第21話<復讐の奈落>
更に場所を移動する。その部屋にはベッドと様々な医療機器が並んでいた。そしてブラックボックス。
「とりあえずは、ここでログインしてもらう。既に回線は接続済みだよ」
「そこからの説明は、私がするわね」
北崎女史によれば、これから俺は事件の被害者のために用意された病院、郊外にある地域防災の拠点総合医療施設に移送される。
首都圏の被害者たちは、全員そこに集められているそうだ。エイミも、そしてヒナもたぶんそこにいるのだろう。
俺はベッドに横になり、一週間ぶりにヘッドギアを装着した。
「では行ってきます」
「ああ、私は隣の部屋でサポートする。君は一人じゃない。仲間が大勢いる」
「はい」
「本当はもっといろいろ話したいんだ。私は今まであまり、ゲームプレイヤーの意見を聞くことができなかった」
主任はそう言って、チラリと隣を見る。
「ことが済んだら、いくらでも話をしてください。ただし国家機密に抵触しない範囲で、ですけどね」
「これだよ、税金なんかの仕事をするもんじゃないな。気分的には、私はハッカー側なんだけどなあ」
「契約が切れたら、どこにでも行っちゃってください」
社会人の世界も、なかなか大変のようだ。
「それでは回線を開く。いつもとはちょっと違うから。少しずつ情報量を増やしていく」
久しぶりのログインだ。暗闇の中、いくつもの流星がこちらに向かってくる。その数が増え、そして視界は真っ白に輝いた。
意識の喪失と、覚醒が同時に起こるような不思議な感覚だ。
各利権者たちはこの事件を奇貨として、一致団結しつつある。己の利益を最優先としつつ解決策を模索していた。
VRMMOをゲーム以外に解放し利用する。それは急速に進むだろう。もう俺が父親に反発する程度の話ではなくなる。
それに協力するのが、反対者の俺であった。弱者はいつも異を唱えつつ、ただ利用されるだけだ。
◆
「そうか、ここだったな……」
俺が現われたのは迷宮最深部、奈落の底だ。初日にゲームスタートした場所である。
せっかく大幅に改変プログラムをねじ込むのだから、最初から地上に送り込んで欲しいものだ。
しかし、わがままは言えない。全てのソースを俺のチートに注ぎ込んだのだから。
「こんなところに、仲間なんていないぞ」
一刻も早く仲間たちの元へ駆けつけたい。
早速に小物の魔獣がうじゃうじゃと湧いてくる。あたりは敵ばかりだ。
『私がいるよ』
「おっと、そうでした」
『敬語は不要だ。ゲーム性が削がれてしまう』
「そんなものですかねえ……」
『そうだ。他のプレイヤーにも聞かれる場合がある。私は人間ではなくて、勇者をアシストするAIとしての演出が欲しいのだ』
この異常事態でゲーム性も何もないと思うが、偉い人の指示は守った方が良いであろう。
『私はプロフェッサー・ケイだ』
「分かった。プロフェッサー、よろしく頼むぞ」
『心得た』
俺は剣を抜く。とりあえずは目先の脅威の排除だ。
「チート体験なんて初めてだぜ」
戦いが始まった。
俺は計算速度のスペックと、チート負荷の表現者だ。洗練されたプログラムは芸術品。量子コンピューター用のソースコードと、魔王が作り上げた地獄の対決。
あれだけ苦戦した小物魔獣は、俺様の剣筋一閃で次々に消滅していく。
「簡単に終わったなあ……」
達成感がイマイチなのは、贅沢な悩みというものだ。
『量子回路が安定しない。良いテストプレイになったよ』
「今ので? 奈落の底でテストかあ……」
『なにせ初めてだからね』
俺は周囲を見回す。そして見つけた。
ポケットから回復の飴玉を出してしゃがみ込む。
『何をしているんだ?』
「借りたものを返すのさ」
俺はいきさつを話しつつ、それを遺骸のポケットに戻した。ささやかな満足感を手に入れる。
『なるほどね。人間同士のプレイは面白いな。コンピューター相手だとそうはいかない。AIはそこまで再現できないしね』
「そうだね。いくら学習させても、そりゃ無理だ」
欲望と功名心と、嫉妬その他モロモロの集合体など、知能とはほど遠い。
「ところで、これからどこに向かえばいいんだ? 最短コースとか……」
『まずは聖女の情報を確認しよう。マップを開いてくれ』
「了解。そうだった」
チート無双するために来たのではなかったと思い出す。パーソナルモニターを開きアイコンをタップ。いきなり五階層分のマップが開く。
「すごいね」
聖女のいる場所は三階層上だ。
『行き先は、こちらを目指せ』
視界に赤い矢印が現れた。
「便利だなあ」
『ゲームなら、最短で攻略を目指す支援システムが私だ』
「チートだねえ……」
『ただしこちらが作ったゲームならば、だ。ハッカーが改造したプログラムについては、あてにしないでくれ』
「それでも充分さ」
更に先に進むと因縁の相手、モンスターウルスがお出迎えだ。
「うおおおっ」
叫びながら跳躍し、剣を振りかぶる。そして振る。前回と同じようにウルスは片手で軽々と俺の攻撃を受けた。しかし、今回はそのまま頭から真っ二つだ。
「チートなのさ、悪いね……」




