第17話<攻略のヒント>
「見ましたよ。奈落にいるんですって?」
「ああ、はめられたんだ」
時間つぶしをしていると、学校の後輩が声をかけてきた。よく話をする相手で知り合い、友人だ。奈落行きはギルドの掲示板に貼り出され注意喚起となる。
俺は事情を説明した。
「奴ら、そんなことを企んでいたんですね」
「まんまと罠にハマっちまったよ」
そう、ヤツは最初から俺を狙っていた。
最終的な目標はエイミだ。あのタグがザカライを狂わせてしまった。
大学校内のカフェで、俺の目の前に座るこの男の名は清武士彦。
ゲーム内の名前はメルヴィン。頼りになるギグ仲間である。
現実のメルヴィンもまた、かなりのイケメンであった。
「あいつはどうしてる?」
「姿が見えません。ゲーム内のどこかに身を隠しているのか、それともログインしていないのか……」
「だろうな」
当然そうするつもりで、俺をゲーム内から葬り去った。その期間はたったの一ヵ月だ。運営にも通報される。
ザカライアならば、そんなことは当然わかっていたはずだ。それなのになぜ自分の正体を明かし、ここまでやったのか? よくわからない展開ではある。
俺の力は分かっていたはずだ。強制転送魔法が最後の手段であれば、いずれ戻って来るまで予想できる。例え奈落で死んだとしても、これはゲームだ。
そういえば、あいつは最後におかしなことを言っていた。
「攻略は可能なのですか?」
「いや、ちょっとやった感じゃ無理だろうな」
「やっぱりそうですか」
メルヴィン、清武は残念そうな顔だ。ゲーム内ではこの男もザカライアには遺恨がある。
要は俺が返り討ちにしてやればよかったのだが、残念ながらやられたのは俺だ。
「奈落体験も悪くはないぜ」
俺はちょっと明るい表情作り、最下層での戦いを解説した。
あのゲームに参加しているのなら興味はあるだろう。清武はうなずきながら俺の話を聞く。
「そんなに強い敵ばかりなのですか。迷宮の下層を目指すのが、ゲームの攻略だと思っていましたが、僕たちはそんなに強くなれるんですかね?」
「さあなぁ、奈落だけは全く別の空間なのかもしれないしな」
「確かに……」
奈落は攻略先ではなく、罰ゲーム用のフィールドとして、存在しているだけなのかもしれない。
「ネットでヒントらしきものを見つけたよ。奈落のどこかに聖女ってステータスのキャラがいるらしい。どうもそいつが上に脱出するキーのようなんだ」
「聞いたこともないステータスですね」
「ああ、単純に魔物を倒しながら、じゃあゲームとしてつまらないしな。演出だよ」
「聖女? ですか……」
「今、望みがあるとすればそれぐらいだな。雲をつかむような話さ。やるだけやったら、あきらめもつく」
「そうですか」
「ゲーム内はどうなってる?」
これは全体的に、と言う意味だ。
「特にこれといった変化はありませんよ。普通です」
「そりゃそうか……」
ザカライアがどうしようが、俺一人が消えたところでも、ゲーム全体にさしたる影響はない。そんなものだ。
「いえ、一部の機能に不具合があるとか……。メッセージ関係に障害がでてるみたいですよ。僕らギクには関係ないですけどね」
「ふーん……」
クランやパーティーのメンバーはゲーム内でも連絡手段として使っていた。
「今日は奈落最終日だ。明日からは一週間、死ねば一ヶ月のお休みさ」
俺は席を立った。障害ならば仕方ない。
「念のためギルドにザカライアの件を伝えておいてくれるか?」
「分かりました」
◆
「ぐがっ!」
敵の一撃で左腕が飛んだ。つい防御のつもりで腕を出してしまった。素手の戦いではないのだ。
「くそっ――」
身体欠損など、そんな設定があること自体が驚きだ。奈落はやはりひと味違う。
敵は相変わらず、スリ、プーレ、リエーヴルなどの小物ばかりであるが全てが黒く光沢のぬめりを待つ。
そして異様に強い。ここの魔獣は何やら特別な力を持たされている。
攻撃をかわしながら火球を破裂させ、目くらまし代わりに使う。腕を拾って全力後退。もう何度目だ?
飴玉を頬張って腕をくっつける。繋がるか?
「うっ……」
神経が接触したのが分かった。感覚が戻り始める。傷を塞ぐ能力はまだ残っていた。
「ふう……、まずは良かったけど――」
回復アイテムはもうこれで、全て使い切ってしまった。
「――ここまでか……」
あとは突撃しての玉砕か? 奇跡的な敵陣突破か? 運を天に任すのみである。
俺は来た道を引き返す。ネットの書き込みを確かめるためだ。セーブポイントをクリアすれば、それ以前の迷宮にもう魔獣は出現しない設定のようである。
「世話になるぜ……」
俺は遺骸あさりを始めた。身につけている装備品を調べる。
「あった……」
例のメモを見つけた。そこには、俺はもう死ぬ、この回復キャンディーを使ってくれ、と書かれていた。探すとポケットに三つ飴玉があった。
ハズレではあったが、貴重な品だ。
「ありがてぇ……」
何よりの援軍だった。そしてついに手がかりを見つけた。
折りたたまれた地図。印が付いている。そこには聖女と書かれていた。
パーソナルモニターを開き、マップのアイコンをクリックする。地図をかざすとデータがモニターに取り込まれた。
今いる最下層全体のマップが表示される。そして聖女のいる階層は三つ上と表示された。
全体といかないまでも、ある程度自分がいる位置が把握できた。あきらめていた脱出への、ほんの少しだけの光明が見えた。




