第12話<因縁の対峙>
意外にもザ・リッパーはなりを潜め、俺は通常のゲームプレイへ復帰していた。
いつものように、一人でクエスト掲示板の前に立つ。考え事をしながら眺めていると、後ろから声をかけられた。
「何見ているの? ヒマなら私を手伝ってよ!」
「いや、俺は忙しいんだ」
「嘘、ヒマだって顔してるわ」
エイミは俺の表情から、その気分を見抜いたりもする。ゲームスキルではなく、ただの女の勘だ。
「迷宮に潜るの? 私も行こうかな?」
そう言って体を寄せて、正面のクエスト票を覗き込む。
「ダメだよ、アブナイやつだ。それに約束があるんだろ?」
エイミとヒナはあの一件以来、盾の団の仕事を手伝っていた。
「あら、本当。こんなのを手伝うの? 意外ねえ……」
そう言ってまじまじと俺の顔を見る。
「私は遠慮ね。連れてけ、なんて言わないわ」
「まっ、ヒマだしな。様子を見てくるよ。気まぐれさ」
「気を付けてね――」
アイドルの目力に押されて、俺は視線を逸らす。
「――ユーシなら安心だろうけどね」
「まあな」
おもてに出て二人で通りを歩く。枝道を分かれて互いのギグプレイヤー仕事へと向かった。
「たまには私たちにつきあきなさい。食事をしましょうよ!」
エイミが手を振って叫ぶ。
「ああ、付き合うよっ!」
俺も叫んで手を振り返した。夕食代を稼がねばならない。
迷宮に入り、三層まで下り先へと進む。
以前と同じように、|ゴールデン・スペクター《黄金の亡霊》の連中が検問を張っていた。
「また来やがったのか……」
そいつらは俺を睨んで精一杯の虚勢をはる。それが検問の仕事だ。
「クエスト票を見たのさ。ザカライアにも直接誘われている。あれは冗談だったのかなあ?」
「通りな……」
四人は俺から目をそらさずに道を空けた。
「悪いね」
更に進むと、連中は今まさに戦いの最中であった。なかなかの強敵相手に必死に戦っている。あっちこっちでだ。
クランのリーダーは、その様子を眺めていた。
「ようっ!」
「来たのか……」
「ギルドにクエストを出したんだな。手伝わせてもらうぜ。苦戦してるのか?」
「普通だ。ならば下の警戒をやってもらおうか」
「ああ」
「ついてこい」
予想の範疇だ。それならそれでいい。問題はない。
俺たちは第四階層へと下りる。細い下り斜面の回廊を無言で進んだ。出口は大きなホールとなっていて、数名の手下が警戒態勢をとっている。
「お前ら、ユーシは知っているな? 持場の応援だ。お前と、そこの二人は上に加勢しろ。残りは引き続き警戒せよ。交代はすぐにでも送る」
ザカライアはそれだけ言うと、部下を引き連れて上がって行った。
「ここを守れってか?」
要はこの場に陣取って、襲ってくる魔獣を上に行かせない逆検問を張ればよいのだ。
残っている下っ端は、うさんくさそうな目で俺を見ている。
「まっ、それがギグさ――」
突然にやって来た名前程度は知っている男が、どれほど頼りになるか不安なのであろう。
「――せいぜい働くとするか」
例え気に入らない相手でも、この場では一蓮托生である。
俺は奥から湧き出てくるプーレ、シヤン、シャ程度の小物を片っ端から狩りまくる。
それなりの大物、ボヴァンが出たが一突きし、グレートビッシュは一振りで斬首せしめた。
|ゴールデン・スペクター《黄金の亡霊》のメンバーは、目を丸くして見ていただけだ。
「簡単な仕事さ」
俺としては、ギグプレイヤーはハンパ者との偏見を、少しは払拭したと満更でもない。
途中|ゴールデン・スペクター《黄金の亡霊》は人員を交代させるが、俺はマイペースで迫る獲物を切り倒す。
「ご苦労だな。ユーシ……」
ザカライアが再び下りてきた。危険な場所に、一人で援軍でもあるまい。
「どうした? リーダー自らこんな下にまた来るなんて」
「まあまあの相手が出た。そろそろ引き上げ時だよ。おいっ! おまえたちは上に行って加勢してやれ。ここは俺とユーシで押さえ込む」
手下たちは顔を見合わせてから返事をし、第三階層に上がって行った。
「お前さんは戦わないのか?」
「部下たちをまんべんなく稼がせて、レベルを上げさせなければならない」
俺はふと、昔何気なく交わした会話を思い出す。大きなクランを作った暁には、皆がどう運営するかなど語り合いもした。
「偉いな」
「普通だ、貴様に褒められるとはな――」
互いに無言のまま周囲を警戒する。
小物が何匹かこちらに走って来た。ザカライアは剣を抜き、上段に引き突きを繰り出す。数撃の魔力が飛び、全ての魔獣を仕留めた。
その強さは相変わらず一級の芸術品だ。このゲームが始まったばかりのころ、俺はザカライアが使うこの技を見ていた。
「俺のクランに入らないか?」
「|ゴールデン・スペクター《黄金の亡霊》に? 俺にとっては御大層すぎる。務まりそうもない」
「フン。部下たちには、戦いが終われば帰れと言ってある。そろそろだ」
「そうか……」
「気が付いてるんだろ?」
「何がだ?」
「気にいらねえよ。昔からな」
再び大型の魔獣が向かって来る。今度は俺が一撃で仕留めた。
横目で低位の脅威を警戒しながら、そして互いに向かい合う。
「……貴様にはここで消えてもらうぜ」
「ふーん、自分の方が強いって思っているのか?」
俺は言いながらも剣を振るって、小物を切り捨てた。そして仕掛けてきた相手に向き直る。
一瞬、空間が静寂に包まれ、上層階から流れてきた小さな歓声が聞こえた。クエストは終了したらしい。
「ますます、気に入らねえな。その自信が――よっ!」
剣を振り上げたザカライアから、無数の突きが俺を襲う。
が、こちらの旋風の刃がそれを受けきった。
「いいだろう。お前が何者か聞かせてもらおうか?」
俺は冷めた目で相手を見る。
「いいさ、そして死にやがれ……」
ザカライアは冷酷な笑みを浮かべた。




