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第29話<友の行方>

 飲み直しも終わり、俺たちは店を出る。


「なあエイミ、頼みがあるんだけど……」

「何よ? あらたまって」

「金貸してくれ」

「嫌よっ!」


 即決で融資を拒否されてしまった。しかしこちらも簡単に退くわけにはいかない。


「ケチだな。俺は今も文無しなんだ。財布の中身が空っぽなんだぞ」

「別にいいじゃないの。後は帰って寝るだけだし」

「仕事だよ。付き合いだ。それに助けたじゃないか」

「何に使うのよ」

「いいじゃん。なんだって」

「キャバクラでしょ……」

「……情報収集活動だよ」

「よく言うわね」

「メルヴィンがどこに行ったか、分かるかもしれないし。あいつのことだから必ず何か動いてるはずだ。他のプレイヤーのように」


 ここは他の名前でも何でもだして、仕事らしさを強調する。


「うーん、仕方ないわね」


 エイミはパーソナルモニターを開いてタップする。俺は残ポイントを確認した。


「たったこれだけ?」

「一回分ならお釣りが来るわよ」

「まあなあ……」


 いくら位、いかほどで、お釣りがあるのかも把握されている。恐るべしお袋のようなものだ。


「早く帰って来てね」

「分かってるよ。ったく……」


   ◆


 俺は久しぶりにを<レディ・ディーバ>訪ねた。スウィングドアを開く。


「女神様、久しぶりだな」


 あくまで店での、という意味だ。店にはパラパラと客がいた。こんな状況だし、もちろんプレイヤーの数も減っている。皆が俺に注目した。


「ユーシ」


 アイヴィーは俺に抱きつく。


「客に対する態度じゃないよ。離れた方がいい」

「ええ。さっ、座って」

「ああ」


 ギルドでこんな挨拶は交わせない。これはキャバクラでの、やり直しの再会である。


「緊急事態マニュアルを開いたわ。この世界を救えるの?」


 あのあと、盾の団(シールズ)が本日の戦闘についてなども含めて説明していた。マニュアルには今回に近いレベルまでの対処方も記されている。しかし決定的な解決方法はやはりない。ワクチンを発動させない限り、だと俺は思っていた。


「もちろんさ。この店には魔人は来ないのか?」


 俺はさっき遭遇した、素行の悪い魔人たちの話をする。


「うん、この辺は大丈夫よ。力に溺れておかしくなっちゃう人もいるわ。だけど本当に強い魔人は街の外に出ているようなの」

「魔王についたやつだろ?」

「うん、でも魔人だけで村を作って、静かに暮らしている人たちもいるそうなの。率いているのは魔将と呼ばれているらしいわ」

「そいつ、強いのか?」

「ええ、多くの魔人を力で捻じ伏せて、それで連れて行ったみたい」


 アイヴィーは街の噂話と言うが、ギルドとここは情報の宝庫である。


『当たりだな。手がかりを見つけた』

「あら、マダムじゃないのね」

北崎(きたさき)女史は連絡業務で、本来の職場に戻っているよ。映像を公開しようか?』

「頼む」


 アイヴィーにも見てもらった方が良いだろう。空間にモニターが開いた。森が映る。


「すごいわね。これ何?」


 アイヴィーは興味津々で映像に見入る。


「さっき締め上げた、ゴロツキ魔人たちの記憶さ」


 映像はぼけてはいるが、多数の融合魔人がいると分かる。そしてその中に、一際大きな魔人がいた。他の魔人はその魔人に従っているようだ。


 そして一瞬差し込まれる映像。


「この女――」

「何?」

「――いや」


 動体視力が普通のアイヴィーには認識できない、長い銀髪の女。一瞬だけ聖女が映ったのだ。


 次は魔人同士での、いさかいの映像だった。その間も断続的に聖女の画像が入る。


 そして場所は街に変わる。ここで終わった。


「なるほど。ここに戦いから身を引いて、静かにしている連中がいるわけだ。しかしなぜかな?」

『魔人になって人間と戦うのを、良しとしない者もいるのだろう。それはハッカーに操られている、とも言えるからね』

「なるほどね」


 興味深い話だ。聖女関係の何かが、ここにはある。


「ところで、メルヴィンの行方を知らないか?」

「この事件があった直後に来たわ。迷宮に潜るって言ってた。危ないから、もうちょっと様子をみたらって言ったんだけど……」

「そうか」


 目のつけどころが良いと思う。奈落を見た俺にとってやはり迷宮の底に何かはあると思うが、しかしあそこに一人で行くなど危険だ。一体どこにいるのだろうか?



「じゃあな」

「これから、気を付けてね」

「ああ、上手く稼いでゲームクリアしようぜ」

「ええ」


 アイヴィーは微笑み、俺はうなずいて<レディ・ディーバ>を出る。


「どういうことだ?」


 俺たちは二人になり、と言っても姿は一人だが――、話の続きを始める。


『奈落で出会った聖女に埋め込まれていたプログラムを一部取得しているが、この中にやはり似たようなプログラムを使っている者がいる』

「魔王の配下?」

『いや聖女そのものに埋め込まれていたプログラムだよ。つまり接触歴がある者がいるんだ。場所は――探してみる。解析には少し時間がかかる。何せハッカーが作り上げた世界だからね。過去のデータ全てと類似点を探し出し、どこに空間を作りどうやってそこへつないでいるかを探る』

「頼む」


 最初はどうなるかと思ったが、意外にこの世界の中にヒントが転がっているようだ。


 俺はもう一つ気になっている件を思い出した。


「記憶の中に、断続的に聖女が残っていたのか?」

『人の心も、聖女の持っていたプログラムで書き換えたのだよ』

「映像で?」

『あれは残滓だ。サブリミナル効果の手法だよ。いや、もはやこれは宗教、偶像崇拝だね』

「あのバカどもには、馴染めなかったのか。完璧ではない手法――、なぜかな?」

『女性の好みかな?』

「はあ?」

『冗談だ』


 エイミ親衛隊ならぬ、聖女親衛隊などのたぐいなのか? まるで宗教のごとく聖女を崇める勢力など、そちらも胡散臭い気がする。


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