表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/51

2・鯉佐木さんはめっちゃ細い。

「168センチに54キロか……去年測った時と全然変わってないな。もしかしたら成長止まるのかも」


 春の終わり頃になると、この学校では身体測定が実施される。夏の体力測定に向けてなのだとか。

 中学の時は違ったし大体は統一されてるらしいから、この学校が特殊なことは分かってる。

 ここの体力測定は、個人個人に合わせてくれるらしいんだ。親切だよねぇ。


「あ、おい小谷。お前170いかなかったんだろ? しかも去年と変化ねぇし、もう止まんじゃね〜?」


「かもねぇ」


 おっと、反射的に答えてしまった。誰かな誰かな。

 ……えっと彼は、同じクラスの橋田くんだね。カースト上位っぽい男子だ。


「俺さ、178だったわ。あでも、去年と全然変わってねぇからもう止まるかな〜。180、行きたかったな〜?」


 …………何だろう、コレ。直接言えはしないけど、自慢なのかな。どうなんだろう。

 それにしても170台後半か。確かに、身長高いもんねぇ。

 凄いナチュラルに、肩を組まれているのが気になるところだけど、ちょっとごめんなさい。


「あ、おい何処行くんだよ。無視すんな」


「えっと、ちょっと用事が……」


「……あ〜あ、そういうことか。ははっ。──俺知ってんだぁ、お前が最近鯉佐木のストーカーしてんの」


「……え」


 僕、ストーカーしてたの? いちいち追いかけ回したりはしていない筈なんだけど。あれぇ……。

 ていうか、今のに反応して取り巻きくん達が集まって来ちゃった。

 ……ちょっと待って芦田さん、女子は別の場所なのに何でいるの? もう終わったの? 出席番号一番ではあるけど。


「え、何? コイツ、ストーカーなん?」

「えーキモ。こんなムサい奴に執着されるとかマジついてないねメロっち」

「誰だよメロっちて」


 何か色々言いたい放題されているだけで、僕は何も言い返せない。こういう人達は、弱者だと悟った相手には常に上からだから、反論するだけ無駄だ。

 それより、一応呼ばれてるんだよね僕。始まる直前に、終わったら屋上に集合って。鯉佐木さんに。


 もう終わってるのかな。それともまだかな。……勇気が出ないから誘えないけど、SNSとかでやり取り出来ればなぁ。

 あまり遅くなると授業始まっちゃうから、急がないと。


「じゃああの、本当に用事あるからこれで……」


「何? お前女子んとこでも行くつもり? 覗き?」


「うーわ、鯉佐木さんとこ行くんだコイツ!」


「……」


 間違っていないから否定出来ないな。覗きではないけど、女子である鯉佐木さんに会いに行くわけだし……。

 どうしよう。そうやって困っていたら、芦田さんが明るい茶髪に染められた髪の毛を弄り出した。


「つーかさ、メロっちマジヤバいよ身体。私より身長高いのに、体重2キロ差しかないの。キモくね?」


「お前がデブなだけじゃねーの?」


「はぁあ!? 私の何処がデブだっての!? 40キロ台が重いわけなくない!? 一応156センチはあんだかんね!? 大体男って夢見がち──」


 ……何だか仲間割れを始めたようなので、隙を見て逃げ出した。目指すは約束の屋上。

 何でこの学校、屋上常に解放してあるんだろうか。


「あ、いた。……ふぅ。よし。──おはよう、鯉佐木さん」


「……!」


 屋上のベンチに腰かけていた鯉佐木さんは、僕に気づくとキレよく立ち上がった。しゅっ! と行ったね。

 普段はジャージ姿見ないから、今凄く新鮮に感じる。体育は男女別だから見る機会ないんだよね。


「……おは、よう。小谷くん……」


「うんおはよう」


「何か、つtついてる……?」


「え、あっ。ごめんごめんジロジロ見過ぎたね。ジャージ姿滅多に見れないなぁと思って」


「……」


 鯉佐木さんは納得してくれたようで、二回頷いた。それからベンチに座り直す。僕も隣に座る。

 こうして近くで見てると、改めて実感する。鯉佐木さん、本当に美人だなぁ。


「……小谷くん」


「ん? 何?」


 恐る恐るといった感じで、鯉佐木さんは身体測定の結果が書かれた、用紙を取り出した。

 凄い不安そうにチラチラ見て来るんだけど、どうしたんだろう。ダメだ全然思い浮かばない。

 何を訴えているんだ。


「しん……ちょうの伸びてた……?」


 あ、身体測定の結果について話したかったのかも。なるほどだから用紙を。


「えっとねぇ、悔しいことに身長に変化は見られませんでした。ミリ単位だったら分からないけど。鯉佐木さんはどう?」


「……どうぞ」


 紙を差し出された。「どうぞ」って、それはまずくないですか。鯉佐木さん。

 だって、聞いた話によると、女子の方ってスリーサイズまで表記されているらしいじゃん。見ちゃうかも知れないじゃん!?

 ……と、目で訴えてたら。


「小谷くんになら……」


 何か、信頼はしてくれているみたいだけど、とことん危なっかしく思えてくるなこのコ。


「じゃあ、身長の部分だけ、見えるように……」


「……」


 鯉佐木さんは頷いて、用紙の一部を指差しながら見せてくれた。僕もなるべくそこだけしか見ないように視線を向ける。

 ──その時、事故が起きた。事件ではなく事故。


「……あ、身長163なんだ。えっと、去年より2センチ伸びたんだね。よかったじゃん」


「……」


 コクンコクンと、鯉佐木さんは照れながら頷く。そして予鈴が鳴ったので、やっぱりいつものようにそそくさと去って行った。

 ……はぁ。思わず溜め息だよ。


 ここで、事故の内容。


「鯉佐木さん、指差してたとこ……スリーサイズだったんだけど……」


 ついでに体重まで見てしまって、数字は伏せるけど言えることが。


 鯉佐木さん、ほっそ────。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ