第32話<魔将の村>
ヒナが魔法を行使しつつ、俺たちは複雑に入り組んだ回廊空間を進む。
通常は入り口と出口しかない転送回廊の途中から、横道に逸れるようなイメージだ。そしてお目当ての出口を探す。
「こんなことができるんだなあ……」
「ユーシの力があってこそです。私は少し制御しているだけですから」
「俺はなぜか制御が苦手なんだ」
『人間の脳には限界がある』
「チートの限界ってやつか。おっ、あそこか?」
白一色の空間に、光の渦が見えた。
「まだです。一旦出ましょう」
「ああ、外の様子を見たい」
「なーんにも、ないわね」
そこはただの巨大な空洞だ。ただ薄暗いだけの岩肌が続く空間であった。
『ここも一時的な、廃棄プログラムのマップだよ』
「ずいぶん多いんだな?」
『将来的には使う予定なのさ』
「ここから他につながる転送回廊は一つです」
ヒナが魔導書のページをめくり光が発生する。俺たちは再び回廊空間に入った。
大型モニターの点滅は、どんどん街から離れて行く。
「活動反応があります。それも複数です!」
「こんな辺境にか」
「高度なステータス反応も」
「それか?」
『ああ、見つけたよ。聖女だ。ずいぶん複雑に絡みついている回廊だね』
俺たちは出口から外に出る。たどりついた空間の中心部には小さな建物の集まりがあった。いくつもの転送を抜け先にある、魔人たちの村だ。
「ここがお目当ての場所か。こんな場所があるなんてなあ……」
『この村を通れば聖女のいる場所へたどり着ける。近道だな』
「つまりここも、検問ってわけだ」
大勢の魔人の姿が見え、接近する俺たちに気が付く。
エイミとヒナは身構えるが、魔人たちは珍しそうにこちらを見ているだけだ。特に敵意は感じない。
「魔人化したヤツらで村を作るなんて、ロマンだねえ……」
俺はまるで、ここが隠れ里のように感じた。
「ここに責任者なんているのかしら?」
「誰と話せばいいのかが問題ですね」
「だなあ。聖女はどこにいるんだって、一人一人に聞いて回るわけにもいかないし。まずは例の魔将だろ?」
どうして良いか分からず立ち尽くしていると、一部の魔人たちが不穏な空気を漂わせながら接近して来る。
「てめえ! 何しに来やがった?」
「ただの人捜しさ。やりたいなら相手するけどな。どうする?」
一応お約束の儀式のようなものであろう。異変を察して周囲に他の魔人も集まり始めた。
「俺は聖女を探している。知ってるヤツはいるか?」
「聞いたこともないステータスだな。裏設定か?」
「この世界のどこかにいるはずなんだ」
最初は喧嘩腰であったが、こいつらはやはり魔に犯されてはいない魔人のようだ。
「この事件を終わらせる、裏設定とも言えるかな」
集まった魔人たちは互いに知ってるか? と顔を見合わせた。
そして強力な力がこちらに接近して来る。人垣を割って、例の魔人が現れた。
「俺は魔将デイミアンだ」
こいつがここの魔人集団を率いている親玉だ。
「待っていたぞ。ステータス勇者か。よく来たな」
「どうも、俺はただのチートプレイヤーさ。あんたもプレイヤーか?」
「そうだ。ただし今は魔人の力を手に入れた――」
「見れば分かるさ」
「――現実が作り上げたチートを喰うためにな……」
「俺を?」
「これをみろ」
そう言って上着をはだける。タグが三枚下がっていた。
「融合の魔人か……」
「貴様を倒せば、俺がこの世界を救う証となる」
「倒錯しているね。俺たちに協力すれば?」
「ズルは好かん」
俺としては、どうにも痛いところをつかれてしまった感覚だ。やはり、後ろめたさはある。
「魔王に狂わされたのか?」
「ふん、ちゃちなプロテクトだな。プラグラムは私が改変した。私は私のままだよ」
「そんなことができるのか……」
タグの中までいじれるのは意外だ。
「造作もない。なあ、ケイ?」
「!」
俺は次の言葉を待つ。エイミもヒナもだ。
『魔王に協力しているのか?』
「まさか、貴様が書いたチートと、俺が作りあげたアンチプラグラム。これはその戦いだよ」
『呆れたヤツだ。こんなことまでして――』
「今回の事件、俺は予測したぞ。聖女の位置も特定している」
どうにも状況が見えてこない。二人はまるで友人のように話をしている。
「知り合いなのか?」
『カミさんの兄貴だ』
「それは、それは……」
世間とゲーム世界は狭い。オチとしては、日常系だ。俺にも妹がいるので、気持ちは分からなくはない。
『こいつはシスコンだ。それで私を恨んでいる』
「な、何を言うか! これはどちらが優れたプログラマーかを決める戦いだ!」
『あいつも日本で、いや世界でと言っていいかな? 十の指に入る天才なんだよ。しかし残念ながら私の方が、ちょっとだけ上なんだ』
「で、俺が白黒つけるために戦うの?」
『君じゃあない。私のチートプログラムと、あいつのアンチチート、どちらが上か決着をつけるのさ』
「俺様を抜けば聖女が手に入るぞ」
「俺はチートだからな。ズルは強しさ。お前は聖女側なのか?」
「協力を求められ仕事をした。聞きたいことがあれば、本人に聞くんだな」
「そうさせてもらおうか」
よく分からない理由が入り交じっているが、戦いの理由などいつでもどこでも、そんなモノであろう。




