ゲーミング令嬢、光り輝く ~ネオングリーン~
「エイサス・ガレリア伯爵令嬢、授かりし加護は【ゲーミング】!」
神官長が高らかに私の加護を宣言した。
なんじゃそりゃ。
私が転生者だからってなめてんのかな?
今日は今年成人する貴族の令嬢子息達が神々の加護を授かる儀式の日。
未知の加護を前に大聖堂に集まった高貴なお歴々が静まり返る。
「ゲーミング……? なんだそれは?」
「新時代の加護やも知れませぬぞ!?」
「あるいは悪い報せかも……」
ざわめき始める大聖堂。
なんてこった。
他の令嬢や子息達は竜の加護とか癒やしの加護とか良い感じの加護なのに。
なんで私だけゲーミング。
そりゃ転生前は割とゲーム好きでしたよ。
派手なの大好き。
だからってこれはないわー
思わず天を仰ぐと、光が差し込んできた。
噂の【聖宝具】が舞い降りてくる。
加護を授かるとそれに相応しい道具も一緒に授かる事がある。
剣聖なら強い剣、賢者なら魔法の杖なんて具合に。
天からスポットライトのような光と共に舞い降りてくるのは……
兜?
白いハーフヘルメットがゆっくり舞い降りて私の頭にスッポリと収まった。
あー……ヘッドマウントディスプレーっすね、これ。
ちなみにインカムつき。
大聖堂が「おぉー!」という驚愕の声に包まれる。
確かに見た目はカッコいいのかも知れない。
だが待ってほしい。
私は伯爵令嬢エイサス・ガレリア。
今の姿は華々しいドレスだ。
可憐なドレスに身を包んでる。
しかし頭にロボット警察みたいな白いハーフヘルメット
緑色した横に広い半透明バイザーがとってもCOOL
アメコミヒーローズかな?
バイザーのディスプレイに「WELCOME, GAMING LADY.」とか出てる。
やかましいわ
大聖堂に歓声が湧き上がった。
聖宝具を授かるのは高位の加護の証。
ゲーミングの加護が何だか分からなくとも、強力な加護である事が約束された。
これでこの王国も安泰だと口々に喜ぶ声があがるのが私の耳にまで届く。
大した加護じゃないと思います。
「アスース!」
ざわめく大聖堂の中、ひときわ大きい男性の声が私を呼ぶ。
デル・インテイル侯爵令息、私の婚約者だ。
アスースは私の愛称らしい。
本名がエイサスなのに、なんで愛称がアスースになるのか、謎だ。
デルは祭壇まで上がってくると深刻な表情で宣言した。
「そんな邪悪な加護を授かるなんて、俺は婚約者として恥ずかしい!」
ごもっとも。
「よって、この場で俺と君との婚約を破棄させてもらう!」
ですよね。
正直、私も少々恥ずかしい。
しかし意外や意外。
会場からブーイングが湧き上がる。
「新たな加護を授かった令嬢に対してなんて仕打ちだ!」
「これだから古さだけが取り柄のバカ貴族は!」
「学芸会は学園でやれ!」
「前からお前にはもったいないと思ってたんだ! エイサス様、俺と結婚してくれ!」
帰れ帰れのシュプレヒコール。
うろたえる元婚約者、デル。
「な、何だってんだ!? みんな頭がどうかしてしまったのか!」
どうかしてると思います。
あと最後の声のお方どなたですか。
後日、じっくりお茶会しましょう。
婚約破棄からの再婚約最速RTA達成できたかも知れない。
生卵を投げつけられ、元婚約者デルはほうほうの体で大聖堂から逃げ出していった。
なんでこの目出度い席に生卵持ち込んでいる人がいるのでしょう。
しかも複数人。
なぜか白い粉、おそらく小麦粉まで投げつけられて、後は揚げるだけみたいになってる。
本当に煮えたぎった油に放り込まれないといいな。
やにわに私のヘッドマウントディスプレーが光りだした。
七色に。
しかも直線的に。
うん、ビームだこれ。
「おお! ゲーミング令嬢様が光りだしたぞ!」
「なんて神々しい光だ……!」
神々しいですかね?
ビビッドな感じですが。
しかし異世界の人々はこんなネオンカラーの光を目にする機会はない。
なんか雰囲気に流されて神々しいとか言ってしまうのは無理もないか。
「ああ……光に当たると心が安らぐ……」
「腰の痛みが軽くなってきた……!?」
「フラれた悔しさがどうでも良くなってきたぞ!」
「俺も全財産株に突っ込んで廃嫡案件だけど全く気にならなくなったぜ!」
皆さん騙されやすいタイプだと思います。
詐欺には気をつけてくださいね。
貴族社会も捨てたもんじゃないとは思いましたが。
あと最後の人、後で相談しましょう。
まだやれる事が残っているかも知れません。
「Enemy Identified.」(敵性生物を識別)
七色に光るヘッドマウントディスプレーに突如メッセージが浮かんだ。
ディスプレー越しの人の中に体が真っ赤に染められて表示されている人がいる。
もうヤケです。
乗るしかない、このビッグな加護に。
インカムをクイっと口元に寄せて声を張り上げる。
「皆様! この大聖堂に邪悪な者が潜んでいます!」
驚愕と恐怖の叫び声が上がる。
同時に私のヘッドマウントディスプレーのバイザーが赤く光る。
実に直線的でビビッドな色の赤いビームが対象に向かって突き刺さる。
「正体を現しなさい! 邪悪な──「ぎゃああああああああ!」──ふぉ!?」
赤いビームに貫かれた人は青白い炎に包まれて苦しみ始めた。
ビームは赤かったのに、青白く燃えるとは結構器用な邪悪さんらしい。
「な、なぜだ! なぜ私の正体に気づいた!」
「このゲーミング令嬢、まるっとお見通しよ!」
邪悪さんはあっという間に燃え尽きて灰になった。
「そんな……ベン・キュー宰相が悪魔の手先だったなんて」
「危うく王国が乗っ取られるところだった……!」
「やはり怪しいと思ってたんだ!」
「誘いに乗ってクーデター起こさなくて良かった」
邪悪さんは宰相様でした。
間一髪といった所ですか。
あと最後の人、自首してください。 できる限りの弁護は致します。
「ゲーミング令嬢! ゲーミング令嬢!! ゲー・ミ・ン・グ!!!」
大聖堂がスタンディングオベーション状態。
元から皆さん立ってましたが。
ヘッドマウントディスプレーは得意げに七色のレーザー光を四方八方に放射し始める。
調子に乗らないで欲しい。
鳴り止まない喝采と拍手。 このままでは収まりがつかない。
熱気に押されるように私はカーテシーを披露した。
ヘッドマウントディスプレーをつけたまま。
また会場を仕切っていた聖職者の方々が余計な気を効かせてカーテンを閉めまくったものだから。
ほんのり薄暗くなった大聖堂にビビッドで直線的なビームが目立つ事目立つ事。
会場は熱気つつまれ、興奮は危険な領域へと加速していった。
いえ、普通におめでたいムードで終了しましたが。
しかし巷ではゲーミング令嬢ブームが巻き起こり、私は恥ずかしくて町を歩けなくなった。
元より伯爵令嬢なので町を歩く機会も少ないですが。
その日から我が家の邸宅には釣書を携えた使者が昼夜を問わず行列を作るようになった。
あんな場で婚約破棄をするから……
元婚約者デルを少しうらめしく思ったけど、当の本人は帰るや否や家から廃嫡&絶縁宣言を叩きつけられたとか。
弁解を繰り返すデルに業を煮やした当主様が煮えたぎった油の鍋を投げつけたとか投げつけなかったとか。
香ばしい匂いになっていなければ良いけど……
しかしのんびりお見合いをしている暇はなくなってしまった。
あちこちから相談を持ち込まれるようになってしまったからだ。
「ゲーミング令嬢様、我がイオデータ領一帯が干魃により大凶作なのです」
「いえ、私は光って邪悪を見つける以外、能のない令嬢でして……」
『Mission Accepts.』(使命受諾)
「……話を聞きましょう。 お力になれるかも知れません」
「おお! さすがゲーミング令嬢様! このイオデータ子爵、感謝の念に堪えません」
このヘッドマウントディスプレー、勝手に頭に装着されてくる。
どこに置いといても念じれば、いいえ、念じなくても勝手に装着されにやってくる。
良く出来たヤツだ。 休暇と言う概念について一度じっくり話し合おうじゃないか。
子爵領へと赴くと季節外れの猛暑。
地面はひび割れ野生動物の頭蓋骨が転がっている。
私が天を仰ぐとヘッドマウントディスプレーに表示が出る。
「なんか良い感じに祈ってください。Let's Pray!」
いきなり投げやりにならないで欲しい。
日本語モードが可能なら最初から日本語でお願いしたかった。
転生以来、久しぶりの日本語だし。
両手を合わせて祈る。 更に祈る。 ひたすら祈る。
「チャージが完了しました。 祈るフリは終えて大丈夫です」
フリとか言わない。 ひどいヤツだ。
まぁ分かってたけどね。
画面に気象データとかグラフとか計算式たくさん出てたし。
「チャージ開放、ダイレクトエントリー、ノーオプション」
訳の分からない照準が浮かび上空に三角のターゲットマークが現れる。
半透明のバイザーは緑から青に変化した。
どうやら照準の十字マークと三角を合わせると良いらしい。
よし、こっちか。 もっとこう……首をクイっと。
「あの、ゲーミング令嬢様……?」
「しゅ、集中が必要です。 お静かに願います」
こっちだって恥ずかしいんですよ。
エイム苦手なんで。
そいやっ!
ピピピピピ……!
よし、やったね。
ズビュウウウウゥン
バイザーから青いビビッドな光が天に向かって放たれた。
あまりの勢いに身体がガクガクと振動する。
振動機能付きかー
いらんわー
青いビビッドなビームは天にあった雲をぶわっと吹き飛ばした。
半端な白い雲を全て空から消してしまうと、すぐにもくもくと大きな雲がどこからともなく急激に湧き出す。
雷鳴を轟かせながら黒く厚く変化して……
豪雨になった。
「恵みの雨だ! これで作物が蘇る!!」
「その代わりびしょ濡れですけどね」
屋根付きの馬車に乗ってくるか、せめて傘を持ってくるべきでした。
なんて日だ。
「ゲーミング令嬢様、貴女の名は子々孫々語り継ぎます!」
「語り継がなくて良いので早く帰りましょう。 風邪をひいてしまいますよ」
以来、イオデータ子爵領では定期的に雨が降るようになったらしいです。
必ず雷雨なのが玉に瑕だとか。
領内ではこの定期的雷雨を「ゲーミング令嬢の慈悲」と呼ぶようになったとか。
私の慈悲、激しすぎませんかね。 ツンデレかな?
領民の皆さんに芸術センスの教育を頑張ってほしい所です。
イオデータ子爵にはずぶ濡れになったお詫びとして素敵なドレスをプレゼントされてしまった。
これを着て帰るのはちょっと……
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そこからの私の活躍は凄かった。
西に財政難であえぐ男爵領があれば、行って黄色いレーザーで金鉱脈を探し当て。
東に不治の病あれば、行って青白いレーザーメスで患部を焼き切り。
南に魔の森あれば、行ってパールシャインのレーザーで浄化しつつ森を焼きかけ。
北に渦潮海峡があれば、行ってマリンブルーのレーザーで海の主のお怒りを鎮め。
なんだか凄かったのである。
詳しくは近々刊行される「ゲーミング令嬢の聖杯探索」を読んで欲しい。
特に聖杯は探していない。
荒野を歩いていたら拾っただけです。
王都でパレードをさせられました。
我がガレリア家は侯爵家へと陞爵されました。
お家の晴れ舞台だと言うのに父様と母様は無関心で「ゲーミング令嬢まんじゅう」を売るのに夢中。
転生知識を活かそうと、ドヤ顔でまんじゅうの製法を教えた過去の自分を叱りたい。
直営店には私の魔法実写ポスターがでかでかと貼られている。
笑顔の私が、と言っても目元はバイザーで隠れているから口だけ笑っているのだが、まんじゅうを持って「私が、光りました」という文字を両脇に携えている。
恥ずかしいやら親バカな愛情を感じて照れくさいやらです。
パレードの終着地点では王国の第二王子であるエレコム殿下のお姿が見えます。
ひとつ年上のお方で王立学院では大変良くしてくださいました。
知識学力剣術政治地理歴史軍略、どれも最高の成績で卒業されていった凄いお方です。
慈悲深く、それでいて冷徹な政治経済の手腕を持つ美しい顔立ちをしている辣腕家になったそうで。
当時はそれはもう、贔屓の引き倒しだったのではないかと思うほど厚遇されました。
色々勘違いしてしまいそうになるほどに。
ですが卒業なされた後、授かった加護が悪かったらしく潮が引くように権勢を失ったそうで。
心を痛めていたのですが、思い出すべきでした。
加護のせいで殿下がどんなあだ名で呼ばれていたのかを。
【ネズミ王子】
何の役にも立たない「マウス」という加護を授かったそうです。
不思議なボタンがたくさん付いた聖宝具と共に。
思い出すべきでした……
あかん、あそこへ到着してしまったら……
エレコム殿下が、ああ……すごく良い笑顔で
そして少しだけ頬を紅潮させて
天から光が差し込み、ヘッドマウントディスプレーさんが七色のビームを撒き散らしながら降りてくる。
観衆のテンションはクライマックスを通り越して熱狂している。
そこで殿下のマウスが赤いビームを出して私のヘッドマウントディスプレーと結び付いた。
「やはりだ! エイサス嬢、私の加護は貴女の加護と対になるためにあったのだ」
「ですよね」
エレコム殿下が私のいるパレードの輿に乗り移り、私の前に膝を付き見上げてくる。
こうなりますよね。
「エイサス・ガレリア侯爵令嬢、どうか私と婚約して欲しい。 学院時代から貴女に心を奪われていたのだ」
はい、勘違いじゃなかった。
そして断れない。
まぁ元よりお断りするなんて論外でしたか。
今生の初恋でしたから。
大観衆が大きな拍手で歓迎し、まるで祝砲か豪雷かというほどの音になってる。
お祭りは10日に渡って続いたそうです。
その後の私と殿下の活躍はご想像の通りです。
ワンクリックでドラゴンを倒してみたり、ドラッグアンドドロップで町を移動させたり、道を伸ばしたり。
殿下は権勢を取り戻し、大いに面目躍如をほどこしました。
王国は空前絶後の繁栄を迎えます。
ちなみに、上の子が授かった加護は「ディスプレイ」で真ん中の子が「ピーシー」です。
下の子は何の加護になると思いますか?
チェアーかな、デスクかな……
終わり
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