第28話<愚連の魔人隊>
店が騒がしくなる。明らかな迷惑客たちの来店だ。魔人が五名、周囲を威嚇しながらこちらに来る。
「いたいた。ほんとにエイミだ」
「アイドル様を間近で拝めるなんて、こんな機会は現実じゃ、ないよな?」
「邪魔がいるみたいだけど」
「構いやしねえ。たった一人だ」
全員が一回り以上体格がよい。体に魔獣が混ざっている融合の魔人たち。顔出しのまま、街をウロウロした結果だ。
「ねえねえ。俺、あんたのファンなんですよ」
「一緒に飲まない? 楽しくお話ししようぜ」
「話すだけじゃつまんねーよ。色々楽しいこと、してもらいたいなあー」
「色々って何だ?」
「戦っている時の姿になってもらうとか。なんか裸みたいなんだろう?」
「いいね、いいね。たまんねえわっ!」
残念ながらアイドルはファンを選べないのだ。こんなごろつきの魔人も中にはいるだろう。ファンを名乗るのは残念ではあるが、力を手に入れて限度を超えているのだ。
「ふん……」
例のタグが首に掛かっている。
エイミがシカトしているので、俺もそうする。ヒナもすました顔をしていた。
たとえエイミたちだけであっても、二人の力なら切り抜けられるであろう。
「もう一人もかわいいじゃん。俺、こっちの方が好み」
かわいいと言われたヒナは微妙な表情だ。緩む頬を引き締めたいのか、その逆か?
「おい聞いてんのかよっ!」
じれた魔人が肩に手をかける。しかしエイミは、バシッとその手を払いのけた。
「小汚い手で、触らないでもらえますか?」
魔人たちは互いに顔を見合わせてニヤニヤと笑う。
「おいおい、俺たちはファンだぜ」
「そうだ、ずいぶん金も使った。それに見合うくらいのサービスしろや」
「シオ対応は、いけないねえ……」
続いてヒナのファン魔人が、同じように肩に手をかける。
「ふざけないでっ! 止めなさいよっ!」
エイミは血相を変えて啖呵を切る。自分の名前を出しつつ、ヒナに手を出すなど許せないのであろう。
「エイミよりおっぱい大きいしな」
「嫉妬してるぜ」
「ちっ、違うわよっ!」
他のメンバーとそこを比べられる。それがエイミの弱点だ。ファンなら知っていて当然だ。
俺は笑いそうになってしまった。
エイミがチラリとこちらを見る。俺は黙ってビールを飲み干した。そして空のグラスを指差す。エイミは少し眉を寄せた。
「めんどくせえ。さらっちまおう」
「ああ、泣かせてやるぜ」
「二人ともか?」
「当然だ。どっちも頂こう」
困った連中だ。他の客たちも、どうしようかと腰を浮かせる。そろそろ俺様の出番だ。
「君たち、エイミ様と飲みたいのなら、百万円ほどグッズを買ってもらわないといけないんだ。全員にね」
「なんだと? たかが人間が?」
「てめえ何様のつもりだ?」
「俺はエイミのマネージャーさ。小汚い手で触らないでもらえるかな。アイドル様が汚れちゃうだろ?」
魔人たちは再び顔を見合わせる。
「マネージャー同伴でゲームの中に来ているのか?」
事務所がらみとなれば、問題が大きくなると心配しているようだ。匿名と力を手に入れても、それでもこんな人間らしさは残っているらしい。
「いや、こいつ見たことあるぜ。テスト時代からやっているギグだよ」
「そうだ。時々エイミとつるんでるんで、噂になっていたやつだ」
「何だ、ズル様かよ~」
俺はカチンときた。昔の話ならばそれはやっかみによる濡れ衣だし、しかし今ならば当たっているからだ。どちらに対してもカチンときたのだ。
「ふーん。で、どうしようってんだ。状況、分かんねえのか?」
だんだんと面倒くさくなってきた。俺は早く二杯目のビールが飲みたいのだ。
「俺様にぶちのめされたくなければ、さっさと消えろ! ってことさ」
「アホか、俺たちはマジだぜ」
「こいつを半殺しにすれば、女どもも言う通りにするだろう」
「ああ、俺たちにマジ逆らえる人間なんて、ここにはいないんだよ」
「表に出ろよ。女たちには……」
そう言った魔人が右手をかざすと、エイミとヒナの体が光のリングで縛られる。
「拘束のスキルだ。俺じゃなきゃはずせん。離れると輪が縮まって、体がちぎられる。勝手に逃げられないってわけさ」
俺たちは言われるままに表に出る。エイミたちは縛られたまま店の前に立ち、俺は通りの真ん中まで進んだ。
魔人たちは定石どおりに俺を取り囲む。そして剣を抜いた。
『素手で戦ってくれるかな』
これは俺の心の中に響いただけの声なので、返事をするのはやめておく。素手であっても充分対処は可能だろう。俺も自分の腕っ節がどの程度か把握する必要がある。
「剣は抜かないのか? 今更謝ったって、許さないぜ?」
「いいから早くかかってこいよ」
「全員でやるぞ。細切れにしてやるぜ」
俺はチラリとエイミを見た。一応不安そうな顔を作っているが、当然これは演技だ。野次馬が集まって来ている。
見世物の戦闘開始だ。
いきなり後から斬りかかられたが、俺は若干体を滑らしてかわす。残念ながら剣は空を切った。背中に目はついていないが、今の俺には周囲の動きがすべて分かる。
再び後から切り付けられたが、これは身を低くしてかわした。
全員がムキになって攻撃を仕掛けてくるが、俺は続けざまにかわしながら攻撃に転じる。
やつらのタグに向かって次々にパンチを繰り出した。
手応えありだ。やつらの剣は俺をかすることもなく、タグは次々に破壊されていく。
「うっ……」
「ぐ、がっ……」
「ああっ!」
スリ、リエーヴル、シヤンなど、全員の体から同化していた魔獣がせり出してきた。俺はここで剣を抜き、その魔獣を次々に切り捨てる。
タグを破壊し融合さえ断てば、こいつらはただの魔人に戻る。つまりさほど強くはなくなるのだ。
「やっ、やべえよ」
「ひっ、引けっ!」
「逃げるんだ」
「ちくしょう、覚えてろよ」
「次会った時は、必ずぶち殺してやるからなっ!」
こいつら、捨て台詞もお決まりのパターンである。
俺が剣を戻すと、エイミとヒナを拘束していた光の輪も消えた。こちらに駆け寄って来る。
「もっと分かりやすく、ぶちのめしてやればよかったのに」
「いや、ゲームのプレイヤーだしな。ここまでやれば充分だろう。さて飲み直そうぜ」
俺たちは店内に戻って、再び席に着く。やっと成功報酬にありつけるのだ。
「ビール、おかわりいいかな?」
「しょうがないわ。働いてくれたしね」
俺は手を上げてウエイトレスを呼ぶ。
「あいつら二人をさらって、何をするつもりだったのかなあ?」
「さあ? 男の子たちがすることなんて、誰だって同じでしょ」
「そうか?」
「あなたが私の画像を見ながら、やっていることよ」
「何だよ、それ。そんなの知らないって……」
俺たちは飲み直しの乾杯をする。
『うまくやってくれたね。あいつらの記憶をかなり拾えたよ』
「そうか、なるほど」
どうやら今の俺は、エイミのナイフと同じスキルを持っているようだ。
『分析する。手がかりが得られるかもしれない』
「頼む」
一見して無関係のような情報を地道に集め、手がかりに結びつけていくのだ。
「しかしあいつら、悪さをしたら後々問題になるとは思ってないのか?」
『ちょっと調べたが、匿名化されていた。これも魔王の仕掛けだ』
「やっぱりね。悪質だなあ……」
『君が接触した時に全て解除した。個人を特定したよ』
「それは、それは……」
『暴行や、脅迫、名誉毀損で訴える場合は情報を開示する』
「あら、本物のマネージャーに相談してみようかしら?」
『もう魔人から人間に戻っている。パーソナルモニターに運営からの警告文を送った。ユーシの接触経由でね』
「そいつは傑作だ」
今頃あいつらは、さぞやガクガク、ブルブルしているに違いない。
それにしても、エリオットや親衛隊の連中がこんな地域に来ないのは、彼らの見識だろう。モメるだけだ。




