表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/51

18・鯉佐木さんは首を振る。

「……」


 トイレから帰還した鯉佐木さんは、何やらキョロキョロと辺りを見回す。取り敢えず、一回座ってみることをオススメします。


「……鯉佐木さん? 何か気になるものでもあった?」


「……」


 コクン、と頷かれてちょっとビックリ。合ってたんだ。

 一旦、鯉佐木が満足するまで待ってみようと思う。もしかしたら集中したいかも知れないし。

 一体何を探しているのかは分からないけど。


「……ここ」


 キョロキョロしなくなった鯉佐木は、自分が座っていた席を見つめて小さく溢した。

 汚れてたり、しないよね。椅子とか。

 不安に脳がバグりそうな感覚があったけど、正解はもっと恐ろしかった。


「ここに、人がいた……?」


「えっ!? ひ、人……!? ぼ、僕は見ていないけど、なぁ……」


「……」


 鯉佐木さんの、読めない瞳が僕をじっと捉える。目を逸らしてはダメだ。

 と言っても、騙してるの嫌だなぁ。青雨さんに「教えるな」って言われてるから仕方ないんだけどさ。


「分かった」


 暫く見つめ合ったら、鯉佐木さんが二回頷いた。すっと着席して、ポテトをもにょもにょ食べている。

 ……やっぱり鯉佐木さん、元気がない。目が死んでる、というか、焦点を失っているというか。


 それもこれも全部、プールの件が問題だよね。僕がしっかりしていないから、鯉佐木さんをがっかりさせちゃったんだ。

 だから、青雨さんの言う通り挽回しよう。この後、まだ時間があるならだけどデートに誘うんだ。


「……ご馳走様でした」


 律儀に掌も合わせた鯉佐木さんは、ささっとおぼんを返しに行く。本当は僕が片付けようとか思ってたんだけど、気を貼り続けていたら頭から抜けた。なんてマヌケな。

 お店の外で再会して、同時にお互いの顔を見た。


「……帰る?」


 鯉佐木さんが、澄んだ目をして首を傾げる。これは大チャンス。


「あの、さ。よければなんだけど……この後、この後さ……あの……」


「うん」


「えっとね……」


 ──言えない。「デートしよう」なんてとてもじゃないけど言えない。

 だって僕達恋人でもないんだよ? ただの友達だ。それなのに突然そんなこと言われても、変な人だと思われちゃうよ。

 鯉佐木さんにはなるべく引かれたくない。だから、青雨さんには悪いけど、デートには誘わないよ。

 デートなんだけど、デートという単語は使わないよ。


「時間があったら、もっと遊ばない? と、言っても何も決めてないんだけど……。それでもよければ、どうですか……?」


「うん、遊ぼう」


「即答!? いや、凄く嬉しいよありがとう! じゃあ、早速何するか話し合おう? 何処か行きたいとこある?」


「案内、するね」


「あ、うん!」


 何処かは教えてくれないけど、鯉佐木はついて来て欲しいと言う。だから素直に後を追おう。

 そう言えばだけど、ここから少し離れた場所で海が見えるんだよね。近いとは言えないけど、絶景というか何というか……取り敢えず海が見えます。


 山を流れる川から繋がってるんだけど、周囲が木で覆われていて浜辺もないに等しいから、遊べはしないんだよね。

 時々人が泳いでるの見かけたけど。

 鯉佐木さんにも見て欲しいな、その景色。このままの道なら確実に教えてあげられるんだけど。


「ここ」


「ここじゃん!?」


 ──辿り着いたのは、ついさっき僕が話していた海が見える場所。

 後方に山があって前方には海。それを繋ぐ川の上に、石レンガの橋が架かっているんだ。

 ここが僕のオススメ、簡単に来れる絶景スポットだ。庶民的な、ね。


「小谷くんも、知ってた……?」


「あ、うん。せっかく連れて来てもらって申し訳ないんだけど、小さい頃よく見てたんだ、この景色」


「そっか……」


 鯉佐木さんはボソッと呟いて、海の方に目を向けた。まさかこんなキセキが起こるとは。

 まぁでも、知らない人の方が少なそうだなぁ。ここは、夕焼けで海が染まる時間が一番綺麗だ。

 多分、海を知ってる人は大体分かると思うけど。


「鯉佐木さん、ごめんね何か。今日はもう情けなさ全開だったし、気も利かないし……」


「……」


 今日のプールでの出来事などに関して、景色を見ながら謝る。夕焼けまではまだ時間があるかなぁ。

 ……何も言われないから、恐る恐る鯉佐木さんの方を見る。景色じゃなくて、完全にこっちを見ていた。

 僕が気づかなかっただけだごめんなさい。


「……」


 また、何も言うことなく、鯉佐木さんは首を振った。

 その瞬間、一切空気を読む気のない風が吹いて、目に砂が入るという地獄。痛い。鯉佐木さんがせっかくこっち向いてくれてるのに。


「……私は、小谷くんを情けないなんて、おm……思ってない、よ」


 風に靡いた髪を押さえながら、鯉佐木さんは続ける。

 ──とっても、優しい笑顔で。


「助けに来てくれた時、かっこよかった。ドキドキしたよ。……本当に」


「何も出来ずプールに突き飛ばされたのに……?」


「それでも」


 鯉佐木さんは何度も頷く。これは慰められているのか、本当にそう思ってくれているのか。

 鯉佐木さんは優しいからどっちも有りそうだけど、今だけは自惚れたい。


 こんなに、幸せそうな笑顔を向けてくれるんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ