45話・鯉佐木さんと雪の中での約束
「うわぁ……雪だ。今年は降るの早いなぁ」
──十一月、最後の日。まだ一応冬ではないけれど、細かな雪が町に降り注いでいる。
と言っても、十一月序盤に立冬と呼ばれる日が来るんだから、冬と言ってもいいのかも知れない。現に雪も降っているのだから。
雪は冬の象徴みたいなものでしょう?
「四季はそれぞれ三ヶ月ずつ、とか小さい頃に習ったけど、実際はそうでなかったりしてもっと細かいものなんだよね、季節って」
「あ、青雨さん。ホントだよね〜。僕、冬は十二月から二月までって聞いてたんだけどなぁ」
「よく分からんよね、その教え」
「ねー」
ファストフード店で、青雨さんとのんびりトークを続ける。遅いなぁ鯉佐木さん。道に迷ってるとか、大丈夫だよね?
「コイちゃん、渋滞の波に飲まれてるみたい。もうちょいかかるかもね」
「あ、そうなんだ。大変だね。……青雨さん、いつの間にか鯉佐木さんの連絡先手に入れてるんだ?」
「昨日ね。コイちゃんが勇気出してくれて、『いつもお世話になってるから』って」
「へぇー! 鯉佐木さんの方から! それはビックリ」
「んでも考えてみ? コイちゃんにこっちから行くのって、凄い不安っしょ? 待った方がいいって」
「……確かに」
僕も同じ気持ちだったしなぁ。中々言い出せないっていう。
で、鯉佐木さんの方から言ってくれたんだもんね。僕が勇気を出すべきだったんだろうけど、やっぱり怖かったからさ。
人に裏切られた鯉佐木さんが、誰かと仲良くしてくれるのか……なんて、今でも不安になることがあるし。
でも、大丈夫。僕は鯉佐木さんに必要とされてる。だから心配はないんだ。
「──あ、ごめんとも今日バイトの日だったわ。あと三十分で。悪いんだけど、二人で話進めといてくんない?」
「えええええ!?」
あまりにも自然に出口へと向かう青雨さんに、思わず大きな声を出した。申し訳ございません皆さま。
それにしても、自由過ぎない? 今日僕達は青雨さんに集められて、「クリスマス一緒に遊ばね?」っていう話し合いをする予定だったのに。
青雨さん本人がいなくなって、僕と鯉佐木さんだけで何か予定を作るなんて……最早拷問と違わないよ。
だって僕達、一瞬でデート終わるような二人ですよ?
…………デート。
「改めてそう呼ぶと、すっごい照れるな……。いやでも、楓にも言われたしそう思っておくべきなんだろうけど」
思い出して恥ずかしく、でも嬉しくもなっている気持ちを落ち着かせて、席に戻る。しんしんと降る雪を眺めていたら、スマホがバイブレーション。
鯉佐木さんかと思ったけど、青雨さんからのチャットだった。
『ごっめーん。よく考えたらクリスマスもイブも予定あったわー。てことで当日はコイちゃんと二人で楽しんでー。よろー』
「……」
言葉を失う。今度は口に出さないように、冷静に心でツッコミを入れよう。
青雨さん、本当によく考えてから発言してください。僕達今日、一回うちに帰ったんですよ? 今更だけど、チャットでよかったのでは?
……あ、青雨さん本当に帰って行くっぽい。ば、バイバーイ。
「小谷くん、こ、こんにちは」
「うわっ!? あ、ごめんビックリしちゃった。こんにちは鯉佐木さん」
「ビックリさせてごめんね……?」
「ううん、僕が気づいてなかったのが悪いし。それより、青雨さん帰っちゃったんだけど……」
「チャット来たから……」
そりゃそうか。僕だけに送るわけないじゃんね。
でも鯉佐木さん、無事辿り着けてよかった。事故とかに巻き込まれなくて本当によかった。私服姿、清純そうなのがとても似合ってる。
ひとまず鯉佐木さんを座らせて、替わりに僕は立ち上がる。
「鯉佐木さん、話す間何か食べる? 僕買って来るけど」
「えっ、あっ、う、ううん大丈夫。私買って来るよ……?」
「いいよいいよ奢らせて。何がいい?」
「……えっと、アイスティーだけで、大丈夫」
「…………あっ、オッケー分かった。じゃあちょっと待っててね」
鯉佐木さんと手を振って、レジに並びに行く。そう言えば鯉佐木さん、食べるのは苦手なんだった。やってしまった申し訳ない。
取り敢えず僕はポテトを追加。安いからいいよね、ポテト。
♡
「──お待たせ鯉佐木さん。早速だけど、クリスマスどうする? 結局青雨さんがいないし、僕達二人だけなんだけど。勿論、出かけないって選択肢もあるからね」
クリスマスは絶対寒いし、何気に体調を崩しやすい鯉佐木さんを、無理させられないからね。
どんな選択が来てもいいように、頭の中を整理しておく。一足早く、イブとクリスマスはバイトを休みにしてもらった。抜け目は多分ない。
「……クリスマス、は」
鯉佐木さんが、少し間を空けて口を開く。ずっと、俯きがちだから顔は窺えない。
「──クリスマスより、私にとっては大事な日があるの」
身構えていた僕を斜めから崩す、思いもよらない答えが返って来た。
ちょっと待って、つまりクリスマスのことではない?
「えっと……?」
「小谷くんはきっと、覚えてないと思う。から、そのお話を……したいです。わがまま、なんだけど……」
突然切り出した鯉佐木さん。もしかして僕、何か忘れてる……?
残り5話です!




