第11話<追い込み衝突>
街が宵闇に包まれ始めた。はたして今夜、ザ・リッパーは現われるのかどうか? 盾の団のメンバーたちは、あらかじめ街に散っている。
俺は一人で境界線のイースト・サイド側、建物の屋上にいた。後方にはエイミたちの支援部隊が控えている。
「まっ、一人はなれっこだけどね……」
この配置に不満はないが、ただ待つだけは性に合わない。
周囲に目配せしつつ、ぼんやりそんなことを考えていると星弾が上がった。
「ここで来るとは、ついてるぜ!」
まずは前衛が突っ込んで、敵を押さえ込み時間を稼ぐ作戦。おとりは俺なのだ。望むところである。
「行くぜっ!」
切り裂き野郎の顔を拝んでやるぞ、とばかりに進撃の逆制動をかけ、空中を一気に進む。
俺は検索を使いつつ目標を探した。
「いた! 追われているのか?」
目標は高速で裏路地を移動している。追っているのはベテランの手練れのようだ。
恐怖の殺人鬼も数には勝てない――と思った刹那、切り返したリッパーはその数人を切り裂く。瞬殺だ。
「くそっ!」
今度は急降下をかけて、一気に肉薄する。相手が逃げると思ったからだ。しかしリッパーは予想に反して急上昇する。これが切り裂きの戦術だ。
ぼろ布を体中にまとったプレイヤー、細身の刃が二本突き出ていた。
「こいつめ……」
この二本でプレイヤーたちを切り刻んでいるのだ。それも女子ばかりを。しかし俺は男だ。
「舐めるなっ!」
急速に接近するリッパーの剣が、二本同時に突きを繰り出した。その攻撃力は分散して、複数の魔力が囲むように迫る。
「ちっ」
剣の一振りで発生した、刃の旋風がそれを阻む。しかし相手の攻撃は更に分散し、俺の体を襲う。
「がっ!」
予想を超えた攻撃に、俺は腕を浅く切られてしまう。油断したと思ったその時、後方に多数の気配を感じた。
「大丈夫っ!」
エイミを先頭に後方援軍が駆けつける。盾の団は、逃げるザ・リッパーを猛追した。
「ああ、ちっ――」
俺は左腕を押さえる。傷を負ったが、あの技は見切った。
以前一度だけ、偶然に見たことのあるスキル――、知らなければ、どうなっていたか分からなかった。
「怪我してるじゃない」
「手当てします……」
ヒナは魔導録を開いて治癒魔法をかける。大袈裟と思ったが心遣いをむげにはできない。
「悪いな」
「いえ、追ってる人たちが全滅すれば、次は私たちの出番ですから」
つまり俺はまだ戦闘要員として数に入るのだ。文学少女は超現実主義者である。
「あなたが一撃で仕留めないなんて、アイツ強いの?」
エイミの目は、獲物を追う追跡者の目になっていた。勝手に動きはしないかと心配になる。
「Aランクだろ?」
「ふーん、そんなのが趣味、人殺し?」
「力に溺れるタイプですね。そんな人は多いですよ」
ヒナの分析は、おそらく正しい。強いからこそゲームが設定した戦いだけでは、満足できなくなっているのだ。
「さて、殺人事件の犯人は、これからどうするんだったっけ?」
「私たちをあざ笑うかのように、あっちこっちで犯行を繰り返す、でしょ?」
「地下に潜って、しばらくは静かにすると思います」
二人の性格が良く分かる分析である。そしてこれは、ザ・リッパーの性格分析でもあった。
幸いにザ・リッパーは夜の闇に姿を消す。犠牲はウエストの少女と追跡した数名。
イースト・サイドに犠牲はなかったが、こちら側が狙われるのは、時間の問題だろう。
それから俺たちは、夜の時間帯にゲームを集中させる。毎夜盾の団と共にクエストに参加した。
しかし殺人鬼はぷっつりと姿を現さなくなり、クエストは制圧から警戒レベルに落とされる。




