第30話<狂気再来>
俺の日課はパーティーではないギグの三人組で、まずはギルドへ行く。その後は北東の城壁へ上がり警戒部隊からの報告を聞く。そのまま戦いに参加するか、街に戻って警戒するかのどちらかだ。
一部のゲーマー、盾の団たちは勇者の俺に協力敵だが、他はギルド経由で情報を提供してくれるくらいだ。
ゲーマーたちは、昔も今も勝手にゲームを楽しんでいる。敵として、味方としてだ。
結局俺はギグであり、ギグのままだった。
「悪い話よ……」
ギルドの受付カウンターでは、アイヴィーが深刻そうな顔で立っていた。
「また犠牲者が出たの、一晩で五人も」
「リッパーか――」
「現場は盾の団が封鎖しているわ。追ってもらえる?」
「――ああ、行こう」
俺たち三人は、クレイグたちの根城に行き、そしてメンバーに現場まで案内してもらう。
場所は北側の下町といった風情の場所だ。路地の奥にクレイグ、ハリエットがいた。
「来たな。今回はまとめて五名だよ」
「ここはあるパーティーの使っている部屋なの。女を狙わないで全員まとめてなんて、初めての事例ね。さっ、入って」
正直に言って、俺とて気が進まない。しかしプロフェッサーが解析すれば重要な手がかりとなる。エイミとヒナは顔面蒼白だが、義務感とばかりに続いた。
そこはまともな人間ならば、形容しがたい場所である。血の海、屠殺場、拷問部屋――。
「――ま……」
俺は固まった。俺を見つめているのは――、椅子の上に置かれた生首。何かを語りかけるように見開かれた二つの瞳であった。
「真佳奈……」
「現実で、知っている人なのですか?」
「あ……、ああ――」
俺はヒナの問いにやっと答え、そして目を見開いて、その光景を凝視する。五人分の肉塊は、全てポリゴンとなり消えた。損壊した遺体を保存する、この殺人鬼のスキルを打ち消す。
「――多岐真佳奈だ。この世界ではライラと名乗っている。俺の知り合いだ」
俺は数歩進んで、何も乗っていない椅子の前に跪く。
「殺してやる、殺してやる。ザカライめっ――」
そう言ってから俺は、これは改めてゲーム世界の話だと自分に言い聞かせる。
ザカライアが仇とはいえ、それは仮想世界の話。殺された者はいずれ、全員が目覚めるのだ。
しかし俺にはライラが、本当に死んでしまたったように感じた。
振り向くと目が合い、エイミは顔を伏せる。
『実況見分を終了した。この手口は、やはりある事件特有だよ』
「やはりそれは……」
『一都三県連続殺人犯、通称リッパー』
「そいつ、本当にゲーム内にいるのか?」
『確率は高い』
ついに知り合いが、惨殺の獲物となってしまった。クレイグとハリエットはこちらを見て眉をしかめている。
いろいろと因縁、遺恨はあったやつだ。しかし俺には、ザカライアが現実でも殺人犯だとはどうしても思えなかった。テストプレイヤー時代のアイツを知っているからだ。
「俺の仕事なのか――」
こんな形で解決せざるをえないのを、俺は少し寂しく感じた。ゲームのライバルではなく、殺人鬼として対決せねばならない。
『通報しよう。しかるべき官庁に協力を要請する』
行政は縦社会と揶揄されるが、こんな時はしっかり横やりが刺さるのだ。フロンティア案件には多数の官庁が関わっている。
『このような場合には通報すると義務付けられている。ゲームの健全性を保つためにもね』
「なるほどね」
殺人事件レベルなのだから、当然そうなのであろう。
『もっとも、内定はされていたと思うが……。ゲーム名ザカライアの個人情報を提供する。後日、何かしら連絡があると思うから』
「分かった」
◆
『早速で悪いのだけどね――』
目覚めたばかりの部屋で、プロフェッサーの声が頭の中に響く。
『――別行動をとってもらえるのかな?』
「悪い、ちょっと用事だ。先に行っててくれるか?」
「分かった。仕事ね」
「ああ」
エイミはすぐに察してくれた。俺はプロフェッサーに言われるままに街を歩く。
『ザカライアの自宅、登録されている住所には誰もいなかった。聞き込みをしたそうだが、長いこと不在のようだね』
「つまり身を隠している? 保護されていないプレイヤーは、何人ぐらいいるんだ?」
『十数名といったところだ』
「そんなにいるのか!」
全員がハッカーの手先なのか? それとも何か別の理由があって、ゲームに登録した住所とは別の場所でインしているのかもしれない。もし一人暮らしの自宅でこの状態ならば命の危機である。
「やばくないか……」
『問題ない。こちらから追跡できない者だけの数字だ。ブロックした状態でゲームを続けている者たちと、おそらくはダミーのAIがそれだけいるのだ』
「つまりハッカーや、リッパー側についている人間も、どれだけいるかは分からない、と言うことか……」
『そうだ。引き続き足取りを追跡する。捜査機関は優秀だよ。いずれ本人に行き着くだろう』
たどり着いた場所は、盾の団の根城であった。
「なるほど。そうだったのか」
扉を開けると、まだ早い時間である、全員がそろっていた。クレイグが立ち上がる。
「来るとは思っていたが……」
『君たちの現状、人員数について報告を求める。これは業務命令だそうだ』
「ええ、分かりました。ゲーム内に留め置かれている警察官は総勢四十七名です」
とハリエットが応える。鈍い俺にも薄々察しはついていた。
『君たちの上司がこの場に来ている。代わろう』
マイクが切り替わる雑音が短く流れた。
『聞こえるかね。ここでは名乗れんが、私が何者かは推察通りだよ』
「あっ……」
クレイグはゴクリと唾を飲み込んだ。
「まさか? 嘘――」
ハリエットも同様である。どうやらかなりのお偉いさんのようだ。
盾の団の全員が立ち上がり直立不動で敬礼した。
『君たちが名乗る必用はない。こちらでは現在、内偵捜査を進めている。この若者に協力してくれたまえ』
「「「「はっ!」」」」
『これは職務の一環だと思ってくれ。やってくれるな?』
「もっ、もちろんであります」
クレイグは緊張か声をうわずらせた。
現実世界の仕事など、ゲームの中に持ち込みたくないものである。
しかしユーキたちを嘲笑うように、リッパーの惨殺事件は続いた。今は相手の方が一枚上なのだ。




