第19話<フロンティア社>
「それじゃあね」
「親父とお袋によろしく言っといてくれ。頑張るってな」
「うん。ゲームだしね」
「まったく……」
こいつはいつも一言多いのだ。一通りの話が終わり、我が妹は迎えに来た受付嬢と共に帰っていった。
ここからは当事者の話である。
「早速話を始めよう。これは個人が持ち込んだドローンの映像を編集したものだ」
部屋の大型モニターには、あらかじめノートパソコンが繋がれていた。主任がタッチすると映像が始まる。
「システムがロックされた直後の、ゲーム内の状況です」
俺も知っている、街の広場に集まったプレイヤーたちが天井を見上げる。カメラも上を向いた。
そこには上半身の、人らしき黒い影が揺らいでいる。
尖った耳に翼のような影。大きな目だけが、リアルな人間のそれである。
それは悪魔の姿以外に形容しがたい姿であった。
「音声がないのは残念だけど、多分プレイヤー達に状況を説明したんだよ」
「これが事件の首謀者?」
「たぶんね。魔王と呼ばれている」
「ただ、一人でこの事件は起こせないわ」
「そう、多数のハッカーが協力している。有志たちだね」
ログアウト制限をかけたハッカーは、まずはゲーム内にこの魔王の映像を登場させた。そして真実をプレイヤーたちに宣言する。
持ち込まれていたカメラの映像はサーバーに記録される。ほとんどが消されていたが、サルベージに成功した映像がこれだそうだ。
「こいつらの目的は何なんですかね?」
「マスコミはまだ報道してないけど、実は金を要求されているんだ」
「金、ですか……」
ネット情報にもあったが、それは当たり前すぎて拍子抜けするような気もする。
身の代金は日本政府が保有するアメリカ国債と米ドル。そして金塊など多彩だ。映画のネタを、適当に羅列したようにも感じる。
「俺はよく分からないけど、そんなことできるんですか?」
巨額な金の話など、貧乏学生には全く不案内だ。
「現物をチャーター機で某国に運べとの指示だよ」
売る売らないは別にして大量に持ち出されれば、大きな問題になるとは分かる。
「それと某仮想通貨の大量送金」
それも追跡されれば、引き落としなどできたものではない。
「情報をリークされたのよ。暴騰中ね」
「なるほど……」
あらかじめ仕込んでおけば、それだけで儲けられる。これもネットの憶測に合致した。
「実は要求に応じて、何人か解放されているんだ。金持ちや芸能枠なんかの人だよ。相手はそこまで調べてる。まっ、払った方は認めていないけどね」
システムがハッキングされたのなら、当然個人情報も全て抜かれているはずだ。
「それともう一つ厄介な話がある。特別指名手配されてる重要参考人がゲームに参加しているようなんだ」
広域指定殺人犯二一三号の件だ。
「ゲームの中で聞きました。連続猟奇殺人事件のこと」
「うん、君を陥れたプレイヤーだね。まだゲームの中にいる。つまりそいつは昏睡状態なんだ。しかるべき組織が追跡している。まだ容疑者だけどね。何か具体的な証拠つかんでいるのだろう」
「そうですか……」
話しぶりからは、現実の殺人鬼とザカライアが同一人物であるかのように聞こえる。捜査当局は、そのような可能性もあると考えているのだろう。
「問題はゲーム内だよ。対応できるのは君だけさ」
「分かりました」
やることが山積みだ。だが俺のやるべきことはただ一つ、魔王とリッパーへの対処だ。
「なぜ俺が選ばれたんですか?」
「要素は色々あるのよ」
「適性があるんだ。チートプログラムへの」
主任はその適性とやらを説明する。AIが候補者を選んだそうだ。
「それに家族の賛成もある。実はあなたのお父様にはいろいろお世話になっているの。あとはあなたの決断しだいなのよ」
「父は関係ありませんよ……」
「そう、ならばあなたが決めてください。今から断ってもいいのよ」
「やります。あそこには仲間もいますから」
やはり一番に頭に浮かんだのは、エイミの笑顔だ。今頃ゲームの中で、一体何をやっているのだろうか?
「これはクエスト扱いといたします。金額はまだ約束できないけれど、報酬もお支払いいたします」
「本当ですか? それはありがたいですが」
「今回の一件では協賛企業も資金の提供を申し出ました。その一部を当てます」
俄然やる気が湧いてきた。なんとも単純な俺である。
「私の裁量で動かせるポイントもありますし――、それとディーバ十回分の無料チケットも付けるわ」
「あなたは……」
「マダム・メリッサよ」
「あ……」
言われてみれば面影がある。ゲーム内では金髪青い目なので気がつかなかった。
今は普通の日本人に見えるが、表情は確かにメリッサだ。
タグやスナッフビデオの件など、説明が省けて助かる。




