第10話<切り裂きの仕事>
ログインしていつも最初に行くギルドで、俺はいつものように案内掲示板の前に立つ。そこには俺にお似合いの、お馴染みのクエストが並んでいた。地上の案件である。
迷宮のクエストがないのは基本フリー、早い者勝ちとなるからだ。だから力で場を支配したがる輩が現われる。
「ん?」
切り裂き事件の要員、指示を受けている者は受付に出頭せよ、とのクエスト票が張られていた。
「早速だな……」
サイコなるイカレ野郎がどんなヤツか興味はある。俺はカウンターに向かった。
「例の件、クエストを発動させるから。参加してもわうわ」
会うなりメリッサは切り出す。動きが速いのは良いことだ。
「ああ、もちろん。人はそろったの?」
「盾の団が参加してくれるの。助かるわ」
「なるほどね……」
イースト・サイドの双璧をなす大クランの一つ。彼ら彼女らは無頼の輩が集う|ゴールデン・スペクター《黄金の亡霊》とは違い、力の使い方を知る堅い連中、大人の集まりだ。
「説明するわ」
小部屋に通されると、既にエイミとヒナがいた。
「女子を参加させるのか?」
「盾の団にも女性はいるわ」
「しかし――」
ザ・リッパーの標的は女だ。その探索に女子たちを使うなど、おとりのようなものではないか? 俺は少し嫌な気がした。
「それは女性差別よ。強さが問題なんじゃないかしら?」
「弱い男子は、やはり足手まといになります。それに心配される意図は、こちらの強みでもありますから」
どうも口では勝ち目はなさそうだ。エイミもヒナも事態を良く理解し、すっかりやる気になっている。相手は女の敵だ。
「あちらからの提案でもあるのよ。考えた末だと思うわ」
それならば問題はない。盾の団は一流だ。メリッサは作戦の概要を説明する。
「クエストの達成は、目標の警戒と殲滅です。すぐに移動してちょうだい」
「分かった」
俺たち三人は盾の団の拠点となる建物に向かう。
ザ・リッパーはウエスト・サイドで事件を起こしていた。だから探索と警戒隊を組織し、ここイースト・サイドの境界に配置して待ちつつ防備を固める。
ウエスト側もこのクエストを承知していて、夜間多くのプレイヤーを配置する予定だ。ひとたび事件が起これば標的をイースト側に追い込む作戦である。
事件が昼間ならば姿の見えないプレイヤーが怪しい、となる。しかし当然であるが、夜はログアウトしていく者が多数だ。だらかザ・リッパーを気取っているヤツは、ノーマークのまま殺しを楽しんでいる。今の夜は死の匂いが満ち始めていた。
盾の団の本部は閑散としていた。団員は既に動いているようだ。
「よく来てくれたな」
「相手は女性の敵ですから。ボコボコにしてやりますよ」
いかつい風貌の団長、クレイグの言葉に、エイミは軽口で返す。
見た目と違って、気が優しくて力持ちのキャラで、仲間からの信頼は厚いようだ。
「それは頼もしいね。疾風の女剣士、噂は聞いてるよ」
「旋風のユーシと魔導のヒナ。お二人にも期待してるわ。よろしく」
隣にいるのは副団長の女性、ハリエットだ。
「こちらこそ。俺はどんな配置にもつくけど、女の娘たちに無茶はさせないでくれ」
「大丈夫よ。何でもやりますから」
「適材適所であれば、不満はありません」
クレイグとハリエットは顔を見合わせる。
「あははは、あなたたちは仲が良いって聞いたけど、言ってることはバラバラね。さすがギグ」
「誰をどうするかは、こちらが決める。全員の安全を確保しながらヤツを追い詰めるのだ」
「嫌なら今から抜けて勝手にやって。ただし女の娘たちはより危険になるし、三人じゃあできることも限られる。適材がいても適所は見つからないわ」
「「「……」」」
俺たち三人は黙ってしまった。これが理屈だ。
「なあに、無茶はさせないさ。まずは現場を見せてやってくれ」
クレイグはハリエットに顎をしゃくった。
「ええ、実は昨夜境界線近くのイースト・サイドで事件があったのよ。先にそこを見せましょう。ついて来て。そこを見てから決めて下さい」
一流と呼ばれるクランは、やはりひと味違う。
俺たちは移動して入り組んだ路地に入る。その場所は盾の団のメンバーで封鎖されていた。
奥の倉庫のような入り口がある。そこが現場だ。うながされて中に入る。
「これは、ひどいな」
それは文字通りの惨殺死体である。小さな建物の小さな部屋。現場は凄惨であった。ザ・リッパーが初めて東側にやって来たのだ。
「うっ……」
エイミは口元に手を当てて部屋から出て行った。無理もない。ヒナは蒼白の顔で後を追う。
俺は素人なりに現場を見聞する。
ポリゴン消失しないのは、そのような設定も使用可能だからで、これが切り裂きのスキルだ。
凶器は鋭利な刃物。出血具合から四肢の先端からバラバラにしていった、と想像できる。
制限があり、ゲーム内で現実のような痛みは感じないが、生きたままバラされる恐怖は存分に味わっただろう。痛覚のリミッターが、外れかかったかもしれない。
頭部の切り裂かれ具合は、レーティングありでも公開不可能だろう。
「本人が死んでいないのが救いだけどね」
「でもかなりのショックよ。恐怖は本物だしね」
ハリエットの顔は涼しいままだ。ずいぶんと場慣れしている。
「つまりそれを見たい。こいつは殺人を楽しんでやがるんだ」
「ご明察ね。遊ぶ金欲しさ――ではないのよ。これが遊びなのね。まっ、ゲーム内だし」
この世界ならば殺人は罪にはならない。現実では死んでなどいないからだ。
「こいつをやるのがリッパーか……」
人間の部品と血液の芸術。不謹慎にそう思ったのは、リッパーがこの小部屋の床をキャンバスに見立てていると思ったからだ。




