第14話<最下層の魔窟>
「あの、クソッタレ野郎め――」
悪態をついてみても、エイミに注意喚起はされていた。
「――とは言っても俺のミスだな……」
こちらの、あきらかな不注意である。暗闇の中で立ち尽くし周囲を見回すと、ほのかな明かりが見えてきた。
「選択肢はなしか」
それが希望の光ではないと分かるが俺は歩を進める。
パーソナルモニターを開き身体アイコンをタップすると、視界の隅に二本のバーが現れた。体力、魔力共にレッドゾーンだ。
「チッ」
重要なデータであるが、最近は苦戦などしないので非表示にしていたのだ。ここでは常にこの二つに注意しながら、慎重に死を避けて戦わねばならない。
回復アイテムの飴玉をかじると、バーはイエローに変わる。俺の最終スキル、ドラゴンブレスはこれほど身を削る。
回復アイテムは残り五つ。なんとも心細い。
「参ったな」
十分に考えられる展開である。脳天気な俺の性格は、ゲームをとても面白くしてくれた。
「やるだけやってみるか」
俺の目標はゲームの攻略だ。それとも金? ランキング? それが見いだせずにギグをやっていたが、前人未踏の、奈落からの帰還が攻略であるならやってやろうと思った。
今までここから帰還したプレイヤーがいないのなら、俺が一番になればいいだけだ。
この難関をクリアして、俺を笑っていたあいつ、を笑い返してやる。そして切り裂きの魔を討伐する。
奈落墜ちにはペナルティがある。このまま戦えるのは、今日を入れてあと三日だけだ。その後は、一週間のアクセス禁止。
とにかく、その間に頭を冷やし攻略のヒントを見つれなければならない。死ねば、更に一ヶ月のアク禁が待っている。
明るい場所に出た。上と変わらない迷宮の風景だが、累々と白骨の屍が横たわる。
「悪趣味だな……」
俺と同じように奈落に落とされたプレイヤーの亡骸だ。あえてこの場所にさらす、との演出なのだろう。薄暗い空間の先、暗闇に小さな赤い光が見えた。
そしてさらにその奥にも無数の赤い点が光る。こちらに近づいてきた。ウサギだ。
地上のウサギは白いが、こちらのリエーヴルは黒い。そして体の所々には光沢の質感がある。口が耳まで裂けて白く鋭い牙が覗いた。
まずはこの群れを通り抜け、次のセーブポイントまで到達しなければならない。それが第一関門だ。できなければ俺もここに、遺骸をさらすことになる。退路はない。
俺は走り出し最初の答に向かった。
飛びかかってくるうさぎの鼻面に剣を叩きつけるが、まるで岩を叩いたような手ごたえだ。
「くそっ!」
そのまま横をすり抜けるが、リエーヴルは跳躍し追いすがる。そして足にかぶりついた。
「痛え!」
俺は地面に転がり、剣を突きなんとかそのウサギを排除した。
立ち上がり一気に群の中へ突っ込む。剣を振り回しながら、とにもかくにも突破を試みる。剣を叩きつけられながらも、リエーヴルの群れは俺に群がり鋭い牙を立てた。
弱っちい戦闘、情けなく逃げ回り命をつなぐ。死ではなく、生きて帰る道を選ぶ。
何とか排除しつつ危険地帯を通り抜ける。群は追っては来ない。俺は肩で息をした。
「死んでたまるかよ。奈落からの生還第一号になってやる」
せめて口先だけでもと、俺は自分を鼓舞するように吐き出した。
「くっ……」
しかし前方から新たな群れが迫り来る。数が多いし、それに動きが素早い。地上の敵とは難易度がまったく違う。
側面を走りながら追いすがる魔獣をいなす。鼻先をかすめる程度でも、致命傷にならなくとも必死に剣を振るった。
バランスを崩して倒れ、転がりながら攻撃から逃れる。恥も外聞も、何もかもへったくれもない。奈落では生き残った者が勝ちだ。
「喰らいやがれ」
地獄の業火を炸裂させ、自分の体力を削っても敵を退けた。視界のすみが点滅する。やっとセーブポイントが現われた。
「助かった……」
あくまでとりあえずで、今日だけの話だ。魔獣は引き始める。明日もこの状況で生き延びられるとは到底思えない。
しかしあと二日命をつなぎ、アクセス禁止の一週間で何とか攻略方を見つけねばならなかった。
モニターのマップを開くが、自分の位置しか表示されない。奈落の全てが未知の領域だった。
「食事はドタキャンだな……」




