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第2話<魅力的な雇い主>

 戻ると乱戦も終わっていた。相変わらず仕事が早い。俺たちはそれなりに強力なプレイヤーである。


 累々と横たわる屍の中に、赤いビキニの女子が立ち尽くしていた。


「後続はいないな。片づいたよ。無事か?」

「はいはい、仕事上の確認ね。無事よ」

「今日のエイミは雇い主だからさ」


 それには応えず、彼女は最後のゴブリン(小鬼)(ソード)で止めを刺す。


 伸びていた剣は元の短い形態に戻り、鞘に収まる。


 倒された敵はポリゴン形状になってから、弾けるように消え始めた。


 しかし姿を保つゴブリン(小鬼)が何体か残る。


「ふう、おしまい……。小物ばかりだけと稼げたわ。そっちは?」

ビッグフット(大鬼)が一だけだ。まあまあさ――」

「そう」

「――あとミドルゴブリンが二体だけど、これはたいしたポイントじゃないな」

「あなたの大好きなお宝を持っているかもよ?」


 俺はパーソナルモニターを展開してタップする。戦果確認の赤字が点滅していた。


「どうせ、ハズレだろうけど……」


 それなりに強い敵を倒せばボーナスポイントが手に入る場合もあるが、ほとんどがスカ(はずれ)のガチャだ

 しかしときおり大金をゲットしたヤツがいるなどの噂が街を駆け巡り、ゲーマーたちの射幸心を煽っていた。


 俺はパーソナルモニターを開き、エイミはそのままの姿でゴブリン(小鬼)の遺骸を漁り始める。しばらく姿を保つ敵は何かのドロップアイテムを持っているサインだ。


 ローライズのビキニアーマーは、屈むと尻の割れ目が丸見えになる。


 きわどい衣装は戦闘能力を得るためでもあるが、リアルCGを他人にさらす問題もあった。


 エイミはこちらに対しては、もう遠慮もしないし気も使わない。


 俺は視線をそらすようにパーソナルモニターに視線を移す。


 案の定、俺の倒したゴブリン(小鬼)ビッグフット(大鬼)にボーナスはなし。ハズレであった。


 大金は遠しである。しかし――。


「おかしなゴブリンだな」


 続いて倒した相手のスペックを確認する。


「何が?」

「融合がヘンだ。こんなのは公開されてないぜ」


 ゴブリン(小鬼)には他の魔獣の能力が、複雑に付加されていた。


 ゲーム内で強くなるプレイヤーに対して、敵もまた進化するのがこのゲームだ。


 だがこのゴブリンの姿は、公式ホームページで見たことはない。


「ふ~ん、テストプログラムなんじゃないの?」


 見た目は普通のミドルとビッグフットだが、内部に幼体の魔獣を内蔵している奇妙な個体であった。次の更新で正体が明かされるかもしれない。


「うん……、そうだな」


 そして俺は自身のポイントを確認する。こちらの稼ぎも、やはりまあまあ、といったところだ。


 日雇い稼業のギグ(単発)としては、本日のノルマ達成である。


 ギグは毎日ログインして熱心にプレイするプレイヤーと、対をなす言葉として使われていた。


 更にタップするとその数字はゼロとなる。ちょっと悲しい瞬間だ。本日の雇い主にポイントが送金されたのだ。


「ヘンなの。残ったこいつら、首にタグがかかってるわ。全部回収してもらえる?」

「タグ? 分かった。記憶は吸えた?」

「うん、待ってね」


 エイミはパーソナルモニターを開き、自身の戦闘データを確認する。


 彼女のナイフは特別なアイテムで、切りつけた敵の視覚映像を吸い上げることができるのだ。


 それはゲーム攻略の重大なヒントになったりもする。


 少し待つと、残っていたゴブリンの遺骸もポリゴンになり消失した。地面の一部にはそのタグが残された。


「あいつらもタグ持ちかもしれない。確認してくる」

「ええ」


 ビッグ、ミドル共にタグが残されていた。俺はそれを拾い上げる。


「こいつらもか……」


 戻るとエイミはまだモニターとにらめっこしていた。


「映像が入ったわ、見ましょう」

「どれどれ――」


 俺はエイミに体を寄せた。胸の谷間が目に入る。


 パーソナルモニターには、ざらつく映像が映し出された。黒い人のような塊が、数体のゴブリン(小鬼)に何かを差し出す。それを受け取って首に掛けている映像だ。


「このタグだ。誰かが配っているのか?」

「そうね。どんな職種のプレイヤーなのかしら? こんなことができるレベル、ステータスってあるの?」

「さあ? 新しいスキルなのかな?」


 続いて別の場面が映し出される。


 誰かは分からないが、その黒い影は人に刃物を突き立てていた。


 それは生々しくも少女が惨殺されるスナッフビデオであった。被害者はゲームのプレイヤーだ。


「やだ……、これ噂の?」

「らしいな。ゴブリン(小鬼)が見ていたんだ」

「こんなのって……」


 映像は短時間で終わった。これでは何も分からない。


 エイミの顔は蒼白となる。ゲームでは登録年齢にあう刺激が提供されていた。


「とにかくタグを回収しましょう」

「分かった」

「私のポイントは――」


 モニターから離れて、俺はせっせと問題のタグを拾い上げる。そしてチラリとエイミを見た。


「早く服を着ろよ」

「着てるじゃない。まったく、いいかげん馴れてよね。皆がこの姿を喜んでくれているのに……。よく言うわ。あなた、ずーっと私を見ていたくせに」

「俺は戦いを見ていたんだ。お前が苦戦すれば、助けるのが仕事なんだから」


 形の良い存在感のある胸、スラリと伸びた手足。必用なだけ筋肉の付いたしなやかな体。


 表情や言葉遣いは、いやらしさをまったく感じさせない。彼女は独特のオーラをまとっている。


「はいはい、そうですねー。こんな私の姿を拝めるなんて、ユーシは果報者よ」

「はいはい、そうですよー。俺は幸せ者だよ」


 果報者。もう何度も言われている、毎度お馴染みのセリフである。


 ゲームの中での姿は改変可能だが、エイミは寸分たがわない現実の肉体を再現しているらしい。そして誇示するようにきわどい衣装を着こなす。


 俺もまた本物と同じ肉体でこのゲームをプレイしていた。


「ちゃんと服を着ているじゃない」

「それは下着だ」

「はいはい。下着じゃなくて――」


 エイミはモニターを閉じ、大きくスリットの入ったロングパレオを腰に巻く。そして上着とハーフマントを羽織る。


 全て赤を基調にまとめられていた。これで普通に街中を歩ける姿となる。


「――水着のようなモノね。さて、帰りましょうか」


 エイミの体は衣装とあいまって、まるで高額で取引されている出来の良いフィギアのようだ。


 俺ならば絶対にそんな商品を企画する。必ず売れる。


「そのままの姿で、写真集を出せばいいんじゃないのか?」

「もう撮ってるのよ。公開はどうするのかなあー。私としては微妙ね」

「ふーん……」


 ちょっち嫌味のつもりで行ったのだが、すでに撮影は終えていた。写真集が発売されれば、さぞかし売れるであろう。


 エイミはそんな有名人で、このゲームをまだテストしていたころからの知り合いだ。


 以前、毎日一緒にプレイしたこともあったが、今は距離をとってこうやって傭われ時々クエストを手伝っていた。


 互いにバカではないのだ。


 俺もエイミも態度を微妙に変えつつ、まだこうして付き合っている。


「ただの金属片だな。文字らしきものは何もない」


 皮の紐が付いているタグは全部で五つあった。


「ギルドに提出しましょう。ポイントになれば、分け前は支払うわ」


 俺が差し出したそれ(・・)を、エイミは受け取る。そしてじっと眺めた。


 謎解きもゲームの楽しみである。


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