15・鯉佐木さんといざプールへ。
今日はとうとう、鯉佐木さんとプールに行く日だ。しっかり泳ぎの練習を手伝って、目一杯遊んで楽しませなくてはならない──というのに。
「青雨さんの言ってたことが気になり過ぎて、下調べとか何もしてなかった……」
妹の楓には、「女の子とのお出かけはデートだと思え」と忠告されていたのに。
でもだってさ、今のままじゃ……鯉佐木さんを幸せに導いてあげられないらしいんだよ。そんなこと言われたら気が気でなくなる。
心を落ち着かせるために一時間早く、待ち合わせ場所に来たけど、もう時間がない。予定時刻の八時まで五分を切っている。
「この時間で何か出来ないか……」
「小谷くん……? もう着いてたの……?」
「おおっ!? こ、鯉佐木さんおはよう! 思ったより早かったね!」
「もう五分前だから、そんなに早くないよ……?」
「そ、そっか。そうかな。そうかもね」
キョトンとしている鯉佐木さんは、何故か制服姿だ。今日は休日なのに。
……もう合流してしまったのだから腹を決めなきゃ。後戻りは出来ないよ。
えっと。楓のアドバイス通り行動するなら、一番最初に触れるべきなのは服装とかだった筈だよね。
「き、今日はどうして制服なの? 学校は休みだよね……?」
「……え」
またしても、鯉佐木さんはキョトンとする。それからハッとしたように口元を押さえて、恐る恐る僕を見た。
「学生割引……が、つ、使える……から」
「えっ」
えっ。えっ……? 嘘? そうなの? そんなのあるの? 全然知らないんだけど。
しまった。早くも下調べをしていないことがバレた。
楓曰く、「コイツ出来ない男だな」って思われるらしいのに。
「こ、小谷くん……? 今日、t調子悪い……?」
「あっ! いやいやそんなことないよごめんね! 今のはちょっと、やらかしたなって悔やんでいただけで……」
不安気な顔をさせてしまった。それは笑顔とは程遠いでしょうバカな僕め。しっかりしろ本当に!
鯉佐木さんは優しいから、楓が言うようなことは思わないと思う。多分。きっと。少なくとも。
だからとにかく気にせずに、精一杯楽しませることに尽くそう。
「小谷くんもしかして、今から行くとこ……よく分かってない……?」
「ゔっ、はい。そうです。仰る通りです。最近ちょっと考え事してて、下調べを失念しておりました」
「大丈夫だよ……? 気にs、気にしないで。私は、その……小谷くんと遊べるだけでう、嬉しいから……」
「……ありがとう、鯉佐木さん。僕もだよ」
小さく頷いた鯉佐木さんは、ちょっと照れちゃったのかこっちを見ない。僕も少し照れくさいから、気持ちは分かる。
何だろうやっぱり、鯉佐木さんと二人切りだと気分がいい。青雨さんが悪いとかではないけど、こういう空気の方が好きなんだ。
鯉佐木さんは美人だ。そして可愛い。
それは、僕だって心から思ってること。勿論容姿だけの話じゃない。
でもそんな鯉佐木さんと一緒に遊ぶんだから、ちょっとくらい緊張するのは当たり前だよね。うん当たり前だ。
──だから、少しくらいドキドキするのも、普通なんだよ。
「鯉佐木さんの水着姿……なんて言うかその……えっと……」
気づかなかった。鯉佐木さんと一緒にプールで遊ぶってことは、近距離で水着姿を見ることになるんじゃないか。
覚悟も出来ていないまま、優しめなビキニを着た鯉佐木さんとご対面。
「……?」
肩を震わせて、今にも泣き出しそうなくらい不安に満ちた瞳を、じっと向けられる。これは僕が悪い。僕がパッと評価してあげられないのが悪い。
ごめんね鯉佐木さん。でも、本当に心臓バックバクで……。
「こ、小谷……くん。どど、どうですか……?」
「そ、そうだね。えっと、その、アレ。うん、えっとね──と、とってもお似合いでございまするです……っ」
「あ、りがと……ぅ」
鯉佐木さんが、耳まで真っ赤になった。きゅってパーカーのフードを握り締めてるけど、耐えてるのか隠そうとはしない。
因みに、僕も茹でダコみたいになってる自信がある。
女の子の身体は妹で……まぁそこそこ程度には見慣れてる筈なのに、何だか破壊力が凄い。見たいけど直視出来ない。
「小谷くん……は、上、脱がないの……?」
「あ、えっとぉ……」
鯉佐木さんに指摘されて、完全に我に返った。そう、何と僕もパーカーを着ているのです。
ちゃんと水に浸かるつもりだけど、やっぱり怖いんだよね。
──腹筋が割れていないだけで、笑われるの。
「ここ、派手に泳いだりしない限り着ててもいい場所あるみたいだから、これでもいいかなって。その、鯉佐木さんだけ水着って何か申し訳ないけど……」
「小谷くんにも、脱いで欲しい……」
「うっ……だよね、一人だけは嫌だよね。不公平だもんね。……でも」
「……? 私みたいに、見られるの恥ずかしい……?」
「う、うん」
鯉佐木さんとは、違う理由なんだけどね。
鯉佐木さんは美人だから目を引く。だからきっとそれで恥ずかしいんだよね。ジロジロ見られる訳だし。
でも、それは僕とは違う。僕のは前向きな理由じゃないんだ。
ひょろっとした肉体を蔑まれるという日々を、過去に送ってしまったのが原因なのです。
「じゃあ、鯉佐木さんにこっそり……。耳貸してくれる?」
「えっ…………うん」
「失礼します」
目を強く瞑った鯉佐木さんに近づいて、この賑やかさでも聞こえると思うくらいの声量で、本当のワケを伝えた。
耳打ちをしている間鯉佐木さんがプルプル震えてるの、凄く罪悪感が湧いたよ。
──して、反応は。
「かわ、いい……よ? 私は気にならない……よ?」
「あはは、そっかー……」
鯉佐木さんには時々、強めに指摘しておきたいこともある。
男に「可愛い」は! 褒めてないってぇ!




