第18話<フロンティアの異変>
それから一週間。俺はネットを覗きつつ学校にも真面目に通う。そして情報を収集した。エイミからの返事は来ない。
さすがの俺もこれはおかしいと思い始める。ネット内、フロンティア・オンラインについては、オカシナ情報が溢れ始めていた。多数のユーザーがアクセスできないというのだ。運営からの公式発表はまだなかった。
「何なんだ? 偽ニュースのたぐいか?」
それはニュースとも呼べないような、怪しげなまとめサイトの記事へのコメントであった。
ゲームがハッキングされ、インしていたプレイヤーがログアウトできないまま、意識が戻らないというのだ。
「バカな……」
漫画や小説じゃあるまいし、ありえないだろう。
しかしそれを伺わせるアナウンスもあった。人気アイドルグループのエイミが、休養すると所属事務所からお知らせが流れる。
何かが起きていた。
ネット内にはあることないこと、情報が溢れ始める。それは俺には、ほとんど当たっていると思えてきた。
政府とゲーム運営会社「フロンティア」への身代金要求があった。
サイバーテロ集団は<メシア>を自称している。
ゲームを乗っ取りゲーマーの身の代金を要求、実は株や為替などマーケットの暴落で儲けていた。
ある国の仕掛け? などだ。
フロンティア社は特にそれを否定せず、近いうちに見解を正式発表するとアナウンスした。本物だ。
「どうすりゃ、いいんだ」
いち参加者としては、どうしようもない。しかし何もしないで、このままで良いのか? とも思う。
日曜日の午後、俺は部屋に引きこもりネットの情報を確認しては悶々としていた。
フロンティア事件。それはすでに、大きな社会問題となっている。
突然玄関のチャイムが鳴る。訪ねてきたのは妹だ。事前にメールが来ていた。
「どうしたんだ?」
「お邪魔しまーす。よくわからない話よ。お兄ちゃんへの伝言を頼まれたわ。それと付き添ってあげてくれって。まったく、何なの?」
「何なのって……」
なんとなく、用件は分かった。
「お父さんからの伝言よ。メールを送るから読んでくれって。それから協力を求む、ね」
「……なんだそりゃ」
「フロンティア事件の話よ」
「分かった。でも俺にできることなんて……」
父親は官僚で政府出資分は、このゲームに関与している。ただ、どこまで係わっているかは分からない。そして俺は、その関係のコネ参加者なのだ。
タイミングよくスマホがメロディを奏でる。こんな時に似つかわしくない、某アイドルソングだ。
父親からのメールであった。そこには、ある会社に行き、ある人物に面会しろとある。
その会社とはフロンティア社。ゲーム、フロンティア・オンラインの運営会社である。
◆
とにかく俺たちは指示されるまま本社ビルへと向かった。電車の中でスマホをいじっている人、全てがこの事件について調べているように思えてしまう。
「お母さんが言ってたよ。お兄ちゃんが無事でよかったって」
「ちょっとミスってしまってさ。アク禁を食らったんだ。運が良かった」
「うん、本当よ。学校にも何人か休んでるコがいるのよ」
「親父から何か聞いてるか?」
「まさか! 私もネットの書き込みぐらいしか知らないわ。学校は今、その噂でもちきりよ。テレビもね」
「そうか」
国家機密とは言わないが、家族に対しても守秘義務はある。
「なんで、私も行かなくちゃならないかしら。何の話なの?」
「俺も分からん……」
ビルの受付を尋ねると話は通っているようで、受付嬢がすぐに内線電話をかけ、俺たちを案内するために席を立った。
エレベーターで最上階に上り、扉が開くと俺たちは男女二人に迎えられる。
「いやあ、よく来てくれたね」
男の方が口を開く。長髪と眼鏡に白衣を着た学者のような風貌である。
「ではこちらへ」
スーツ姿の女性に促され、俺たちは言われるままに廊下を歩いた。殺風景な子部屋に通される。
「座ってください」
備え付けのサーバーから、あらかじめ用意されていたコーヒーがカップに注がれる。女性は差し出し、俺たちは礼を言った。
「まずは自己紹介しよう。私は安光慶、いま問題になっているゲームの開発主任だ」
「私は北崎砂羽。この事件についての政府窓口となります。よろしく」
予測はだいたい当たった。続いて俺たちも自己紹介をする。
「時間がないので単刀直入に言います。勇士さんには、ここからゲームにログインしてもらいたいのよ。私たちへの協力を求めます」
「そんなことが可能なのですか?」
「可能だ。直接ホストコンピューターにログインさせるんだから。ハッカーたちもそこまではブロックできない」
「明日、フロンティア社と政府は公式の共同記者会見を行います。その前にその内容をあなたたちに説明します」
ネットに流れていた噂はおおむね正しかった。どうやらハッカー集団は情報をリークしているようだ。
その集団の名は自称<メシア>。ふざけた名前である。
「ログインすれば内部の状況も分かるし、こちらとの接続先ともなります。ただしこれには家族の同意が必要です」
女性はいかにも官僚、といった感じの口調だ。
「そして、これはお父様からのお願いでもあります」
「父は――」
「母も同意しました。もちろん私もです」
と俺の言葉を遮る。これが、妹が呼ばれた理由だ。俺が何かを言う前に、勝手に外堀が埋められてしまう。主任と女史は俺に注目した。
「いや、もちろんやりますよ。俺はゲーマーだし……」
「それに暇だしね! 頑張ってお兄ちゃん」
「言われなくたって頑張るよ」
安光主任と北崎女史はホッとしたように頷く。俺が拒否すれば、ことは先に進まないのだから心配をしていたのであろう。




