでな。それと魔王……」
「知っているのか」
「遠くから一度探知しただけだ」
「あいつは一体何者なんだ? どこにいる?」
「さあな? 聖女を移動させた時、この先での話だ。今はどこにいるのか……」
行くしかない。
俺が振り返ると、エイミとヒナは頷いた。
「先に帰っていてくれるか?」
「一人で戻れるの?」
『ルートは記憶した。大丈夫だ』
「気をつけてね」
「分かった」
回廊に飛び込んだ二人を見送ってから、俺もまた聖女へと続く光の渦に飛び込んだ。




