14・鯉佐木さんと一生の友達
友人達とテキトーに別れた青雨さんに連れられて、デパートの屋上にやって来た。ここはレストランのテラスでもあるけど、一部だけ自由に利用することが出来る。
「ほい、レモンサワー」
飲み物を奢ると言っていた青雨さんは、帰って来るなりトンデモ発言をしたのだった。
思わず、目を見開く。
「それってアルコールドリンクじゃ……」
「冗談だから。アイスレモンティーだよこれ。大丈夫? 飲めないとかあった?」
「いや、飲んだことないからアレだけど……多分大丈夫。それにせっかく奢ってもらったんだし、ちゃんと飲むよ」
「そっか、それならいいや〜」
まずは一口。……こういう味なんだレモンティーって。なるほど。微妙だ。
僕の正面に座った青雨さんは、アイスカフェオレを静かに飲む。髪を右手で押さえる姿は、普段の青雨さんとは違った印象を持てる。
ストローから口を離し、一息ついた青雨さんがニヤリ……と僕を見つめた。
「コイちゃんの誕生日プレゼントのために、バイトね〜。中々良い奴じゃん耕介」
「うっ……。だって、友達だし。誕生日くらいお祝いしたいよ」
「だよねー。てかコイちゃんって誕生日いつなん?」
「十二月らしいよ。……あっ、何日かまでは教えてもらってない」
「えー、間抜けだね耕介」
「……」
だって、あんな楽しそうな鯉佐木さんの邪魔はしたくないし。珍しいよ? ガッツポーズまでしちゃってさ。
日にちのことは後で訊いてみよう。もうチャットが使えるんだし。メール出来るんだし。
「……にしても、耕介からコイちゃんにプレゼントか。コイちゃん、嬉し過ぎて泣いちゃうかもね」
何だか憂いを帯びた顔をしている青雨さんは、小さく溜め息を溢す。
それ、泣かせるくらいだったら渡すな的な意味ですか?
「……でも、泣きはしないと思う。確かに、好きな物を誕生日に貰えるって凄く嬉しいと思うけど、そこまで感極まることでもなくない?」
「……んま、耕介にはまだ分からなくていいと思うよ。いつか気づけばそれでいい。気づかずにコイちゃんとお別れ〜なんてした日には、ともが黙ってないけどね」
「そ、それは結構理不尽じゃ……」
「コイちゃんを裏切らなければ、いいって」
青雨さんは、苦笑しながら溜め息を吐いた。その言葉は前にも言われたから、分かってるよ。
「裏切らない。少なくとも、意図的には絶対に。何かを見逃してしまうことはあると思うけど、それ以外で裏切るつもりは一切ないよ。鯉佐木さんは僕にとって大切な人だから」
「……へぇ。そっか。んじゃあ訊くけど、耕介にとってコイちゃんってどんな存在なの?」
「存在……?」
その訊き方から察するに、もうちょっと詳しい表現が欲しいってことだよね多分。先に「大切な人」だって言ったんだし。
僕にとって、鯉佐木さんはどのように大切なのか。今……若しくはこれから、どんな存在になることを望むのか。
──そんなの、決まってる。青雨さんもきっと、この答えを待っている筈だ。
「青雨さん」
「うん」
「僕にとって鯉佐木さんは──」
青雨さんがいつになく、真面目な表情になった。
分かってる。その期待は裏切らない。鯉佐木さんのことだって、絶対に裏切らない。
「──一生の友達だよ」
……よし、噛まずに言えた。これはとってもスッキリするね。言いたいことがちゃんと言えた時って、何か達成感が凄い。
青雨さんは、僕が鯉佐木さんを裏切ることがあれば、地に埋めるだろう。それは絶対に嫌だ……というか、さっきも言ったように裏切るつもりは全くない。
何故なら僕は、鯉佐木さんと一生の友達という関係を築くつもりでいるから。
一生。そう一生だ。死ぬまで。
裏切ることはないという意志を示した、最高の解答が出来たと思っている。
「おら」
「ぁいたっ!? 何で!? 何で殴られたの!?」
「全く……耕介って思いの外ダメダメ野郎なんだね。期待して損した。それじゃ──いつか絶対にコイちゃんを裏切ることになるんだっつーの」
「……え」
最高の答えを出したつもりが殴られ、呆れられた。しかも、絶対に裏切らないことを提示したのに、絶対に裏切ると言われてしまった。
何これ。どういうことなのかさっぱり分からない。誰か簡単に説明してくれないかな。
無言で立ち上がった青雨さんは、何処か別の場所に目をやりながら、深呼吸をする。再び向けられた瞳は、物憂げに見えた。
「そこまではともも縛れないし、縛りたくない。最後に選ぶのはともでもコイちゃんでもなくて、耕介だし。でも」
青雨さんは一拍置くと、僕に背を向ける。そして、
「今のままだったら、コイちゃんを笑顔にすることは叶わないと思う」
──そう冷たく、たった一言吐き捨てて去って行ってしまった。
今のままなら、鯉佐木さんを笑顔に出来ない……? プレゼントが悪いの? それとも、一生の友達を願われてはいない?
だとしたら、「裏切るな」の意味を教えてよ。困惑させるだけにしないで、少しくらい助けてくれてもいいじゃん……言えないけど。
「まずい、お手上げだ……」
僕は鯉佐木さんをちゃんと、幸せに導いてあげられるのだろうか。




