10・鯉佐木さんは運動が苦手
「今日も三人で勉強会かぁ」
サッカーの授業。
今は自由にパス連とかでもしてろと言われ、各々が好きに組んで楽しんでいる。用事で先生がいないからと話してるだけの人もいる。
そんな中僕だけは、女子の方と隔てる塀がお相手。いつもありがとうね、お陰でサボらずに済んでるよ。
「三人って言っても、青雨さんは基本的にスマホ弄ってるだけだし、実質二人だけが勉強してるんだよね」
隅の方にいて一人だけ離れているから、小声で独り言。決して寂しいからではなく、退屈なのを紛らわすためです。
……女子と合同だったら、鯉佐木さん辺りが相手してくれるのかな。
何でこんな、向こうが見えない高い塀で分けてるんだろう。
「何か、昔カップルがイチャついて授業にならなかったのが原因らしーよ」
「へぇ、そうなんだ。先生の言うこと聞かない人達だったのかな」
「じゃん? こんな処置が決まるくらいだし」
「いい迷惑だね……」
「ねー。そもそも何で男女で分けんだか」
「それは多分、体格の差があったり……後はやっぱり、身体の違いとかじゃないかな」
「あー、弾みで胸揉んだりとか?」
「……あるのかなそれ。でもわざとやりそうな人はいるよね。ところで青雨さん何で僕がここで独り言呟いてるの分かったの?」
「勘」
「おお……」
勘かぁ、それは素直に凄い。しかも丁度僕が声に出してない時に、声に出してない内容に平然と返して来たよね。
「ま、嘘だけど。偶然近く通って、声が聞こえたってだけ。どーせ独りだろうとも思ったし」
「そ、そっか」
何か、「ひとり」って部分に若干悪意を感じたのは気の所為かな。気の所為だといいな。
ところで、
「青雨さん、今何してるの? 息も切らしてないみたいだけど……もしかして、さ、サボって……」
「は? 今は休憩時間なのこっち。言っとくけど隣にコイちゃんいるかんね」
「えっ!? 鯉佐木さんいたんだ!? 全然分からない……」
「コイちゃん、何か言ってやりな」
「……こ、こんにちは」
「こんにちは鯉佐木さん」
いやぁ、まるで一人でいるかのような感じだったから、鯉佐木さんもいたなんてさっぱり気づけなかった。一言も喋ってないし。
女子もサッカーだっけ。休憩時間ってことは、こっちとは違う内容なのかな。
「そういや耕介さ、今暇?」
「いや、授業中だよ……」
何でそんな当たり前なことを。青雨さんやっぱりサボってたりしない?
……鯉佐木さんがサボる訳ないし違うか。
少し不思議に思っていたら、青雨さんの少し苛立ったような溜め息が聞こえて、ボールを蹴り損ねた。
「あのさ、んなこと分かってんの。三時間目は三十分まででしょ。まだあるし」
「ご、ごめんなさい。でも、だとしたら何で?」
「コイちゃんが転んじゃったからさ、保健室連れてってあげて欲しいんだけど」
「えっ」
鯉佐木さん、転んだの……? 保健室にってことは怪我したってことだよね。心配だなぁ。
でも、
「それなら、青雨さんか……もしくはそっちの誰かが」
「バカなの? コイちゃんは耕介に連れてって欲しいに決まってんじゃん」
「えっ」
僕が反応した一瞬後、鯉佐木さんの驚いた声も聞こえた。てことは違うよね? それテキトー言ってるよね?
もしかして、動くのが面倒だから頼みたいんだとか、言わないよね……?
「ね? コイちゃんそうっしょ? ともとか他の女子よりは、耕介と行きたいっしょ?」
やめてあげて青雨さん。鯉佐木さんは、そういう風に圧をかけられるのとか苦手だから。得意な人はいないだろうけど。
僕や鯉佐木さんは、自分に自信がない。だから「?」攻撃には弱く、首を横に振れなくなるんです。
「……はい」
ほら、鯉佐木さんも認めちゃったでしょう? 結構怖いんだよそれ。
青雨さんも、強制したつもりはないのかも知れないけど……
「小谷くん、お願い……出来ますか……?」
「えっ。ほ、本当だったの?」
「……うん」
……なるほど、言わされた訳じゃないんだ。普通に僕がよかったんだ。それはそれで青雨さんが可哀想な気が……っていうのは置いておこう。
でもやっぱり、殆ど会話したことない人違よりは、一年かけて打ち解けられた僕の方が気が楽なんだね。分かるよ、その気持ち。
僕も今、鯉佐木さんが結構恋しかった。
「じゃあ、行こっか。青雨さんそっちの担当にお願い」
「ほーい。コイちゃん気をつけなね」
「……はい」
──保健室に辿り着く前に、男子の方の体育教師と遭遇した。経緯を話したら一応納得してくれたけど、一人で玉蹴りしてたことに対しては怒られた。
「……はい、コレでいいかな。鯉佐木さん、もうちょっと気をつけてね」
「……はい」
保険医にクスクス笑われて、鯉佐木さんはしゅんとしてしまった。何とか励ましてあげたいけど、気の利いたことは思い浮かばない。
因みに、怪我は膝。結構血が出てて、痛々しかった。
「……鯉さ」
「小谷くん、ありがとう。私、運動……苦手、で」
おっと、被せるとこだった危ない危ない。そんなミスは許さないぞ僕。鯉佐木さんが自分から話しかけて来る場合は、そこまで落ち込んでいない。去年学習した。
だから、いつも通り返すだけ。
「一年生の時も、水泳が苦手って言ってたもんね。……あら、もう夏になるから水泳の授業があるかも」
「……うん」
この学校、室内プールで水泳の授業をするんだけど、何故かそこは男女同時なんだよね。隔てるか時間をずらすかした方がいい気がするんだけど。
女子の中には、男子からの視線が気になり過ぎて集中出来ないって人も、いるみたいだし。
……まぁ、そうだね。誰よりも視線を浴びるのはきっと、鯉佐木さんなんだろうね。
「小谷くん」
「ん? 何?」
かく言う僕も、鯉佐木さんは自然と目で追っちゃうため、他の男子同様の目的で女子の方を見てるって思われた。
だって心配なんだもん。ほらこんな、不安気な目をしたコだし。
「私と、プールに行きませんか……?」
「うん、そうしよっか────ん? ごめん一回確認していい? 何て?」
軽く返事をしてしまったけど、脳内でリピートしたら驚愕せずにいられなかった。
普段だったらなるべく聞き返さないようにしてるんだけど、今回は無理。
「私と、プールに……行きませんか……?」
鯉佐木さんと、プール……!?




