第13話<迷宮の罠>
「これが今の俺様だっ――」
服を切り裂いて背中から金属的な刃が何本も飛び出した。それはいくつかの間接で接がれ、機械的に動く。
この世界で、有機的ではない体は珍しい。俺が見た二本の刃は、手持ちの剣ではなく、この二本であったのだ。
「――切り刻んでやるぜっ!」
上半身が一回り大きくなり、シャツが裂ける。その首には例のタグが揺れていた。
「やはり、お前がリッパーだったのか。だが俺に勝てるのか?」
「テメエ、たいしたことないな……」
「どうかな?」
「俺の攻撃を食らいやがった」
「かすり傷さ」
「次は首を落としてやるぜ……。八本足の攻撃をしのげるのかよ」
二本の剣を使っていたのは両手剣に見せる偽装で、俺の力を測るためだった。その八本は女郎蜘蛛の長い足のようにクネクネと動く。
これこそが少女たちを切り刻む魔の正体なのだ。
「エイミを狙っているんだかなあ――、お前がじゃまなんだよ」
「御託はいいって。かかってこいよ」
「てめ……」
こちらのハッタリにザカライアは逡巡する。時間を稼いで、ヤツの能力を把握しなければ勝機はない。それぐらいは俺にも分かった。
ゲームのルールを越えた未知の存在。そいつを、あのタグは作り出している。
俺は剣を引いて小さな旋風を作り出した。そのまま右から斬りかかり、そして旋風を左から回り込ませる。
「ふんっ!」
俺が叩きつけた両手剣は、四本の足に阻まれる。旋風は二本が防いだ。そして残りの二本が脇腹に迫る。
あらかじめ発動していた障壁が阻む。俺は後方に飛びつつ地獄の業火を爆発させた。
「喰らえっ!」
蜘蛛の足が集合し、円錐の防循を作り出し、爆炎は後方へと抜け去る。
俺は一気に突っ込み剣を振るいつつ、そのたびに旋風を作り出す。
八本足は全く別々に動きながら防御しつつ、こちらへの攻撃を伺う。足それぞれが、個別のAIを搭載しているようだ。
互いの能力を測り合うような戦いがしばし続く。金属のぶつかり合う音が、静寂の空間に流れ続ける。
「ヒャッハア!」
ザカライアは一気に攻撃に転じた。攻守所を変える。
「くそっ!」
「もっと速度を上げてやるぜっ」
「お前は攻撃一辺倒なんだよ。弱いヤツを切り刻むだけの、薄汚い犯罪者がリッパーの正体だっ!」
ヤバイと思いながら、俺は悪態をつく。こちらの攻撃も防御も、学習されているのだ。
奥から数匹の魔獣が、ザカライアの背後に迫った。瞬く間に三本の足が掃討する。
俺は一気に引き、剣を振りながら一回転、大きな旋風を作り出した。
「バカの一つ覚えはテメエだろうがっ!」
刃のつむじが、更に回転を増す。そしてそこに地獄の業火を注入した。
炎が拡大し、そして一気に収縮する。そして爆炎――!
「うおっ――、なっ、なんだっ!」
空間自体が火災旋風へと変化した。ドラゴンのブレスと同じ技が、ザカライアを中心に炸裂する。
「ぐあっーーっ」
「蜘蛛は火が苦手のようだな」
更に迫る小物の魔獣たちが巻き込まれ、あっという間に消滅した。俺自体はスキルを取得した時に、炎への耐性を獲得している。
球体の防循に亀裂が走った。長くは持つまい。
「テメエを切り刻むのはもうやめだーっ」
ザカライの叫びと共に、天井に巨大な魔方陣が出現した。これが噂の切り札だったのだ。
「なっ!」
それは高速で回転を始める。
「地獄に墜ちやがれーーっ」
回転から弾き出されたような稲妻が俺の体に巻きつく。動きを完全に封じられた。
「奈落墜ちの強制転送回廊だっ!」
「うおおおっ」
体中が締め付けられ、そのまま上に持ち上げられる。俺の魔力が消失を始め、同時にドラゴンブレスもまた消え始めた。
「覚えてろっ! ザカライア!!」
引き寄せられる力に俺は抗うが――。
「はははっ、お前が戻って来るころには、俺はもっと大きくなっている。受けて立つぜ、ゴミプレイヤーのギグがっ!」
――体の力が抜け、ヤツを攻撃しようとした魔力も消失する。これが強制転送の力だ。
「覚えてやがれ……」
「この世界自体がどうかなっているかもな? エイミはたっぷりと可愛がってやるさ。安心しな」
魔方陣に取り込まれた後、周囲が暗転し吸い込まれるように今度は落下する。
「クソ野郎――」
俺の声が転移空間にこだまする。
そのまま暗闇の中へと、底なしへと俺は落ちていった。
意識が遠のく。
「――がっ……」




