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第20話<超重電脳>

「参加中のゲーマーたちは無事なんですか?」

「無事だよ。だが、タイムリミットはある。あまり長く時間ははかけられないんだ」


 なんとなくエイミたちがどのような状況に置かれているかは、俺にも想像はつく。


「一般に言う昏睡状態、意識のない状態だ。しかし脳波は活発なままだ」


 ゲーム中と同じ状態、自室のベッドでヘットギアをかぶり横になっている時と同じだ。しかし、そろそろそれが一週間となる。


「栄養の補給と排泄物の処理。詳しく聞きたい?」

「止めておきます」


 眠り姫の現実はなかなか厳しい。こんな姿を思い浮かべてはエイミ――、アイドル様にぶん殴られてしまいそうだ。


「強制遮断とかはムリなんですかね?」


 愚問だと思ったが、興味があるので聞く。知っておいた方が良いと思った。


「命は助かるけど、ゲーム内のデータが大量に脳に残るような改変プログラムが仕込まれているの。たいへんなトラウマを抱える可能性があるのよ」


 当然<メシア>とやらも、それぐらいは考えている。


「あまり時間がない。急いでインしてもらいたいんだ」

「分かりました」


 こちらとて望むところである。皆のことが心配だ。それに何より――会いたい……。


「君のお父さんからは、何でもやらせてくれ、と言われてるんだけど……」


 最近、父とはすれ違いか続いていた。このゲームを始めてから特に、である。監督官庁の官僚なのだからズルをしているようで、何となく後ろめたさもあった。何より父親と俺とは、合わない(・・・・)のだ。


「父は関係ありません。でも、何でもやりますから」

「それは助かるよ。詳しい説明はゲーム内でするから。外部と会話ができるんだ」


 支援システムがあるのはありがたい。外の様子をリアルタイムで知ることができる。


「一部の患者、ああ、便宜上そう呼んでいるんだが病院に移送を始めている。政府は本格的に受け入れ先を整えた。時間が経てば、更に高度な延命措置が必要になるからね」


 そう、だからこそ、テロリストにとって人質の価値がある。誰から順に殺すぞ! ではなく、緩やかな死が全員に迫っていた。


「そんな状況に君を送り込もうとしている。申し訳ない」

「いえ、俺はゲーマーですから。パパッとクリアして帰って来ますよ」

「その意気だ」

「ただ具体的にどうすれば……」

「まずは暴れてくれたまえ。そうすれば敵の姿が見えてくるはずだ」

「私は聖女が最優先だと思いますけど」


 聖女、ここで聖女が出てきた。


「どうかなあ? 保護対象者が一人いる。この女性だよ。ステータス聖女だ」


 安光主任は一枚の写真を机に置く。俺は手に取って、しげしげと眺めた。


 美しく清楚な女子、上品な雰囲気漂う人である。


「聖女の件は知っています」


 俺はネットで仕入れた情報と、奈落の話をする。


「そうか! やはり君を選んで正解だったよ」

「誰なんですか?」

「さあ、私も対象人物としか聞いていない。この問題を解決するカギとなるキャラだ。ハッカーが仕込んだウイルスのワクチンプログラムを、あちらの世界に持ち込んでいるんだ」

「他官庁の情報は極端に制限されているのよ。たぶんかなりの大物関係者――」


 北崎女史は複雑な表情だ。一口に政府と言っても、様々な省庁の身勝手な利権が絡み合っている。


 政界や財界の孫、お嬢様と言われれば納得する雰囲気である。俺だって官僚の身内だ。


 だが依頼の達成に、素性は関係ない。引っ掛かりは別にある。


「あらかじめ、ですか?」

「そう、こんな事件が起こらなければ分からなかったよ」


 俺には今一つ意味が分からない。


「つまり、この計画を知っている者がいて、すでにワクチンを開発していたんだ」

「接触して事情を聞く、敵の裏切り者か、反逆者か。それとも味方なのか? この話はついでですから。あくまでプレイヤーたちの救出が最優先です」

「分かりました。やるだけやってみます」


 ただの学生に過剰な期待はないらしい。俺に求められているのは、あくまでゲーマーとしての資質だけのようだ。


「そのヒロインもチートと言えるなあ。こちらだってね。その気になれば、君をいくらでも無双にできるんだ。分かるよね?」

「だいたいは」

「そう、君が両手をかざして、何とか砲発射! って言えば目の前の大軍勢が消滅するなんてスキルも可能さ」

「それは欲しいですね」

「だけど無理だ。分かる?」

「さあ……」



 分かる訳ない。


「コピーされてしまい、相手も使うようになる。互いにその何とか砲を撃ち合う、つまらないゲームになってしまうんだ。それじゃあ、飽きちゃうだろ?」

「う~ん、この事態を改善する力を頂ければ……」

「うん、そうだね。チートだけど、普通のゲームで使えるようなスキルを考え――」

「ゲームの話ではありませんよ」

「いや、そうだったね」


 メリッサが会話を軌道修正した。さしずめ、今の立場はギルドマスターなのだろう。


「あちらでは、様々な対立が起きているようだ。君のチート能力が勢力図を変える。場所を移動しようか」

「はい……」



 俺たちは再び廊下を歩く。主任は突き当たりの扉を開ける。


 そのまま進み、ICカードと指紋認証を使い更に奥の扉を開けた。そして別の部屋に移動する。


 透明なパーティションで囲われた先には筐体が並んでいた。


「これが今回の君の力、超重電脳富嶽スーパーヘヴィーコンピューター・フガクだよ。知ってる?」

「まあ、ネットの記事くらいは読んでいます」


 それは多額の国家予算を投入されて作られた、次世代スーパーコンピューターの愛称だ。しかし超重なんて枕詞はついていなかったはずだ。


「本体は別の場所だ。ここだけの話だけどね。実は量子回路を一部の処理に組み込んだ。ここにあるのがそれさ。テストは上手くいったよ」


 量子コンピューターもまた、ネットの記事程度しか俺には知識はない。


「実験ですか?」

「こいつが君をチートたらしめる。富嶽(フガク)の速度こそがズルを可能にしたんだ」


 いちプレイヤーだけのために、国家のスーパーコンピューターが動くのだ。ゲーマーならば楽しい展開、公式にズルし放題の天国。しかし俺はそれなりにまとも(・・・)なのだ。


「ここから極太の回線で主幹に繋がる」


 つまり旧集中型処理と主流のブロックチェーン、分散処理の戦い。それは一部の派閥、旧科学技術庁も事件を契機として噛んできたようだ。


「総力戦ですね」

「ああ、国家対テロリズム、それも第四戦場でだ。いやあ、ワクワクするね」


 安光主任はまるでゲームを楽しんでいるようだ。いや、これはゲームなのだからごく普通である。


「これだから男はダメなのよ。早く遊びじゃなく、仕事と認識して欲しいですわね」


 マダム・メリッサ、北崎女史は呆れ顔だ。主任はバツが悪そうに頭をかく。役人とプログラマーほど、相性が悪い職種はないであろう。


「まあ、俺も楽しみです。チートなんて初めての体験ですし」

「無双だけど無敵ではない。相手も進化している。自己増殖系のディープラーニングだ。厄介な相手さ」

「勝てますか?」

「不正に勝る正義なしさ。大丈夫」

「はあ……」


 正義の味方が国家ぐるみのゲーム不正、運営公認でテロリストを叩こうというのだ。


 目的の優先順位は、良心と綺麗事なる自己満足に勝る。


「勝ってみせます」


 何よりも仲間があの電脳世界の虜となっているのだ。このゲームをクリアせねばならない。


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