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えがおのやくそく

 リトルは今日もお友だちのエミルを誘って、あそびに出かけました。

 一歳年上のエミルは、リトルにとってお姉ちゃんのような存在でした。

 エミルも甘えんぼうのリトルのことを、本当の弟のようにかわいがりました。

 ふたりともおたがいのことが大好きでした。

 でもエミルにはひとつ心配ごとがありました。

 それは自分がいないと、リトルはなにもできないということです。

 甘えんぼうのリトルは、いつもエミルの背中にくっついてはなれませんでした。

「ねぇ、リトル。もしあたしがこの町からいなくなっても、ちゃんとひとりで生きていける?」

 エミルはリトルに質問しました。

「どうしてそんなことを聞くの? ぼくたちはこれから先もいつも一緒でしょ」

 リトルはエミルにそう返事をしました。

 エミルはさみしそうな瞳をしたリトルに、わるいことを言ってしまったなぁと反省しました。

「そうだね。あたしたちはいつも一緒だもんね」

 エミルはそう言って、リトルの手をつないであげました。

 その手のぬくもりにふれたリトルは、エミルのことをもっと好きになりました。


 ある日、いつものようにリトルがエミルをあそびに誘うと、エミルはずっとだまったままでした。

「どうしたの?」とリトルがたずねると、エミルは「引っこしすることになっちゃった」と言いました。

 続けて、「ごめんね」とリトルにあやまりました。

 リトルはだまったままでした。

「リトル、ごめんね」

 エミルはもう一度あやまりました。

「あたしがいなくても、ちゃんとひとりで生きていくんだよ。泣いてちゃだめだからね」

 エミルは歯を食いしばってそう言いました。

 でもリトルはかなしくなって泣きだしました。

「いやだ、いやだ。エミル行っちゃいやだ」

 リトルはエミルにだきつきました。

 でもエミルはまた歯を食いしばって、リトルの体をはなしました。

「リトル、泣かないの。男の子でしょ。リトルが泣いてたら、心配で引っこしできないじゃない」

「引っこししなくていいもん。泣くのをやめたらエミルが行っちゃうから、ずっと泣いてるもん」

 エミルはリトルのことを困った子だなぁと思いました。

 これまではそんなリトルのことを甘やかしてきましたが、今日は心を鬼にしてリトルに言いました。

「リトル、泣いてちゃだめ。あたしもう行くから。リトルが泣きやんだら帰ってきてあげる。だからもう泣かないで。かなしくなるでしょ」

 それでも、リトルが泣きやむことはありませんでした。

「もうしらない」

 エミルはとうとう、泣きやんでくれないリトルの前からはなれていきました。

 リトルはエミルの背中が見えなくなっても、ずっと泣いていました。


 エミルがこの町からいなくなってから、長い月日がたちました。

 ひとりぼっちのリトルは、やっぱり泣いてばっかりでした。

 近所の子どもたちからもいじめられていました。

「やーい、やーい。泣き虫リトル。エミルがいないとなんにもできない泣き虫リトル」

 いじめっ子たちは、泣きだしたリトルのことを笑っていました。

「また泣いてる。泣いてばっかりじゃ、いつまでたってもエミルに会えないぞ」

 そう言って、リトルのことをずっと笑っていました。

 リトルはくやしくなりました。

 エミルがいないことや、エミルがいないといじめっ子に勝てない自分のこと。

 泣いてばっかりでなにもしようとしない自分のことが、いやになりました。

「ぼくはエミルがいなくても生きていけるんだ」

 リトルは涙をふいて、いじめっ子たちを追いかけにいきました。

「なんだよ、泣き虫リトル」

「ぼくはもう泣き虫じゃないもん。エミルがいなくてもひとりで生きていけるもん!」

 リトルはそう言うと、いじめっ子にむかっていきました。

 でもいじめっ子は、リトルをかんたんに投げとばしました。

 それでもリトルも負けませんでした。

 何回いじめっ子にたおされても、何回も、何回もいじめっ子にむかっていきました。

「痛い、痛い。まいったからゆるしてくれ」

 やりました。リトルははじめていじめっ子に勝ちました。

 エミルがいなくても生きていけることを証明しました。

 リトルはエミルがいなくなってから、はじめて笑顔になりました。


 リトルがいつも笑えるようになったある日、久しぶりにエミルが町に帰ってきました。

「リトル、聞いたわよ。いじめっ子に勝ったんだってね」

 リトルは「えっへん」と言って、胸をはりました。

 リトルはもう泣き虫のリトルではありませんでした。

 久しぶりに会うエミルに、笑顔をとどけました。

「よかった。リトルがもう泣き虫じゃなくなって」

「ぼくは泣き虫じゃないもん」

 リトルはお姉ちゃんのように思っていたエミルに、反論することもできるようになりました。

「これでもう安心ね。あたし、今度はもっと遠くの町に引っこしすることになっちゃったけど、リトルはもう平気だよね」

「うん。平気だよ!」

 リトルの胸の中には、本当は少しだけさみしい気持ちがありました。

 でも、もう二度とエミルに泣き虫の自分を見せたくありませんでした。

 リトルはもう泣き虫ではないのです。

 だからエミルに「行ってらっしゃい」と、元気よく言ってあげました。

「ありがとう。さよならの時は笑顔をもらったから、次のこんにちはの時は泣いてよろこんでね」

 エミルは冗談っぽくいいました。

 リトルはまた笑いました。

「こんにちはの時も泣かないもん。だからエミルも笑顔でぼくに会いにきてね」

 リトルはエミルに大きく手をふってあげました。

 リトルはそれから、いつもエミルとの約束を守って生きていきました。

 遠くの町に住んでいても、笑顔のぼくとエミルはいつも一緒なんだと、リトルはそう信じて生きていきました。

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