35話・鯉佐木さんとの学園祭
「学園祭、今年はないみたい」
お昼休み教室に戻って来た青雨さんが、スマホを弄りながら零した。因みに、さっきまではトイレに行ってました。
僕は鯉佐木さんと一度目を合わせて、牛乳をストローで飲む。
「そっかぁ。何気に結構楽しみだったんだけどなぁ」
お化け屋敷とかは入らなかったけど、クレープ屋さんだったりとか、食べ物系が多くて好きだった。
去年は鯉佐木さんが休んで誘えなかったから、今年こそは一緒にって思ってたんだけど。
「ま、ともも廊下でちょっと聞こえただけだし、まだ分からんけどね」
「え、どんな風に言ってたの? ていうか何処までトイレ行ってたの……?」
「教頭が『昨年は騒ぎ過ぎだった。特にカップルが』〜とか何か、そんな感じ」
「えぇ……学園祭なんだし騒いでもよくない……?」
「嫉妬してんじゃん? イチャつく相手もいないから」
「そ、そうなのかなぁ」
だとしたら、私怨で中止にするってことになるのでは。嫌だなぁそれ。
教頭先生、大人気ないですよ。まだそうと決まったわけではないけども。
「んで、トイレは一階まで降りてった」
「何で……?」
「三階と二階は何か壊れてるみたいで、今ちょっと使えないから」
「知らなかった!」
「女子トイレのこと耕介が知ってたら問題なのよ」
うーん、学園祭を鯉佐木さんと回りたかったんだけど……ちょっと、鯉佐木さんも安心してるみたいだし、いっか別に。
確か去年も、鯉佐木さんは学園祭を恐れて休んだんだったかな。多分。後でそう聞いた覚えがある。
クレープならお店もあるし。ゲームとかは家で出来るし。というか、クラス毎に出しているものは大体お店があるからね。諦めよう。
……でも、
「でも、今年は鯉佐木さんと回りたかったのに……なぁ」
視界の端で、鯉佐木さんがバッと僕を見たのが分かった。「え、そうなの!?」って感じだと思う。
前回は一緒に回れなくて、来年どうなるかなんて分からない。この学校生活の中で、鯉佐木さんと思い出を作ることに意味があると思ってるのに、よりにもよって学園祭を回れないとか……悲しいなぁ。やっぱり。
この学校の、最も大きなイベントな気がするのに。
「ふふ〜ん? 耕介、コイちゃんと回りたかったんだ〜?」
青雨さんが、ニンマリとする。僕その表情笑っちゃいそうなんですやめて下さい。
「んじゃ、ともがひと肌脱ぎますか!」
「いや、ちょっと急にどうしたの……? 凄く不安なんだけど」
「いいからいいから!」
青雨さんは、何か張り切った様子で再び教室を出て行った。バシバシ叩かれた背中がジンジンする。
ふと鯉佐木さんを見てみたら、目が泳ぎまくってて手も行き場を失っていて、何故か挙動不審になっていた。あれ? 初対面ではないよ?
♡
「──今年の学園祭は、来週の日曜日に決定しましたー! というわけでこのホームルームでは、クラスの出し物を決めちゃおうと思いまーす。どんどん案を出してねー」
そしてこんな、翌日午前のホームルーム。待ってどういうこと?
「青雨さん、何したの……?」
先日の昼休み、青雨さんは出て行ってから次の授業まで帰って来なくて、更には単独で帰ってしまったため、話を聞けなかった。
でも間違いなく、この変更に青雨さんが関係しているよね。ってことで、お昼休みに訊いてみた。
「ゴリ押しで許可させて来た」
「そんな真顔で言うことじゃないよね!? 危ないからそういうことやめなよ!」
「大丈夫、一単位削った程度で交渉成功したから」
「全然大丈夫じゃないよねそれ!?」
学園祭開催してもらうために単位一つ手放すって、中々だと思う。凄いよ、そんなこと普通出来ないよ。
そして、ホームルーム中から気になっていたことが一つ。
「鯉佐木さん、何でそんなに怯えてるの……?」
鯉佐木さんがいわゆるガクブル状態なのです。まぁ、去年もこんな感じではあったけど。
「やっぱり、学園祭苦手……?」
僕が訊くと、青雨さんが「え、マジ?」とやっちまった感を出す。
鯉佐木さんは一瞬ピタッと停止して、また直ぐにバイブレーション発動。
「よyyyy陽キャの、sさいてん……だから……」
「陽キャの祭典……まぁ、確かに」
「昔から、あの、えっと……tお祭り的、なの、は、にgがて……で……」
「あ、そっかそっか。分からなくもない……かな」
人混みとかも凄く苦手なんだよね、鯉佐木さん。人に囲まれているわけじゃないけど、自分の周りが人だらけだと、怖いみたいな。分かる分かる。僕もです。
僕は鯉佐木さんと回りたいって気持ちだけで、そこを考慮していなかったなぁ。本当にごめんね鯉佐木さん。
「で、でも……!」
心の中で謝罪していたら、珍しく、鯉佐木さんが大きめな声を出した。因みにここは校舎裏なので、僕達くらいしかいない。
鯉佐木さんはキュッと口を結んで、じっと僕を見つめる。何だかドキドキして来たけど、邪魔はせずに鯉佐木さんの言葉を待つ。
少し泣きそうな顔で、だけど意を決したような目になった鯉佐木さんは、小さな口をまた小さく開いた。
「でも……小谷くんが一緒なら、大丈夫。勇気も、湧く。……多分」
「鯉佐木さん……」
頼りにされてるのが嬉しくて、胸がキュッとなる。
よし。
ちゃんと、僕が鯉佐木さんを楽しませてあげなきゃ。




