12・鯉佐木さんとおっかい〜もの〜(お買い物)2
女子の水着って、こんな感じなんだぁ。見た目だけなら僕は、下着とあんまり区別つかないなコレ……。
どうしよう、どれがいいか訊かれても難しい。
「鯉佐木さん、的には……どれかいいのあった?」
「あ、えっと……」
鯉佐木さんは慌てて、水着コーナーを物色する。アレ? 僕の方が真剣に見てた? もしかして。
「……小谷くんは、どれが好き……?」
「ぉええっ!?」
嘘でしょ、まさか初めから僕に降って来るなんて。
……いや、むしろそれが当然なのかも。鯉佐木さんは自信がないんだから、他の誰かに選んでもらう方が楽だって可能性はある。よね。
こういう場合、鯉佐木さんに似合いそうなのを探すんだよね。かと言って、鯉佐木さんの身体をジロジロ見るわけにはいかないし……。
「こ、鯉佐木さんは何色が好き……?」
鯉佐木さんの好みを聞いて、絞って行こう。もうダメだ僕は。
質問に質問で返された鯉佐木さんは、不安そうな顔になって俯いた。本当にごめん。
「こ、小谷くんの好きな色は……?」
まさかの質問返し返し。
その質問なら簡単に答えられるけど、それじゃ僕の好みを絞ることになっちゃう。今選んでるのは、鯉佐木さんが着る水着なのに。
「えっと、鯉佐木さんはどういうのか着たいとか、ない? あったら訊かない……かな」
「えっ……と、その……私は…………」
指を絡めて、もにょもにょしてる鯉佐木さん。何か変なことを言った訳ではないよね、僕。
鯉佐木さんの場合はやっぱり、『決まらない』んじゃなくて『特にない』だと思うんだよね。それでも一応気を使いたくてっていう、僕とは違う考えなんだ。
──アレ? ちょっと待って?
「もしかして鯉佐木さん、僕の好みに合わせようとしてくれてる……?」
「……っ!」
鯉佐木さんの顔が、見る見る真っ赤になって行く。これは図星かな。
ほら、僕だけが鯉佐木さんとプールに行く訳でしょう? 勿論プールには他に沢山の人がいるけど、会話を交わすことはない。
だから鯉佐木さんは、僕に気を使おうとしているんだ。
「でもそれじゃ鯉佐木さんの好みとは違っちゃうかも。いいんだよ僕なんか気にしなくて。自分が好きなのを選んで」
「…………」
「……アレ?」
「コレにします」
鯉佐木さんが、スっと冷めた表情になった。テンションが最低まで下がったみたいに、ボソッと呟いてる。
掴んだ水着も、暗い気持ちを表すかのように真っ黒。鯉佐木さんが好きな色が、黒だとは思わない。それより、
「鯉佐木さん、えっと……それちょっと、サイズ合わないんじゃ……?」
失礼だとは思うけど、明らかに大きいんだよねその水着。多分、青雨さんくらいじゃないと合わないんじゃないかな。
水着をパッと戻した鯉佐木さんは、自身の胸に手を乗せて、更に下を向いた。
「私は、小さいから……」
「えっ。い、いや小さくはなくない? ぼ、僕には胸のサイズなんてよく分からないから何とも言えないけど、うん」
「小谷くんは……私、どのくらいだと思う……?」
「ゑ」
ど、どのくらい……? それは、アレですか? A〜B〜とかで表すサイズのことですか?
全く分からないんですけど。
「ていうか、それセクハラになったり……」
「しないから、言ってみて……?」
「し、C……?」
「……B」
「……」
テキトーに言ったら、鯉佐木さんはどんよりとしたオーラを出した。
だって、女子の身体を……まして胸をそんな、しっかり見れる訳ないじゃん! 見ても分からないけど! どれがどうなのか全く分からないけど!
──結局、水着はサイズで目立ち難そうなのを選びましたとさ。因みに僕は昨年学校で使った物にする。
「鯉佐木さん、はい。買って来たよポテトとレモンティー」
「……」
コクン、と、無言で返事をされた。コレは確実に、やってしまったでしょう。
何でだろう。僕なりに結構頑張ったと思うんだけど、鯉佐木さんはお気に召さなかったってことだよね。
女心は難しいって聞くけど、本当だったんだね。
「あ、そうだ。まだ決めてなかったよね……? プール、いつ行く?」
空気が重いのが耐えられなくて、強引に話題を出してみた。そこのところまだ話してなかったし。
プール自体は、隣町にある施設ってことになったんだけど。
「……期末考査、終わってからなら」
「じゃあ六月の二週目以降かな。でもそうしたら、先にプールの授業始まるんじゃない? その場合、普通に学校でも入れるよ?」
遊べはしないけどね、あくまで授業だし。自由時間があったことはないし。
鯉佐木さんは考え込むようにしつつ、ポテトを咥える。咥えただけで食べ進めはしない、中々見ない光景だ。
「じゃあ、来週の土曜日……どうですか」
「あ、いっそ早める? オッケー。僕は暇だし、問題ないよ。後は集合時刻とか決めちゃおっか。朝から行くなら、移動時間も考えて八時〜九時がいいかも」
「……八時でいい……?」
「うん、いいよ。待ち合わせ場所は今日と同じでいい?」
「……」
鯉佐木さんが頷いたのを確認して、スマホのメモ帳に記載して行く。それを鯉佐木さんに送信して完了。
今日は、お昼ご飯を食べて直ぐお開きってことになった。いつもより、一緒にいる時間が短く感じる。
「それじゃあ鯉佐木さん、また月曜日学校で」
「……またね」
学校の時と全く同じように、そそくさと歩いて行く鯉佐木さん。
今日はまだまだ明るいから、送らなくていいと言われた。あんまり、家遠くないんだけどね。
姿が見えなくなるまで見送ってたら、スマホが通知を受け取った。一応分かってたけど、鯉佐木さんからのメッセージが届いてる。
「『水着は、小谷くんが好きなのを着たかったです』……? ありゃ?」
もしかしなくても、鯉佐木さんが機嫌を悪くしたのって……僕の判断ミス?
アレって、身なりに気を使いたかったというより、僕の好みの水着を選びたかったの?
「……うわぁ、本当にごめんね鯉佐木さん」
慌てて、長々と謝罪文を送った。




