第23話<聖女発見>
俺たちは上部層に移動しながら魔獣の掃討を続けた。
「すげえな。これじゃあゲームにならないぜ」
束になって迫り来る敵を次々に瞬殺。障害はただの快感にしかならない。
「病みつになっちまう。不正野郎の気持ちが分かるぜ」
『保護対象者を発見した』
「いたか!」
迷宮の底で聖女を見つけるなど、なんと王道であろうか!
マップを開くと一つ上の階層、そして以前と同じ位置に印が付く。目標の場所は目撃情報に合致した。
「上がろう!」
接触は第一優先事項だ。
更なる上の階層に到達する。魔獣の気配がない静寂の空間であった。前方にひときわ明るい光が見えた。
それはぼうっと光る巨大な水晶体だ。その上部には裸のまま、標本のように封印されている誰かがいた。
人を内包する水晶。中にいるキャラが囚われている目標だ。
「この女性が聖女」
両手を上げたまま、荊に締め上げられている全裸の聖女。腰まで長い髪は銀髪の設定だ。目は閉じられている。
両腿も閉じられているが、細身のそれには隙間が覗く。俺は下から見上げる格好だ。
「いい眺め、と言いたいがちょっと可哀想だな」
何者かは分からないが、どこの誰かも知らない俺などに肢体を拝まれるのだから。
俺は浮遊してその魅惑に並び立つ。
「良い眺めだね。これで目標達成? 楽勝じゃないか」
『楽観はできない。ワクチンを地上まで連れて行き、作動させて目標達成だ』
『あなたは誰ですか?』
水晶の光が増して、透き通る声が頭に響く。この状態でも意識はあるのだ。
「このゲームでは勇者と呼ばれる存在だ。現実から送り込まれた」
『やっと来てくれたのですね。それでこそワクチンと共に囚われたかいがありました』
聖女が喋るたびに、水晶の中で光が瞬く。
「地上に連れて行くから、早くそのワクチンとやらを処方してくれ。現実世界は大騒ぎなんだ」
『警告は発していました。もう少し深刻に受け止めていれば、そのような事態にはならなかったはず……』
「そうなのか?」
『初耳だね。我々とはまた別の組織の話だろう』
フロンティア社まで来なかったのなら、政府筋のどこかで止まっていた話のようだ。
『それではあなたたちには、期待はできませんわ。他に人材はいなかったのかしら?』
「なんだって?」
俺は色をなした。これから助けてもらう相手に、この言い草はいただけない。お嬢様は、上に立つ人間とは所詮はこんなものなのだろうか?
「他の人材ってなんだよ……」
俺は少々がっかりした。ゲームのように感激され、感謝されて当然だと思っていたからだ。
いきなり説教を始める聖女は、容姿とは真逆の上から目線女なのだ。
『また先手を打たれてしまいました。その――私……、た――』
聖女の声が途切れ始める。
「おいっ! どうした?」
『妨害が入ったようだ』
「ちっ、どう救出するんだ?」
『軽く攻撃すればよい。出力調整はこちらでやる』
「分かった。やるぞ」
俺は距離をとって腰だめに剣を引く。そして攻撃を放つ。
水晶に亀裂が走った。しかし聖女はかき消える。
『強制転送回廊が開いた。敵もさるものだよ』
「振り出しかよ。すぐに助ければよかった」
『いや、これは罠だ。こちらの力の高まりに反応して、自動転送プログラムが動いたんだよ。あらかじめの仕掛けだ』
ここから二人で上を目指すとのお約束はないらしい。魔王とやらも、それなりの手をうっていた。
「そう上手くはいかないか……」
ゲームシナリオは、小説とも現実とも違うのだ。
「さて、彼女はいったいどこに?」
『地上だね。君の出現で、あそこが一番安全な場所となたのだよ』
奈落の魔獣など、勇者の前ではザコキャラだ。地上の方が今や、ハッカーの手の内にある安全地帯なのだ。
「それじゃあ、最短で上を目指そう」
それにしても聖女の態度が気になる。あの物言い。プロフェッサーも知らない動きがあるようだ。
最高のステータス聖女は、ただのヒロインではないのだろう。性格も悪いキャラのように感じた。これからは、悪役令嬢として扱おう。




