第24話<地上へ>
俺たちは更に上へ上と快進撃を続ける。そして見つけた。
「ここが地上への帰還口? 早かったな」
ズルとは便利なものだ。ゲームの中で嫌われるはずである。
極端に強いプレイヤーとて同じだ。周囲から浮き、そしてどうすればあんなに強くなれるのか? と疑惑の目で見られる。
「さて、皆は元気かな」
『ブロックされているな。暗号を解読してくれ。量子電脳ならば瞬時だよ』
俺は手をかざして強引に転送魔法を発動させる。意地悪なフラグがいくつかあったが、全てこじ開ける。
「魔導のカギに、女神の聖杯。命の秘薬、人間の骨? 悪趣味だなあ」
下まで戻り、あのガイコツを集めて来いとの要求だ。そしてそこには、たぶん強力な魔獣が待ち構えているのだろう。今の俺は要求する全ての鍵を合成してズルできる。
一般のプレイヤーなら、悲鳴をあげて絶望するだろう。やはりここは脱出不可能の迷宮だ。しかしズル野郎には、そんなフラグは通じない。
「さて、問題は地上のどこにつながっているかだけど……」
『行き先の状況はつかんだ。映像を見せよう』
「助かる。便利だね」
空間に特大のモニターが展開した。状況が見えてくる。そこは街のすぐ近くだ。
城壁には魔獣の群が迫っていた。大勢のプレイヤーたちが戦っている。
閉じ込められている全プレイヤーの三分の一程度であろうか?
それは大軍勢同士がぶつかる合戦場の様相で、人間の集団は押しまくられていた。
魔獣の群は一気に攻めたてている。
「引っ、引くなっ!」
モニターごしに叫びが聞こえた。盾の団の団長、クレイグの声だ。
ダメだ。これは負ける。様子を見つつ、俺は直感的にそう思った。
天に稲妻が走る。同時に、俺の眼前に光が渦を巻いた。
『転送回廊が繋がった。行こうか?』
「なかなかの演出だね」
『まあね。君の力さ』
俺は光に向かって進む。モニターの場所に視界が繋がった。彼らからすれば、稲妻の中に俺が登場したように見えるであろう。
「待たせたなっ!」
しかし、地上は激戦の最中であり、空中に出現した俺に注目した者は、ほとんどいないようだ。
「なんだよ……」
赤く染まる偽物の空に照らされ、地上は魔法の火線と悲鳴が交差する地獄と化していた。
ここは一気に状況を好転させ、俺は賞賛に包まれるべきであろう。
「ローリング……、いや――」
思いつきの恥ずかしい名前は、止めた方が良い。やはり今まで通りが一番だ。
「――旋風剣っ!」
剣一振りで、巨大な竜巻が発生する。
「これもかなり恥ずかしかったな……」
特大の旋風が、魔獣と怪人の集団に突っ込み切り刻む。
数人がこの援軍に気がついた。突出していたプレイヤーたちは、こちらの攻撃から距離を取るように後退する。
あまりに凄い攻撃なので、本能的に身を引いているのだ。巻き込まれないように距離を取った。
クレイグが指示を出し、混戦状況が収まりつつある。さすが団長だ。
しかし戦いはまだ佳境のままだった。迫り来る魔王の軍勢、人間軍は敗走寸前、今まさに戦線が崩壊する寸前ギリギリだ。
先頭ではエイミが悪鬼羅刹、阿修羅、夜叉のごとく剣を振るっていた。
「あいつ……」
必死の踏ん張りで戦線を支える。こちらに気がつく様子はない。
この局面を一気に打開するには――。
「例の何とか砲だ。使えるか?」
『可能だが次善の策を進言する』
「なぜだ?」
『魔王軍にコピーされる危険性がある。状況を打開する案を掲示する」
ただ強いだけでは、俺はうさんくさいギグプレイヤーのままだ。圧倒的な力を見せつけてこそ、ステータス勇者として皆の協力を得られるであろう。
視界に次善の策、他のスキルがズラリと並ぶが。
「コピーのリスクを犯しても使いたい。下の連中には、希望が必要だ」
『了解した。何とか砲、発射用意。エネルギー充填――』
左にエネルギーバーか現れ、あっという間に満タンになった。
『――完了』
「早っ!」
演出的にはもっと引っ張る場面だ。チートにドラマなしてある。
『味方討ちに気を付けてくれ』
「分かった」
うっかり誤爆しては大問題だ。勇者の信用に関わる。俺は剣を納めて両手を突き出した。
「よーしっ――」
狙いを微調整しつつ定める。緊張の瞬間がやったきた。
「――発射っ!」
『名称を叫んでくれたまえ。何とか砲だ』
「何だよ、それ? いちいち、めんどくさいなあ」
『声紋認証のようなものだよ』
「分かった。じゃあ、なんとか砲っ、発射っ!」
かざした両手から、白い光が螺旋を巻きながら発射された。それは一部が青みを帯びていて、稲妻のように弾けつつうねる。
地上で炸裂し、周囲の怪人がバラバラになりながらはじけ飛んだ。そして放射状に森の方へと広がる。飲み込まれた魔獣たちは、一瞬でポリゴンと化し散っていく。
「すげえな、こりゃ……」
チマチマした剣や魔法の戦いを全否定する、このゲームを無意味化するスキルだ。
「魔王を倒すのも、魔王みたいなモンだな」
俺もまた、このゲーム世界の異分子であった。
『引き続き、何とか砲を発射する場合は回復薬を服用してくれ』
「いや、もう充分だろう」
すでに八割がたの魔獣が殲滅されてしまった。下にいるプレイヤーたちは恐る恐るこちらを見上げている。攻撃に巻き込まれてはひとたまりもない。
それにしても、名称が何とか砲で固定されてしまったのは、大失敗である。
「各個撃破しようか」
俺は獲物を探し、強い敵から順に掃討した。
プレイヤーたちも状況を理解し、一気に攻勢にでる。残った敵は引き始めた。
城壁を越えようとした魔王の軍団は敗退し、とりあえずは人間軍の勝利である。
勝どきの歓声が上がった。数日間、そうとう苦しい戦いを続けていたのだろう。
彼らにとっては、もはやこれはゲームではない。現実で寝たきりになっている、自分を賭けた戦いなのだ。




