第22話<地獄の番犬>
ウルスを抜けると、その先には花畑が広がっていた。観賞用ではない。
「薬草か……」
『君の行く道に花の山ありさ。手を触れてくれ』
言われたようにすると、薬草は広範囲に消えた。それは手のひらで飴玉になる。フレーバー豊かな、高級品だ。
「どれくらい回復するのかな?」
『完全回復する魔法薬に再合成された。服薬はまだ先だよ』
チート万歳だ。俺はそれを魔次元ポケットにとりあえず突っ込む。これもまたチートアイテムだ。使い方は、俺様ご承知の通りである。
赤い道しるべに誘導されるまま、先へと道を急ぐ。魔獣はそこかしこからわらわらと現われた。
俺は襲い来る小物を切って切って切りまくる。
『無駄な作業だな。こうするのだよ』
体に力がみなぎる。体がぶるりと震えた。
「くっ、うおっ!」
服を破って、全身から奇妙な突起が突き出た。
体から放射状に光線が伸び、串刺しにされた魔獣が一気に殲滅される。
「俺つええ、だな……」
もはや、こちらも怪物である。服の穴はすぐに修復された。
「まっ、ここで苦戦するようじゃあ、任務達成なんて無理か」
俺はパーソナルモニターを展開する。ドロップアイテムはやはりなしだ。加算されるポイントもない。そこは大いに不満だ。マップを開く。
周囲にもう魔獣の気配はなかった。マップによれば、ここから上部階層への回廊がある。
早く強敵と戦い、もっと今の自分の力を知りたかった。
「ここかな? 上に行くか……」
それらしき横穴が目についた。念のため探査を使う。
「ん?」
『どうした?』
「別の転送回廊がある……」
『なんだって!? そちらのデータに繋ごう。解析する』
結果がでるまでしばし待つ。
『驚いたな。これは更なる下へと続く回廊だよ』
ここは奈落、最下層だ。地下へと続く道などあり得ない。ゲームの開発主任が驚いているのだ。
「どういうことだ? ここより下なんて」
『確かに意味不明だよ。誰かが勝手に作り上げたのだ』
「! ハッカーの連中だ。何かがあるかも。行ってみよう」
『危険だが、やむをえないな』
その場に進むと空間が発光した。渦を巻き始め俺は身を投じる。
「上とたいして変わらない……」
さほど大きくはない空間は、やはり水晶でぼんやりと明るい。そして累々と白骨が散らばる。
「別段なにもなしか」
『他に転送回廊はない。支道もなしだ。廃棄プログラムを抜いて改変、再アップしたようだ』
「こんな所に、こんな多くのプレイヤーが来ていたのかあ?」
『それは違う。本来はない設定だ』
奈落に墜ちた者たちではない。つまりここはハッカーたちの世界なのだ。
「あいつら設定も勝手に作るつもりなのか? 自分たちで新しいゲームを一から作りゃいいのに」
『同感だ。遺骸を調べてくれ』
「分かった」
その白骨は人形ではあるがゴブリン、リザードマンなどの怪人ではない。見慣れない指輪、腕輪、首飾り、見慣れない服装。
「ヘンだぜ。俺たちとは違う人間の設定なのかな?」
『そのようだね』
異種族の白骨で、剣などの武器は特にない。
「武器なしでどうやって戦うんだ?」
『剣で戦うのが常識は、君たちの話だ。世界は広い』
「魔法が主力? 世界観を勝手に広げているのか。他の種族も引き連れて。プレイヤーなのかな?」
『分からない。AIのキャラクターだと思うが……』
頭蓋骨の形は人類と同じだが角がある。亜人り設定だ。
「鬼? か……」
『このゲームに和のテイストはない』
「予定は?」
『それもない。世界観は欧州だ。若干のミスは認める』
「じゃあオーガか?」
『どちらにしても、未確認のキャラクターだな』
遠くからかすかな音が聞こえる。俺は更なる探査をかけた。
「奥からなんか来る」
『こちらも確認した』
暗闇からうなり声と、巨体が歩く音が聞こえる。そいつが姿を現した。
そのデザインにはなじみがある。三首の狂気、地獄の番犬ケルベロスだ。
「こいつは?」
『完全なる敵だ。そして魔王により強化されている』
「ふんっ、ここのボスキャラか」
それはあのダグで作られた、融合の魔獣のようだ。
『元はサラマンダー、ビッグシヤンを二匹植え込んで巨大化させたのか、興味深いな……』
「ちょっとは楽しませてくれよ」
ここでも以前ボスキャラクラスと対峙した時のような、プレッシャーはまったく感じない。
俺はもうすっかり、チート最強の気分に馴れてしまっていた。
剣を抜いてそのまま進むと、一頭が火炎を吐き出し、俺は片手で障壁を張って防ぐ。
他の首も追随し、障壁を強化し防御する。
剣を振り一回転すると、俺を中心に旋風が起こり全ての首が跳ぶ。
「楽勝すぎだ」
でっぷりとした体躯を食い破り、体の内側から大量のシヤンが飛び出してきた。
俺は体を滑らしてかわし、群れを撫で斬る。ケルベロスのポリゴンはバラバラになった。
「ここの白骨のヤツらは、こいつに殺されたのか」
『そのようだ』
「敵の敵か……」




