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こっちのみち

 歌とダンスが好きな、琴音という女の子がいました。

 みんなからは「こっち」という愛称で呼ばれていました。

 お友だちよりも一回り小さな体のこっちでしたが、歌をうたい、ダンスをおどるその時のこっちの体は、とても大きく見えました。

 そんなこっちが誕生した時のことを、こっち自身も覚えてはいませんが、気がついた時にはもう、歌とダンスが大好きになっていました。

 魔法をかける力まではこっちも持っていませんでしたが、本当にいつもと同じこっちなのかとおどろいてしまうくらい、その歌は明るく、そのダンスは胸をはずませる、みんなにとって欠かすことのできない大切なものでした。

 自分のことを見てみんなが笑顔をうかべてくれると、こっちもニコッと同じ笑顔をうかべました。

 それがうれしくて、いつしかこっちはその小さな足で、もっと自分を求めてくれる町へと進みたいと思うようになりました。

 お父さんやお母さん、生まれた時からずっとそばにいた幼なじみたちは、当然素直に送り出してあげることができませんでした。

「こっち、本当に行っちゃうの?」

「こっちがいなくなるとさみしくなっちゃうよ」

「こっち、行っちゃいやだ。お願いだから行かないで」

 そんな言葉が、こっちの小さな体を取りかこみました。

 こっちはこの町の人気者でした。

 誰もがこっちの歩む道の中に、自分の人生も置いていました。

「みんな、ありがとう。あたしもみんなの前から離れることはさみしいよ。今この瞬間も、これから歩く道のことを考えると、少しだけ怖く感じる。でも決めたんだ。あたしはもっとたくさんの人に、この歌とダンスで笑顔を届けたいって。その人の道のはじまりに、あたしはなりたいの」

 覚悟を決めたこっちの顔は、まるで鬼退治に出かける昔話のヒーローのようでした。

 それでもこの女の子に似合うものは飛びきりの笑顔でした。

「みんな、じゃあね。大きくなって、かならず帰ってくるから」

くしゃくしゃになるまで笑った顔で、こっちはみんなに手をふりました。

 きっとこれから楽しいことばかりが起きないということは、この笑顔の持ち主も痛いほどわかっていました。

 それでもただ、そうまでしてでもただ、その女の子には進みたい道がありました。

選んだ道がありました。


 こっちはたくさんの町でうたい、おどりました。

 雨の日も風の日も、むしろそういう日だからこそ、そうした日もありました。

 ふるさとのみんなの顔がそばに来た時も、こっちは目の前の見たこともない景色を見つめました。

 自分に向けてくれているみんなの瞳を見ていると、泣くことなんてできませんでした。

 自分がこの町にやってきた理由をグッとかみしめると、こっちはキリッとくちびるをつり上げ、得意の笑顔でみんなにほほ笑みました。

 行く先々で出会ったいろんな表情をうかべた人たちのことを、こっちはその歌とダンスで魅了してきました。

「こっち、ありがとう!」

「こっち、とてもよかったよ!」

 そんな言葉を聞けたらもう、こっちも胸をおどらせることしかできませんでした。

 自分の歩んできた道がこれでよかったんだと、こっちは差し出された手をにぎりしめながら、いつもうれしく感じていました。

 いくつもの道を迷いながら、でも最後には笑いながら、こっちは生まれ育った町との距離を遠くしていきました。

 みんなに見せる背中も、気がつけばとても大きくなっていました。

 そういう道の中で、こっちは約束の地がもう間もなくなんじゃないかとさえ思うようになりました。

 事実、笑うとなくなるその瞳の視界は、めぐりめぐって、今まさに見なれた景色の入り口をぼんやりと見渡せる位置にまでやってきました。

 こっちはいくつにもわかれた道の上で、自分のことを求めてくれるただひとつのそれを、迷いながら、そして最後は迷わずに選びました。


 暑かった夏がその終わりへと向かう、ある晴れた日。

 いつものように、こっちはみんなの前で歌をうたい、ダンスをおどっていました。

 その光景はいつもそこにあるものと同じで、みんなが同じ笑顔で同じ時間をしあわせにすごしていました。

 たとえ涙があったとしても、それを乾かせるだけの場所が、こっちを取りまく道の上にはありました。

 それは小さな体で生まれてきたこっちが、何度も何度も築き上げた自慢の時間でした。

 一度も変わることのなかった、とても大好きなものでした。

 だけど今日はいつもとはちがって、特別な日でした。

 こっちはとうとう決めました。

 この町のみんなにさよならをしたら、生まれ育った町のみんなに会いに行こうと。

 身長も体重も、あの町に背中を向けた日からさほど変わることはありませんでした。

 でも、見ちがえるほどに大きくなったものがありました。

 数字で証明できるものではありませんでしたが、こぼしたほほ笑みと、涙の数がきっとそうしたんだと思います。

 たくさんの物語のページを刻んだこっちには、約束の場所へと直進できる道がありました。

 誰からも引きとめられない自信が、こっちのその体の中と外にはありました。

「こっち、ありがとう! とても楽しかったよ。また会いにきてね。約束だよ!」

 はじめて会った知らない町の人たちにも、自分のこれまでとこれからを見せることができたことを、こっち自身もとてもしあわせに感じていました。

 いつまでもそんな日が続けばいいと思いました。

「みんなどうもありがとう。おかげさまであたしもとても楽しかったよ。また会える日まであたしのことを忘れないでね」

 冗談っぽく、わざと大げさに、こっちはそんな言葉を届けました。

 その人たちがしっかりとその意味を受け止めてくれる人たちなんだということを、こっちはわかっていたからです。

「それじゃあね。また会いにくるよ」

 おたがいの信頼感が作るさよならの先にひろがる世界を、こっちは少しだけぬれた瞳で見つめていました。

 覚悟を決めても、それでもまだ、お別れの時はいろんな感情がこみ上げてきて、どうしようもありませんでした。

「みんな本当にありがとう。絶対また会いにくるから。この町に帰ってくるから」

 自分にしか聞こえない音量でそうつぶやいたこっちは、ひんやりとしたものが伝ったほっぺたに手をあてて、これから歩む道を見つめました。

 青空の向こうにまで続く道が、そこにはひろがっていました。

 お父さんやお母さん、大好きなお友だちの顔がそこにはありました。

 そしてその中の一番手前、近すぎて逆にすぐに気づかない位置に、こっちよりもうるんだ瞳がありました。

 こっちよりも小さな体の女の子のそれでした。

「どうしたの?」

 みんなが家路へと足を向ける背中を反対にして、こっちは膝を曲げて、その子の涙の生まれる瞬間を見つめました。

「ねぇ、泣かないで。何で泣いてるのかあたしに教えてよ」

 お姉ちゃんのまなざしで、こっちはその女の子の頭をなでてあげました。

 でもしばらくは、このお姉ちゃんの顔は困ったままでした。

 お姉ちゃんのどんな呼びかけにも、妹は泣き声でしか応えることができませんでした。

 その子のことをきらってしたのではないため息をついて、こっちは折り曲げていた膝を元に戻して、視界の奥の青空を見つめました。

 手をのばせば、すぐにでも誰かに引っぱってもらえるような、そんな感覚がありました。

 そしてそのままゆっくりと、その空に右手をのばそうと思うよりも先に、こっちはその手を胸にあてて大好きな歌をうたいました。

 生まれ育った町から遠く離れたこの町にやってくるまでに、何度もうたった歌です。

 聞いてくれた人の心を何度も笑顔にしてきた歌です。

 小さかったこっちが見ちがえるほどに大きくなった歌です。

 こっちにとっては自信以外の何物でもない、そういうものでした。

 当然目の前の泣き顔の女の子のことも、一瞬で笑顔に変えられると、そう思ってうたがいませんでした。

 歌だけで変えられないなら、もうひとつ、得意のダンスもつけて。

 こっちはこれも何度も刻んできたステップを踏みました。

 踏めば踏むほどに、こっちは笑顔になっていきました。

 でもその瞳で見つめた視界に映る女の子のことを、こっちは自分の世界に引きこむことができませんでした。

 築き上げてきた自信が、一瞬にしてくずれ落ちそうになりました。

 こっちはたまらず、両足の動きを止めました。

 異変に気づいた女の子は、おおっていた両手をその顔から離しました。

 でも今度はこっちのほっぺたに、さっきよりもあたたかい涙がこぼれ落ちてきました。

 この女の子と同じ年の頃の自分に戻ってしまいそうな、そんな感覚でいました。

 もう一滴しずくがこぼれると、そのつめたい感覚に鳥肌が立つのをおさえられませんでした。

 こっちははじめて、自分が選んだ道を後悔しそうになりました。

 その瞬間の本当に一瞬の前の時間に、こっちの胸の中に女の子の小さな体が飛びこみました。

 おどろきをかくせないでいるこっちを置いて、女の子は泣き声まじりの大きな声でこっちにすがりました。

「おばあちゃんが! ゆゆのおばあちゃんが死んじゃうよ!」

 その切実すぎる言葉に、こっちはうるんでいた瞳を一瞬にして乾かしました。

「あたしの大好きなおばあちゃんが病気で死んじゃいそうなんだ! そんなの絶対いやだよ! おばあちゃんとずっと一緒にいたいよ!」

 やっと聞くことができた、「ゆゆ」という名前の女の子がくり出すその言葉を整理するのに、こっちは意外にも時間をかけることはありませんでした。

 ゆゆの頭をなでてあげると、こっちはやっぱり、お姉ちゃんのまなざしで言いました。

「ゆゆのおばあちゃんはきっと大丈夫。だからもう泣かないで。ゆゆがそんなに泣いてばかりだと、おばあちゃんだってうれしくないよ」

「それじゃあ!」

 ゆゆはこっちの言葉に、ひとつの間隔もあけずに返事をしました。

「こっちの歌とダンスをおばあちゃんに見せてあげてよ! みんなにしてくれたのと同じように、おばあちゃんのことも笑顔にしてあげてよ!」

 こっちはその言葉に、ただただびっくりしました。

 自分のことをこんなにも思ってくれている人が今目の前にいるんだということに、こっちはおどろくことしかできませんでした。

 その体中すべてのものから生まれたいろんな感情のめんどうを見てあげることに、こっちの体は精いっぱいでした。

 でも、ゆゆにはそんなこっちの体の中のことなど知るよしもありませんでした。

「こっち、早く!」

 こっちの手をつかんで、ゆゆはおばあちゃんのいるお家への道を走りだしました。

「ちょっと、待って!」

 ゆゆがうかべた不安そうなその表情を、こっちは一度目を閉じてから見つめました。

 こっちにもついさっきまで決めた道がありました。

 こっちにも会いたい人がいました。

 長い旅を終えて、やっと今、会ってもいいと思えるようになった宝物を、こっちはギュッとにぎりしめました。

「こっちはみんなのことを笑顔にしたくて、この町にやってきたってうたってたじゃんか。あれはうそなの? 本当なんでしょ。早くおばあちゃんのことを元気にしてよ。笑顔にしてよ!」

 まっすぐ前だけを見つめてさけぶゆゆの声に、こっちは息をのんで返事をすることしかできませんでした。

「ゆゆはこっちの歌とダンスを見て思ったの。こっちなら絶対におばあちゃんのことを笑顔にしてくれるって」

 こっちの瞳から涙がこぼれました。

「お願い! おばあちゃんを助けてあげて!」

 こっちの涙は大きくなりました。

 それを知ってか知らずか、ゆゆはつないでいたその手に、もっと力をこめました。

 それと同時に、これからこっちが歩くはずだった道が、その視界からどんどん遠ざかっていきました。

「おばあちゃん、もうすぐ会えるからね」

 ゆゆの命の通った声に、こっちは深呼吸をして、覚悟を決めました。

 あの日と同じ表情のこっちがいました。

「待って!」

 こっちはつながれていたゆゆの手を引っぱるように、その場に足を止めました。

 おくびょうで不安げな表情のゆゆに、こっちは得意の笑顔をこめて言いました。

 そこにはもう、何の迷いもありませんでした。

「おばあちゃんに会いに行こう。あたしがかならずおばあちゃんのことを笑顔にしてみせる。ゆゆのおばあちゃんを死なせたりなんかしない。ゆゆのことを絶対にかなしませたりなんかしない」

 きっとこれがはじめて、ふたりがおたがいの瞳を見つめあった瞬間でした。

 ふたりが信じた道には光しかないと、ふたりとも感じました。

「行くよ!」

 ゆゆに引っぱられていた手を、今度は逆にこっちが引っぱって、ふたりは走りだしました。

 きっとそれは錯覚なんでしょうが、ふたりの背中に羽根が生えたかのように、こっちとゆゆは選んだ道を一緒に駆け抜けました。


「おばあちゃん! こっちを連れてきたよ! これでもう大丈夫だよ!」

 おばあちゃんが眠るベッドのまわりを、おばあちゃんの家族やお友だちが取りかこんでいました。

 はじめて見るいくつもの瞳が、ゆゆの連れてきたヒーローを怖い目つきで見つめていました。

「ゆゆ、この女の子は誰なの?」

 ゆゆのお母さんがそうたずねました。

 そしてその返事をしたのは、ゆゆではなくこっちでした。

「あたしの名前は琴音です。みんなからはこっちって呼ばれています。ゆゆからおばあちゃんのことを聞きました。あたしがおばあちゃんのことを笑顔にしてみせます」

「そんなのどうやって?」とみんなが鼻で笑いました。

 そのつめたい笑みに、ほっぺたをふくらませたゆゆのことを、ゆゆのお父さんが抱きしめてあげました。

「こっち、おばあちゃんのことを笑顔にするって言ったけど、どうやったらそんなことできるんだい? 君はもしかして魔法使いなのかい?」

 今度は声を出して笑う大人たちのことを、こっちはニッコリとほほ笑んで見つめました。

 どんな形であっても誰かが笑ってくれたのなら、こっちにとってそれはもう、とてもしあわせなことでした。

「しー」

 人差し指を鼻のてっぺんにあてて、こっちは深呼吸をしました。

 大人たちは半袖のシャツからのぞく両方の腕に、鳥肌を立たせました。

 ワン、ツー、スリー。

 リズムを整えて、こっちは大好きな歌をうたいました。

 みんなのことを笑顔にしたい。

 そうやってこれまで何度もうたってきましたが、それと同じくらいに、こっちはうたうことが好きだからうたってきました。

 その道のはじまりを、こっちは覚えていません。

 でもきっと、何も考えず迷わず、気がついたら歌をうたっていたんだと思います。

 その道を選んでいたんだと思います。

「ちょっと、いきなりなんなの。ここには病人がいるのよ。もうすぐ死んでしまうかもしれない、私のお母さんがいるのよ」

 ゆゆのお母さんが動揺をかくせない声で言いました。

 でもほかの大人たちは、その声よりも心に響くものを聞いていました。

 ゆゆはこっちと一緒になってうたっていました。

 二回目の目をあわせたふたりは、手拍子をまじえました。

 ふたりの明るい気持ちが、おばあちゃんをかこむこの部屋を一気に明るくしました。

 ゆゆのお父さんをはじめ、これまでだまっていた大人たちも一緒になって手拍子を送りました。

 一緒に歌をうたいました。

「あたしがおばあちゃんのことを笑顔にしてみせる。あたしがみんなのことをしあわせにしてみせる」

 こっちは両足でステップを踏みました。

 いくつもの道を歩いてきたその両足です。

 自分の居場所にとまどった表情をうかべるお母さんを尻目に、ゆゆもこっちと同じステップを踏みました。

 ゆゆも歌をうたい、ダンスをおどることがすっかり楽しくなりました。

 大人たちも一緒にダンスをおどりました。

 こっち自身も否定をしたはずなのに、その光景を見ていると、こっちは本当に魔法使いなんじゃないだろうかと思ってしまいました。

 だけどやっぱりちがうんです。

 こっちはふつうの女の子でした。

 ただ歌とダンスが好きな、どこにでもいるふつうの女の子でした。

 その子が多くの人を笑顔にできた理由は、特別なことではありませんでした。

 誰よりも飛び抜けて歌がうまいというわけではありません。

 誰よりもダンスがうまいというわけでもありません。

 本当にいたってふつうの女の子です。

 だけどこっちには決めた道がありました。

 迷わず選んだ道がありました。

 それが永い眠りにつこうとしていたおばあちゃんのことさえも、元気にさせ、笑顔にさせたのです。

「うそでしょ」

 ゆゆのお母さんが赤い目を大きくして、おばあちゃんを見つめました。

 おばあちゃんの瞳がゆっくりと開きました。

 本当にうそのようなことが起こりました。

 こっちはうたうことを続けました。

 ゆゆもダンスを続けました。

 みんな飛びきりの笑顔をうかべていました。

 ここにいるすべての人の心の中に、弱い考えなんてひとつもありませんでした。

「やったー! おばあちゃんが起きたぞー! 元気になったぞー!」

 大人たちが拍手喝さいを送りました。

 ゆゆがこっちに抱きつきました。

 そのままふたりで、おばあちゃんのほほ笑んだほおにすりよりました。

 うれしいことしかこの瞬間にはありませんでした。

 あの時選んだ道を、こっちは本当にしあわせに感じました。


「こっち、本当にありがとう! こっちに出会えて本当によかった!」

 その役目を終えた歌とダンスが大好きな女の子のことを、みんなが見つめていました。

 その中にはおばあちゃんのほほ笑んだ顔もありました。

「でも本当はほかに行くところがあったんでしょ。ごめんね。ゆゆのお願いを聞いてもらったせいで、こっちのお願いをかなえられなかったよね?」

 ゆゆの質問にまちがいはありませんでした。

 でもこっちの選んだ道にも、まちがいはありませんでした。

「大丈夫。あたしの願いごとはこれからかなえればいい。いつになったって、ちゃんとかなえるから大丈夫なの」

 いつものくしゃくしゃの笑顔で、こっちはゆゆの頭をなでてあげました。

 そのなくなった瞳で、まっすぐにゆゆの同じ顔を見つめてあげました。

「みんなありがとう。みんなに会えて本当によかった。また会いにくるから、みんなもあたしに会いにきてね。また一緒にうたっておどろうね」

 こっちはその瞳を大きくして、あらためて、ちょっとだけ遠くなった約束の場所への道を見つめました。

「あたしは歌が好き。ダンスが好き。みんなを笑顔にするのが好き。みんなの笑顔を見るのが好き。それを待っている人のところに行ってくるね。あたしが見つけた道を歩いてくるね」

 本当に、本当に大きくなった背中を、こっちはみんなに見せました。

 そしてみんなの顔が見えなくなると、やっぱり涙がうかびました。

 でも泣いてばっかりいられません。

 こっちには決めた道がありました。

 泣かないで歩くと決めた道がありました。

「みんな、さよなら!」

 大きく手をふって、こっちは新しい道を一歩踏みしめました。

 その先で待っている人の笑顔を見つめて、こっちはこの長い、とても長い道を歩きだしました。

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