第27話<街の様子>
翌日の朝、俺たち三人は城壁の上にいた。エイミは盾の団らしきプレイヤーたちと挨拶を交わしている。俺は荒野と、その先にある森を見た。
「今日は静かな日ね。森の方まで偵察に行っている人たちからも連絡はないらしいわ」
戻って来たエイミが言う。ヒナは魔導録をめくった。
「激戦になる日は、もうこんな時間から接触があるのですよ」
「そうか。ヒマな時はどうするんだ?」
「街の警備、といってもぶらぶらするだけ、なんだけどね。あなたは何か予定があるの?」
「魔王を探す。それと、リッパーへの対処。もう一つ、聖女探しだな。しかし手がかりがなければ動きようもない」
「街中にヒントはあるかしら?」
「付き合うよ。プロフェッサーが何か見つけてくれるかも知れない」
『興味深いな。ただのプレイヤーに見えても、何かに操られている者がいると思う。私ならその人間を特定できる』
「よし、その方法で行こう」
街を歩きながら、エイミとヒナは俺がいない間のこの世界の状況を色々と説明してくれた。
風景は以前と変わりない。しかしこの街は分断されていた。北と東は主に人間の住む場所になり、西と南は魔人化したプレイヤーたちがほとんどであるという。
ただし、街中にいるということは、人間には敵対しない意味だそうだ。街を出た多くは魔人で、そして魔王側につき人間を攻撃している。そして少数の人間も街から出たらしい。
今このゲームは、プレイヤー同士が分断され、そして微妙なバランスの上に成り立っている。
相変わらず切り裂きは活動しているそうだ。しかしゲームがジャックされてから、状況は少し変わった。
運営の介入が不可能となり、個人ゲーマーを縛るものは完全になくなった。
この世界は、今や各個人が持つ欲望の集合体だ。ゲームを楽しむは、もはや昔の話である。
模倣犯が産まれたのだ。そして、そいつを探す人間狩りも横行した。
被害者は殺される状況と同じ体験を味わう。そして殺す側もまた、狩られて同じ状況を味わう。猟奇野郎にとって、ここはパラダイスのような世界になってしまった。
この街は、昼は魔獣と怪人の攻撃、そして夜はリッパーの脅威にさらされている。
「犠牲者は少ないのよ。以前と同じくらいね」
「確かに数は少ないが、いつどこに現れるか分からないからなあ。アイツは厄介だよ」
内と外からこの街は攻撃を受けている。しかし表面上見る街は、いたって平和だ。
皆が心の奥底に何かを溜め込みつつあるのかと、俺はぞっとした。いや、現実の世界も殺人と隣り合わせであるが、表面上は平和である。
魔王の軍勢は街に散発的に攻撃を仕掛けてくるが、今日のように静かな日もある。ちなみに魔人の済む街の南北側には、特に被害等はないそうだ。
街が薄暗くなってきた。
「今日は何もなかったわね」
「ああ、戦いがなければ、俺のやることはないなあ」
「ご飯に行きましょう」
「ああ、いや……」
「どうしたの?」
俺はパーソナルモニターを開く。そこには残酷な情報が表示された。
「ポイントがほとんどない……」
「あら、あら。ご飯は私がおごるから」
「……すまない」
俺の大活躍は報酬という形で必ずポイントにはなる。しかし支払いはまだずっと先なのだ。
チートの最強無双なのに、金銭面ではまるで失業者。女の部屋に泊めてもらい、女に飯を食わせてもらうなど、なんとやらである。
ズルは、いやゲームは二物を与えず、である。
「せっかくだから、この辺のお店に入りましょうか?」
「いいですね。面白そうです」
ここには魔人の姿が多く見える。俺としても興味はあった。
俺たちが入った店は半数が人間、半数が魔人といったところだ。
境界線付近には、このような曖昧な地域が発生する。
人間と魔人は、特にもめるふうもなく酒を飲みメシを食っていた。
今の姿は違えど、ほんの少し前までは仲間同士だったのだから、これは普通の光景とも言える。
「だいたい二人は、ポイントがあるのか?」
「もちろん! 魔獣を倒せばポイントになるし」
俺たちは四人がけのテーブルに座った。
「こんな状況でも、そこそこ稼げるのだから気分は複雑ですよ」
「俺だけ無収入かよ……」
エイミはメニューを開く。
「食べたいもの、何でも注文してね」
「ビール飲んでいいかな?」
「えー、お酒はダメよ」
「一杯くらい、いいだろ?」
「しょうがないわねえ……」
俺はエイミに何とかお願いし、頭を下げる。この渋々感がエイミの心をくすぐるのだ。互いに分かり合った上での掛け合いである。
人間キャラのウエイトレスがやって来た。注文は金主のエイミ様に任せる。ビールが注文されたのでほっとする。
互いの無事を祝って乾杯した。
「しかしあれだな。まるで普通って感じだよ。魔人を別にすれば」
俺は、ゲームの中は大混乱状態だと思っていたが、プレイヤーたちは冷静にこの世界を楽しんでいる。
「そうなのよね。でも戦いは厳しいわ。死ぬ人も多いし」
「そうだな……」
つまり安定した状況は、そう長くは続かないかもしれない。長引けば長引くほど、混乱が表面化してくるはずだ。当然、皆の心の奥底には焦りがある。
「今日は収穫なしですか?」
「どうだったの?」
ヒナとエイミも、内心は当然そうなのだ。
『その通りだね。あちこちサーチしたけれど、事件の手がかりはなかった』
プロフェッサーが答える。時間がないと言われてつつここに来たが、今日一日使って進展なしは俺も実際に焦る。
「そうか……」
先は長くはないのだ。




